ハンバーグ屋物語(第2回)

「あなたお変わりありませんか。ここのところ寒さが」

なによこれ。これじゃあまるで「北の宿から」だわ。やっぱり最初から書き直 しだ。あーどうして私こんな手紙しか書けないのかしら。やっぱりあの人と違っ て文才ないんだわ。まぁいいわ。あの人の文才なんて、同人やってるくらいが 関の山。なのに、なんであんなに投稿してたのかしら。

「おい。しのぶ。時間だぞ」

ああ、今日もまた私を源氏名で呼ぶあの声が聞こえる。ここに来てもう5年。 そろそろ私の借金終わる頃だと思うのだけど。

「はーい。ただいまー」

ああ、でもあの人に会いたいなぁ。元気にしているのかしら。佐智子はどうし てるかなぁ。

「いらっしゃいませー」
「おー。ママー。久しぶりだねー」
「そーよ。本当にしんさんったら御無沙汰なんだから。どこかのお店の娘とい い感じになってるんじゃないの?」
「何言ってんだよ。俺はママ一筋さ」
「まー調子いいこと言って。じゃあ毎日来てくれなきゃダメじゃない」
「だってママ。この店高くって毎日来れないよ」

そう。安いわけないわ。ここのオーナーは闇金だもの。それも女ばかり狙って る。高い利息で払えなくなったら、若い娘はお風呂に、私みたいな年増はぼっ たくりスレスレのスナックをさせてる。しんさんみたいに若い人が毎日来れな いのはあたりまえ。

「ごめんねー。うちもいろいろ厳しくってさ。このビルって賃料が高くって大 変なのよ」
「そうかー。ママも大変なんだね。じゃあママ助けると思って頑張って来るよ」
「嬉しいっ☆ 本当にしんさんっていい人だわー」

賃料なんて嘘。本当は毎日オーナーがその日の売り上げを取りに来る。もちろん その中に私の貸りたお金の返済分も入ってる。

あの人のお店も、本当はそんなお店だった。前に貸りてた人はそんな厳しい取 り立てに耐えられなくて夜逃げをしたんだって。でも私は平気なんだけどな。 これくらい、結婚した頃の苦労に比べれば、まだまだよ。

でも、あの頃は楽しかったな。あの人がいて、赤ちゃんの佐智子がいて。私は 学校は行けなくなっちゃったけど、あの人はアルバイトで私達を食べさせなが らちゃんと卒業しちゃった。あんな狭い下宿で、佐智子の泣き声で勉強どころ じゃなかったはずなのに。疲れて眠いのに私の代わりに佐智子をあやしてくれ て。なんだか、ちょっと思い出しちゃうわ。

「ママー。今度一緒に御飯食べようよ」
「あらー、しんさん嬉しいわ。だけど、一緒に遊ぶんだったら私みたいなおば ちゃんじゃなくって、もっと若い娘の方が似合ってるわよ」
「またママそんなこと言ってぇ。いっつもそう言ってはぐらかそうとするんだ から。俺はママみたいな人がいいんだよ」

しんさん、最近うちに来る度に誘って来るなぁ。本当は私なんかよりも佐智子 の方が似合う歳なのに。でも、こんなおばさんでも相手にしてくれる人がいる かと思うと嬉しいわ。頑張らなくっちゃ。

「ママ。ハンバーグ出してよ。俺、ママのハンバーグ好きなんだ」

そう言えばあの人のお店。うまく行っているかしら。あの人器用な人なんだから、 ギャンブルなんかしないで一生懸命仕事していればうまく行くと思うんだけどな。 ギャンブルしたり、雑誌に投稿したり。なんであんなにいろいろ手を出しちゃう のかなぁ。