ハンバーグ屋物語(第3回)

連載ものです。第1回、第2回をきちんと読んでからお楽しみ下さい。

2003.6.22 執筆

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ピロピロピロピロッ ピロピロピロピロッ............................
ピッ!

「もしもし、佐智子です。もしもし............」

なにも言わない。。。
5年くらい前から始まったいたずら電話。昔は月に1回だったのに、最近毎日 かかってくる。気持ち悪い。



「ごめん、待った?!」
「ううん、私も今きたところ。」

今日は久々のデート。喫茶店のバイトを辞めてから、お互い忙しくなってなかなか会えない。今日も1ヶ月ぶりかな。

彼は喫茶店の店員さん。次の店長候補だってみんなから期待されてるから、今すごい頑張ってるみたい。 明るくて、仕事もできて、とっても優しい人。 私にはもったいないくらいの人だわ。彼が私に接客のノウハウを教えてくれた の。



「そろそろバイトの時間だ。」
「また、バイトかよ。今日くらい休めばいいのに。」
「ごめん。。。また夜電話するね。」

別れ際はいつも喧嘩になる。 喫茶店を辞めた理由もちゃんと話してないし、今はうちのハンバーグ屋を手伝っているって事も言ってない。 借金があるだなんて、口がさけても言えないわ。何よりあんな店、恥ずかしくて彼に見せられないもの。

全面ガラス張りでシャンデリアが真ん中にある、すごくあやしい雰囲気のお店。 これがうちの店、ハンバーグ屋「V(ふぁいぶ)」。 以前はおねーちゃんがいるクラブとして使われていたらしいから仕方がない。 何度もこの店の内装をかえる提案をしたのだけど、うちにはそんな余裕はないと父が言う。 思い通りの内装にかえることができたら、ここももっと流行ると思うんだけど。。。


今日も相変わらずお客さんが少ない。父さんもいらいらしてる。この親子連れが帰ったら今夜は終わりかしら。

カランカランッ ♪

半分ドアを開けて、女の子が店内を覗いてる。いちげんさんかな??店内を見ておびえてるみたい。あ、まずい帰っちゃう。

「いらっしゃいませ!何名様ですか?」
「え?!あっ、んと、4人です。」
「こちらにどうぞ。」
「えっ、、、はい、どうもです。」

ひそひそひそひそっ........................

なにやら、4人で話し合っているわ。まぁ、しょうがない。きっと私がお客さんでも、この店内をはじめてみたら戸惑うもの。

「あはははははは!!この店って、前は、、、、、だったんだろうな。わかりやすい。」
「そうだね。このテーブルといい、椅子といい、まったくアレだね。」
「これでハンバーグもまずかったらうけるなぁ〜。」

むっ。失礼なお客さん達だわ。そんなに笑わなくたっていいじゃない。うちのハンバーグはその辺のものとは違うのよ。 母さんが教えてくれた特別なハンバーグなんだから。

「ご注文はお決まりですか?」
「あのー、外に飾ってあったジャンボハンバーグ定食ってどれですか??」
「目玉焼きハンバーグ定食と同じです。」
「そうなんだ、じゃぁ壁に貼ってあるハンバーグ定食ってどれですか?」
「目玉焼きハンバーグ定食のことです。」
「・・・・・。」

「えっとそれじゃぁ、目玉焼きハンバーグ定食とチーズハンバーグ定食、やきそばハンバーグ定食、イタリアンハンバーグ定食でお願いします。」
「はい。かしこまりました。」

父がライスを盛り、お客さんのところへ運びに行く。

「なんでいつもそうなの?無言で出さないでよ。ライスでもお客さんのテーブルに出す時には、"ライスです"ぐらい言ってよ。接客よ。大事な接客。」

無言でハンバーグを作る父。ハンバーグの作り方を教えてくれた母さんもずいぶん前にいなくなってしまった。 ギャンブル好きの父に嫌気をさしたに決まっている。まったくどーしょうもない父だ。

「お疲れ様。ねぇ父さん、今日もまたお客さんに言われたの。外に飾ってあるジャンボハンバーグ定食はどれだ?って。 いい加減外すか、目玉焼きハンバーグ定食に書きかえない?」
「いいんだ。あれはあのままで。。。」
「父さんはいつもそう。そうやって変なところにこだわるから、みんなうまくいかなくなっちゃうのよ。だから、母さんもいなくなったんだわ。きっとそうよ。」

パシッ!

「いたっ!もういい!!」

カラン カラン カランッ! タッタッタッタッタッ...................



ふぅーー、無我夢中でいっぱい走ってきちゃった。やっと落ち着いた。

キキーーーィッ

あれ?見覚えのある黒い車。いつ見たんだろう?あ、男の人が降りてきた。どうして??私の方に近づいてくる。

「こんばんは、佐智子さん。」
「えっ?何で私の名前を??」
「君のお母さんのことで、少し相談があるんだ。」
「母さんを知ってるの??母さんは今何処にいるの?教えて!!」
「向こうでゆっくり話そう。」

バタンッ! ブォーーーーーン

この人は母さんの何を知っているんだろう?この車は何処に向かってるんだろう??勝手に来ちゃった、どうしよう父さんが心配する。


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