また小倉せんせがやっているわけだが、
匿名至上主義者には、実効的かつ受け入れ可能な対案がなく、かつ、妥協の余地がない。
まぁ前述のように、私は「匿名至上主義」ではないので、つっこむ資格はないのかも知れないけれど。
私も「匿名の粘着」には散々嫌な思いをさせられて来たので、「ネットは匿名」という幻想については支持するつもりはない。壇せんせはその一人と戦って勝ってくれたので、たいそう嬉しい。とは言え、「何がなんでもネットで実名」という「実名至上主義」にもなるつもりはない。実名がわかると嬉しいことは少なくないが、同時に実名が邪魔な時も少なくないからだ。
小倉先生をはじめとする、「実名至上主義者」達は要するに、
実名が出ると萎縮するから荒れなくなる
ということを期待しているように見える。しかし、私はそれは幻想だとしか思えない。確かに「カジュアルな人権侵害」の類はなくなるだろうが、「やる気でやってる」奴等には無力だ。そして、「やる気でやってる」奴はむしろ積極的に実名でやったりする。
私は前の会社の悪口をチクチクとここで書いていたりする。確かにこれが2ちゃんの名無しだったらもっと派手にいろいろ書けるかも知れない。しかし、どうせ出所が私だということは、情報からトレース可能だから、「匿名」にする意味がない。逆に「かつて取締役をやっていた私が実名で書く」ということは、それなりに覚悟を持ってかつ信頼出来る根拠を持って書くということで、
スルーしたくでもスルー出来ない
状態にあるわけだ。匿名よりもタチが悪い。
私が匿名でこういったことをやらないのは、いくら「匿名の卑怯者」になりたくてもトレースされてしまえば匿名の意味がないし、そのくせ「匿名情報は信頼出来ない」としてスルーされてしまうからだ。つまり、匿名では意味がないのだ。
まぁ「実効性」の有無については、「戦略」の問題だからケースバイケースだろうが、
どうせトレース出来る
というのが、「匿名攻撃」の抑止力になっていることは小さくない。
現代において、「実体をポイントできる名前」というのはプライバシーに属することだ。確かにそれ自体はプライバシーではないのだが、世の中にあふれる個人情報を名寄せしてしまうキーとなってしまう情報だから、プライバシーと同等に扱うべきである。また、「プライバシー」というのは、公共の福祉に反しない限りは尊重されるべきである。だから、「実体をポイントできる名前」を匿すかどうかというのは、個人の「プライバシー観」に依ることなのだ。
それを尊重することが公共の福祉と矛盾する事象が起きた場合、その時は「捜査権」を認めておけばいいだけのこと。つまり、トレーサビリティが確保されていれば、「公共の福祉」ということと共存可能なはずだ。個人のプライバシーである「住居」であっても、捜査令状があれば捜査出来る。それと同じことだ。
今までの「匿名」は、いくら「捜査令状」を用意しても、捜査が出来ない状態であることが少なくなかった(隠蔽や消失があった)。だから「匿名の卑怯者」に対しては泣き寝入りするしかないことも少なくなかった。そこが問題だっただけのことだ。もちろん「プライバシー」であるから、無条件に公開するべきものではない。しかし「公開を要求することの正当性」があるものについて公開出来るようになっていれば、それで十分ではないか? だから、
匿名の場合はトレーサビリティを確保せよ
というのは、「実効的かつ受け入れ可能な対案」とはならないのだろうか? 「捜査機関」が必要な時にはちゃんとトレース出来て、かつそれ以外には匿名。これなら、「プライバシー」を意識する人にも受け入れ可能だし、「捜査機関」でも困りはしないだろう。
実際のところ、私は他人の「実名」にはほとんど興味がない。つか、どうも固有名詞を把握するのが苦手だ。私の人物把握はたいていが、「あそこで、あんなことをやって、あんなことを言ってる人」という程度だ。他の人でも程度の違いはあれ、「実名」なんてその程度ではないか? 普段は「実名」と「匿名」は大差はないものなのだ。だから、別に匿名でも困りはしない。
でも、自分を殴った奴は「どこのどいつだ!」と思うのは当然だし、そいつに報復するなり、訴えるなりしたいだろう。そんな時、しかるべき手順を踏めば「どこのどいつ」がわかるなら、たいていのことはそれで足りる。
もう一つ「実名」に興味があるのは、「○○さん素敵☆」の時の「○○さん」の部分であるが、これを「○○さん」が公開したいかどうかは、その人次第 — つまりプライバシーの部分だ。私はそれで萌える人がいたら嬉しいなと思うから公開するし、「それでストーカが出来ても」と思う人は公開したくないだろう。だから、そんなものまで強制的に公開させられるのは勘弁してくれという人がいても、それはおかしなことではない。
「トレーサビリティを確保しつつ匿名」ということを効果的に行うことについては、技術的課題になるだろうが、それは単なる技術的課題に過ぎない。壇せんせの成果を見る限りでは、「現状の技術や運用でもそれなりの成果は出る」ようだ。つまり、今の普通のログ取りとログの保護くらいであっても、途中で意図的な隠蔽がない限りは、日本の優秀な警察には必要十分らしいということ。
まぁ現状、「ネットで嫌な思いをさせられた」程度では警察は動いてくれない。「嫌な思い」は主観に過ぎないから、ある程度しょうがない。また、「容疑者」であってもプライバシーは保護されるべきであるから(「容疑者」は容疑があるだけで「犯罪者」そのものではない)、無闇に警察が動くのもどうかと思う。ただ、ネットというのは、油断してると全てが終わってしまうのも速いから、「スピード感」というのも必要だ。
というようなことを考えると、プロバイダ指導のガイドラインだとかを用意するとかの他に、そういった問題が起きた時の専門の相談窓口を用意することは必要だろう。
弁護士先生達は、近い将来法曹資格者が増え過ぎることを心配されておられるようだけど、そういった人達の働く先としても、「相談機関」を作るというのは、「実効的かつ受け入れ可能な対案」ではないか。プライバシーに対する守秘義務を法的に規定されている弁護士には、実にうってつけだと思うのだけど。
>実名が出ると萎縮するから荒れなくなる
これは大嘘ですね。
実名で恨みつらみを書いている人たちがけっこういますもん(笑)
で、前も書いたかもしれませんが
私は正々堂々と実名を出しているんだから
私の書いていることは正しいのだという
勘違いした正義感気取りになったりもしますし。
あるある。そんなページ山盛りある。
実名出してりゃ何やってもいいと勘違いしてる人もいくらでもいるし。
てか、昔インターネットに実名しかなかった時代に、どんな荒れ方をしていたか都合良く忘れてるとしか思えん > 実名至上主義
書かれている内容から情報の出所の見当がつくのは、その情報に「根や葉」がある場合であって、本当に根も葉もないデマの場合、誰がその「情報源」なのかは分かりません。
また、匿名プロキシが活用された場合、公衆無線LANが用いられた場合、本人確認をきちんと行っていないインターネットカフェが用いられた場合には、IPアドレスからのトレースは事実上できません。実際、それを分かっているからこそ、他人のブログに嫌がらせコメントを執拗に投稿して言論弾圧を行おうという人たちは、きちんと匿名プロクシを活用してきます。
そういう現状を残しておきたいからこそ、私が、ネットでの発言者のトレーサビリティを高めるために共通ID制というものを提唱したときの彼らの反発というのはすさまじいものでした。
結局、彼らはなんだかんだ言ってみても、「何をしても無答責」という状況以外は受け入れられないのだと思います。そして、自分が無答責でいられるのならば、第三者も無答責でいられる結果、その第三者が特定人にいかなる迷惑をかけても構わない(その被害者が泣き寝入りをすればよいこと)ということになるのだと思います。
カジュアルな誹謗中傷を防止できることと、誹謗中傷者に対して法的権利を行使することが容易になること、の2点が実現するだけでもずいぶんと大きいです。
現時点では、自分が特定の犯罪を犯したかのようなデマをまことしやかに流されたときは、自分がその犯罪を犯していないという悪魔の証明を果たさなければなりません(いくつかのISP等は、自分がその犯罪を犯していないとの公的な証明書を提出してこない限り発信者情報の開示には応じられないとして、デマの流布者を徹底的にかばいます。)。
> 匿名プロキシが活用された場合
ですから、「匿名プロキシ」の類はトレーサビリティを確保しろということです。
> 共通ID制
それは「誰にでも」トレースされてしまうからです。IDは誰にでも名寄せ可能ですから、実名を晒すことと技術的な違いありません。
> カジュアルな誹謗中傷を防止できることと、誹謗中傷者に対して法的権利を行使することが容易になること、の2点が実現するだけでもずいぶんと大きいです。
「その程度」のことに比較すれば、払う犠牲(コスト)の方がはるかに大きいと思いますが。
> デマの流布者を徹底的にかばいます
ISPにしてみれば、「より身近な敵」になりうる対象ですし、「お客様」なんですからしょうがないでしょう。私は警察から紹介があれば出すようにしていますが、「身内を売った」ような気分がして、あまりいい感じじゃないです。
元エントリの話に戻ると、最後に書いているのは、そういった「開示請求」をする時に、より強い権限と守秘義務を持った機関を作ればいいじゃないかということです。
今はそういったことが起きた時にマトモに相談に乗ってくれる機関は限られている上にわかりにくい。下手に警察に行っても門前払いです。また情報を提供する側にしても、「警察」や「裁判所」にいきなり提供するのは、心理的障壁も高い。
「普通の人」は弁護士に相談すればかなり前進するということすら知らないし、知っていても知り合いの弁護士なんてそうそういない。「泣き寝入り」の何割かは、匿名だネットだ以前に、そういった「ちょっと厄介な事件での相談先がない」ということですよ。
「カジュアルな犯罪」ってみんなそうですよね。まずその辺を改善するだけで、随分と暮しやすくなると思いますが。
↓実名を出していても萎縮しない例
ネット実名発言のデメリットの実証例
http://www.cm.kj.yamagata-u.ac.jp/blog/index.php?logid=7680
ああ、見た見た > リンク先
池田せんせは実名主義者だったけど、こういった目的があったのね… と見えてしまう。いや、それは情報操作的コメントになるんだろうけど、見えてしまうのはしょうがない。