僕の知ってる「特許庁」の話

私の見聞きした話の断片を憶測でつないだことなんで、話半分で読んで欲しい。ただ、個々の事実として語っている部分は事実だ。

また、スキャンダル的な部分を除けば、いろんなプロジェクトに共通することなので、一つの「寓話」として読んでもらうといいかも知れない。

特許庁のプロジェクトがコケたって話はあちこちで語られ、いい話のネタになっているようなんだけど、私が知っている範囲では、そういった綺麗な失敗ではない。

くどいようだが、話の断片を憶測でつないだことだから、その辺は用心して読むように。実はfacebookにちょろっと書いたんだけど、もうちょっと整理して書いておく。

「特許庁」のプロジェクトは、実は始まった時くらいに誘われていた。そういった話を持って来た人がいたからだ。あれだけの大プロジェクトに「その人」がなんで関わっていたかは知らない。まぁ当時は「その人」はそれなりに信用していた部分もあったので、「デカいコンサルもやってるんだな」と思っていた。

当初は

君はSIerを指揮するだけでいいよ

という話だった。コピーはダメってことだったのでプロジェクトの概要は見ただけなんだけど、「特許システムのあるべき姿を追求した」という話で、途方もなくデカい話だった。金額は「だいたい50億くらい」って言ってたように思う。当然、そんなプロジェクトは顧客の協力が大事だから、回せるのかと聞くわけだけど、「日本の特許政策の未来がかかっているプロジェクトだから、特許庁はそーゆーシフトを敷いてやる」という話だった。

その後に会った時には、「SE 50人くらいいない?」って話が出た。当時はまだ某社に勤めていた頃で、某社にはそんなにSEはいないから、「無理」と言って断わった。私が某社を辞めたこともあり、そこで話は終わっている。

ここからしばらくは、「その人」と私との間にあった話だ。「特許庁」の話そのものではない。

後に「その人」は結構厄介な人になる。仕事は時々くれるのだけど、くれる仕事は無茶な仕事ばかりだった。共通するのは、

話がやたらにデカくなってる

ことだ。あまり具体的なことは書かない方がいいと思うけど、その一つは

デスマ? いいえ時間が浪費されただけです

に書いた。これは私の認識ではまだデスマではないが、話はこじれにこじれていた。

もう終わったことなので、件のプロジェクトのことをもうちょっと書くと、どうもそのプロジェクトは何年か越しのものだったらしい。私の手に渡るまでに、3代くらい開発者が変わっている。それぞれの事情は知らないが、結局のところ「その人」の言ったことがあまりにデカ過ぎる上に、開発者の力量(能力×パワー)が不足していて、マトモな仕様になってなかった。

私が引きついだ時に膨大にあるかのように見えたドキュメント類は、実質的に

紙屑

も同然だった。複雑な計算があるものなのに、現状の計算書がバインダに止めてるだけとか、そういったのばかりだった。何も咀嚼されてないのだ。「DB設計書」もいにしえのCOBOLerが愛用していたタイプの、カラムの書いてある「ファイル設計書」の形式だったし、内容も滅茶苦茶だった。さらに「だいたい出来ている」とか言っていたシステムは、

HTMLで書かれた紙芝居

に過ぎなかった。そして、その「紙芝居」も顧客の要望を反映してないばかりか、私がいろいろ書いている最中に、どんどん増えて行く始末。

当初は私は打合せに出なくていい、開発だけしてくれればいいという話だったのだけど、いつの間にか開発会議に出ることになって、そこで唖然とする。手元にある「紙屑」に書かれたものよりも、はるかに高いレベルの要求を顧客は要求していたのだ。そして、その「要求」の元は「その人」のデカい話だった。それでいて「顧客が本当に必要だったもの」についての、詳細の打合せや実現可能性については、ほとんど出来ていなかった。ところが、工期的には末期だったので、私が打合せに出て資料を求めたり、詳細を詰める話をしようとすると、

何を今頃になって

的な態度を取られた。そりゃまーそうだろう。タイミング的に出来てて当然なんだから。

普通はまぁそれは「デスマ」になってしまうのだけど、「デカい話」の部分はバサバサ切って、どうしても稼動に必要な部分だけに絞って話を進めるようにした。幸い顧客はある種の「諦め」があったから、無理やり納得させられ、最終的には「一次開発」については仕様を絞っただけの話に落ちつかせることが出来た。まぁ、結局のところ一応納めたけど流れてしまったようだ(よく知らない)。

ここからは特許庁の話を混ぜつつ一般論。その話の「構造」をもうちょっと書く。

まず顧客には「本当に必要なもの」がある。金出してやるプロジェクトなんだから当然のことだ。ところが、そこにコンサルが入って

次期システムのあるべき姿

という「素晴しい夢」を説く。「夢」の話は楽しいし前向きだから、みんなそれに夢中になる。いつの間にか、「本当に必要なもの」は実現されて当然ということで、話から消えてしまい、「夢」の方ばかりになる。

もちろん冷静な人達は、そういった「夢」はあくまでも「夢」だと思う。それでも「現場」の多くはその「夢」が忘れられない。「夢」をベースとした要求が起きる。

プロジェクトが遅滞してヤバくなって来ると、「夢」を見ていた人達も冷静になって来る。それでもやっぱり「夢」は忘れられない。また、「夢」で浪費してしまった時間は取り返せない。

ところで、普通のシステム屋には、「普通のシステム」の規模感というものがある。それは、自分ところの能力がベースなのか、普段付き合っている顧客の資金力がベースなのか、そういったことはそれぞれだと思うのだけど、漠然と

こういったシステムはこれくらい

というイメージを持っている。それはまぁ「勘」に属することではあるけれど、影も形もないシステムの規模を見積る時には、わりと大事なものだ。もちろん精度が必要にならば、いろいろ具体的なもので埋めて行くわけだけど、それも詳細の設計に入るまでは「規模感」をベースにする。また、それが「常識の範囲」の「普通のシステム」であれば、そうそう大きく外れるものでもない。おそらく「特許庁のシステム」もそういったあたりでの入札だったんだろう。「その人」は多分入札仕様書を作る時に関わっていだんじゃないかと思う。だいたいその辺をウロウロしてる人だったから。

ところが、そこに「夢」が入ると話が難しくなって行く。「普通」とか「常識」を越えたものが入っていることが多くなっている。「だいたいこんなもんだ」と思っていたものをはるかに越えてしまうことが起きる。上に書いたシステムでは、どうも顧客は私が受けた額の20倍くらいの金を払っていたらしい。そりゃ「夢のシステム」ならそれくらい払うさ。

その次の仕事を「その人」から振られた時も、やはり同じだった。顧客の意思決定的立場の人は、完全に「夢」に乗せされていた。幸い、そこはSIerだったので、現場レベルでは納得してなかった上に、「その人」はへまをして飛んでしまった。顧客はそれで途方に暮れてしまうわけだけど、お陰で一気に舵を切り直してそれなりのところに戻せた。まぁ私は途中で離れたので、最終的にどうなったか知らないけれど、当時作っていたシステムが動いているところを見ると、いいところに落ちついたのだろう。後で話を聞いたら、そのシステムが元でいろいろ受注力がついたということなので、一応丸くおさまったようだから、まぁ結果オーライなんだけど。

「その人」が絡んだシステムで私がやったプロジェクトはだいたいそんな感じだ。話がデカくなり過ぎて、落とし前がつけられなくなったあたりに火消しで呼ばれる。

特許庁のシスウテムは、プロジェクトの体制がどーだとか、見通しはつかなかったのかとゆーいかにも失敗プロジェクトについて回るアンチパターンを元にいろいろ分析されているようだけど、もうちょっと常識的に考えてみた方がいい。

「50億」なんて巨大システム、しかも特許システムの経験がないとは言え、一流ベンダーであるはずのTSOL。しかも、天下の特許庁のシステム。もちろんそんなものが揃ったところで、コケるものはコケるのだけど、そうそう馬鹿なこともしてないはずだ。「常識」の範囲で、あんなに無様なコケ方をするとは思えない。少なくとも、何らかの収拾がついたり、片肺であっても「動かないコンピュータ」になっても、無理やりカットオーバーまでするだろう。ところがこれに関しては、「動かないコンピュータ」どころか、

動きようがないコンピュータ

だ。常識的に起こりえないことが常識的に起きない形で起きたってことは、つまり、常識の範囲の外のことが起きていたはずだってことだ。

思うに、あまりにデカい「夢」を見て(見されられて)しまい、その「夢」がいつまでも捨て切れず、その「夢」の実現迫り続けた。見た「夢」があまりに素敵だったものだから、「夢」は捨てられない。いや、多分、その「夢」がまさに「次期システムのあるべき姿」だと思っていたから、「夢」を捨てることとプロジェクトを捨てることはイコールだった。

「次期システムのあるべき姿」を夢見ることは、何も悪いことじゃない。てか、それがなかったら現用システムを使い続ければいい。SIerは「夢をカタチに」するものだ。富士通でなくても。

でも、「特許庁の次期システム」では、「夢」を見た方も、実は単なる「夢」で、具体的なものになってなかった。だから、作るべきものを具体的に説明が出来なかった。ベンダーとしては「説明されない夢」なんて仕様に出来ない。それでも多分、「こんな感じですか?」っていっぱい持って行ったんだと思う。でも、顧客の方は「いや、私の見た夢はこれではありません」と言うだけだった。何しろ「夢」を吹き込んだ人がいないんだから、方針も満足にない。あるのは、「とっても素敵な夢だった」という記憶だけ。

「その人」が特許庁のプロジェクトにどの程度コミットしていたかは、実のところよく知らない。だから、実は無関係だったかも知れない。でも、関係していたとすると、いろいろツジツマが合うし、そのツジツマを合わせて行くと、多分その辺でコケたんだろうなとゆーことで、ツジツマが合う。

PS.

「自分の話」と「特許庁」の話がごちゃ混ぜに見えると言われたんで、ちょっと区切りを入れてみました。

PS2.

「自称事情通の話か」って、まさしくそうなんだがw

そーゆーレベルの話をわざわざエントリにしたのは、「特許庁」の話というよりは、「座礁するプロジェクト」の陰にはこういった話があるよってケーススタディ足りうるから… ってのは冒頭に書いてる。実際に「その人」は私にとっては前科2犯。ケースとして十分だろう。