「日本」はIT業界をどうしたいのだ?

いつものように、別に「政府」だの「政治」だのを論じるつもりはない。

横浜市大中国人留学生 電気通信事業法違反容疑で逮捕

まぁ、新聞記者のリテラシーの問題もあると思うのだけど、この記事を読む範囲に「容疑」があるとは思えん。多分、記者がよくわかってないことがあるのだろうけど。

同じように、これもまた「はぁ?」としか言いようがない話。

政府、ネット上の海賊版対策強化

で、多分ミスリード(read)のミスリード(lead)になると思うのだけど、他のことも含めて思うところ。

このことは、ちょっと前にGREEからもらったメールで気になっていた。引用しようと思ったら「転載転送複写禁止」ってなってたので、要約する。

私は「自己紹介文」が運営によって削除された。なんでも、「自己紹介文」に「個人を特定し得る情報(メールアドレス)を掲載する行為」が利用規約で禁止されているのだそうだ。私は基本的に「実名主義」なので、原則として何かをネットに書く時には「個人を特定し得る情報」を書くことにしている。もちろんSNSの紹介文でもだ。ところがGREEではそれが禁止されているのだ。利用規約の「禁止行為について」に、

4 個人情報掲載行為

a. 本人、第三者の如何を問わず個人のメールアドレス、電話番号、ナンバープレート、金融機関口座番号、住所など個人と特定しうる情報の掲載行為 ※なりすまし晒し目的投稿や、出会い系サイト類似利用を防止する為、ご協力をお願いします。

とある。私はメールアドレスやホームページのURLを書いていたので、これを根拠に「自己紹介文」が消されてしまったわけだ。なので、今の私の「自己紹介文」には、

GREE管理人より削除されました

と書かれたままである。

実は同じような規約は、mixiにもある

第14条 禁止事項
ユーザーは、本サービスの利用にあたり、次に掲げる行為を行ってはならないものとします。禁止事項に違反した場合には、強制退会、利用停止、日記等の情報の全部もしくは一部の削除、又は公開範囲の変更等の不利益な措置を採ることがあります。

(16)自己または第三者の住所、電話番号、メールアドレス等の個人が特定される連絡先を、本サイト内のユーザー全体に公開される箇所に投稿する行為。

だから、これらについてGREEがどうだとかmixiがどうだとかというものではない。どちらも同じ理由だ。

その理由とは言うまでもなく、

出会い系規制

である。これで面倒なことにならないように予防線を張っているわけだ。まぁこの規制の誕生の経緯についてはいろいろあって、GREEやmixiは「株主やお上の顔色を伺いつつ利権を確保しなきゃいけない会社」になってしまっているから、いい具合に「参入障壁」も作れるし、いい顔も出来るということで認めてしまったのだろう。彼等もこの規制の成立に関わっていたわけだし、既に成立以前から「モバイルコンテンツ審査・運用監視機構(EMA)」なるものから「健全サイト」と認定されるために、かなりのリソースを使っていた。逆に、このようなリソースを割くことが出来ない新興の事業者は参入出来ないことになるから、彼等も好都合なわけだ。かつてのインターネット従事者には開拓者としての矜持があったけど、今のインターネット事業者には商売のための妥協しかない。なさけないが、それが現実だ。

まぁそんなわけで、GREEとmixiと警察は「青少年の保護」とゆー錦の御旗の元に一致団結して、

新興事業者の排除

の仕組みを作ったわけだ。

この一連のことと、冒頭に挙げた記事のような別件逮捕みたいな運用。どちらも新興事業者を萎縮させるものでしかない。

いや、実は起業する奴はそんなことはお構いなしだ。やりたいことをやるだけのこと。でも、ちょっと大きくなったら、こういった形でいじめられるのは目に見えている。「起業した奴」はそれをはねのけるだけの気合があるだろうが、そこに金を出す「投資家」は面倒に関わりたくない。ネットサービスのように、広く薄くしか金にならないものは、どうやってもある程度の規模が必要になるわけで、商売にするためにはそういった外部の金が必要になるのはある種の必然とも言える。ところが、その「兵站」が断たれる。つまり、ネットサービスは産まれ育つことが出来ない環境になってしまったのだ。

現代のネットサービスの「キモ」は「ソーシャル」で、「ソーシャル」と言うからには人が集うものであり、人が集うからには何らかの出会いがある。「出会い」にはいろいろなカタチがあって、ビジネスのつながりも「出会い」だし、一発やるだけも「出会い」。出会いの目的は違っても、出会うとゆー現象が起きるプラットフォームは実は大差がない。

もちろん「ネット」と言えども社会の一員だ。犯罪の温床になるようではマズかろう。だから、一定の規制が必要だということに、そんなに反対するつもりもない。かつての「中二病的無政府メディア」から、もうちょっと「大人」になったわけだ。

日本という社会、日本の法や規制の運用では、

無法は違法

とされている。つまり、規制されていないものはダーティーなものであり、健全ではないとして扱われる。だから、ちょっとでも「市民権」を得ようとすると、すぐに膨大な規制と戦うことになる。そこをうまく越えないと、金も集めらないし、社会的認知も得られない。「なんだかわからない怪しいもの」以上にはなれない。結果として、

ネットサービスを商売できる環境にない

ことになってしまう。

twitterのような「なんだかわからない怪しいもの」は、日本発では仮にそれを思いついても作れても、広く市民権を得て使ってもらえるようには出来ないのだ。もちろんアメリカにだって規制はあるけど、日本のような変な規制じゃない。

ということがありながら、毎度毎度お約束のように「日本のIT産業は云々」とか「日本がグーグルに勝つのは云々」みたいな評論が出る。そんなのに対して半分キレながら言うなら、このような「規制」環境にあって「グーグルのような」なんてのは、日本では不可能とは言わないけど、

極めて困難

だとしか言いようがない。「出る杭を打つ」どころか、杭が出る隙すらない。

過去に何度か日本のIT産業は技術者じゃなくて経営者がクソなんだって書いてるけれど、その経営者を何とかしたところで、いや何とかしてそれなりにしてしまったらなおのこと、「日本じゃ無理」なことになってしまう。

とか考えると、「日本」がIT業界に求めているのは、「グーグル」のような、「ツイッター」のような、「なんだかわからない怪しいものがいつの間にか市民権を得てしまうようなネットサービス」じゃなくて、ITゼネコンが闊歩する

10年泥

なんじゃないかって気がして来る。いや、求めているのはそうじゃないのかも知れないけど、結局それ以上のことはほぼ無理だし。

とか言いながらも、私は

日本の未来のため

に体良く無視するけどね。馬鹿どもに付き合って立ち止まってたら、ますます未来がなくなるから。

「都合のいい誤解」のために予防線を張っておくと、表題に書いているのは「日本」だ。「日本政府」でもなければ、「○○党」でもないし、官僚でも警察でもないし、「マスゴミ」でもない。そういったものもひっくるめて、そこにさらに「あなた」や「私」を加えた、つまりは日本国の当事者(!=日本国籍者)全部だ。まぁ海外から「残念だ」とか言ってる人には関係ないだろうけど。

PS.

冒頭の事件、仮に電気通信事業者として出していたらどうなっていたのだ? あれって本当に届出だけで、特に審査も更新手続もなく有効なんだけど。昔々、「ダイヤルQ2でエロ画をサービスするプロバイダもどき」の構築とかやってた時は、みんな一般第二種の届出してた。どうやら、ツーショットダイヤルとかやってた時からの習慣だったらしいよ。つまり、何の担保にもなるものじゃない。なお、今は法律が変わって、「一般第二種」とかって呼び方じゃないし、届出の内容も区分も変わっているようなんで、詳しくは調べられたし。

あと、「単なる法律違反」とか言ってるのいたけど、こういった法律の形式犯ってのは、単に別件逮捕のための口実でしかない。今回も「懲らしめてやりたいけど具合いい法律がない」からやっただけ。「彫りもんのあるおっちゃんが風呂屋に入ると不法侵入」みたいな運用と同じ。

よく「悪法も法」って言うし何割かはそれに賛成するんだけど、いわゆる「規制法」ってのは

既得権保護

のためのものが多いわけで、法律そのものの存在が有効かどうかって議論になる類のもの。むしろ、これは「出してしまえばおk」と解釈されてしまう「事件」だと思うんだが。

インターネットがどーゆーものか考えたら、この「事件」はいろいろややこしい展開になると思うので、「単なる法律違反」とか簡単には言えない。

とは言え、「萎縮効果」だけはしっかりある。「そんな簡単なものなら届出ればいいじゃん」とか外野が言うのは簡単だけど、「出もしない杭」で終わるものが増えるだろうことは、想像に難くない。

「日本」はIT業界をどうしたいのだ?” への1件のコメント

  1. GREEって頭の弱い人が使う、残念なWebサービスじゃないの?
    WordPress使うような高貴な方が使うようなWebサービスではないんじゃないの?

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