言いたいことは理解するが…

日経Linux4月号について

いろいろ気をつかわせながらも、何の前触れもなく献本やめた雑誌の肩を持つ必要性なんてさらさらないんだが。何か書けと言われりゃ書くし、事情説明があれば納得するんだけど。

というのはいいとして、件のエントリは言いたいことは理解するし、かつては同じような考え方をしていたのだけど、今はそうは思わない。

FONというものの趣旨や精神の類は私も理解している。だから、買って来たFONのルータはフリーノードとして公開しているし、しっかり地図に掲載してある。FONを買ってもノードを公開しない人や、公開しても嘘住所を申告する人が少なくないのだが、「FONの趣旨」を理解してFONを設置しようかと言う人は、そういったことは恥とすべきだ。

なので、件のエントリに書かれている「FONの趣旨を無視するような改造を勧めることは好ましくない」的なことは、個人的には「そうだ」と思う。だから、自分の行動としては「FONはあくまでも公開用」ということにしている。

とは言え、件のエントリが言わんとしていることには、ちょっと賛成しかねる。と言うのは、「FONの趣旨」がどうであれ、

商品として売られているものは商品に過ぎない

からである。つまり、正当な手段で手に入れた人は、消費者として好きなことをする権利があると思うのだ。だから、「携帯電話会社のビジネスモデル」がどうであれSIMロックの類には賛成出来ないし、商用ソフトウェアのリバースエンジニアリング禁止条項には納得が出来ない。ネット屋がP2Pのの帯域制限をつけようとすることや、YouTubeやGoogleを「ただ乗り」と非難することも変に思う。「ビジネス」としてやっているのだから、「趣旨」の類が理解されていないくらいで破綻するようなビジネスモデルにするのは間違いなのだ。

もちろんこれが「FON」ではなくて「OLPC」のようなものなら話は別だ。OLPCはNPOがある目的を持って配布しているもので、しかも逆ザヤだ。だから我々が機会があるからと言って、「100ドル」で「買う」ことは慎しむべきだ。あれはビジネスじゃないんだから。もちろん、逆ザヤでなく購入する機会があれば、寄付にもなるから買っていいけど。

でも、FONは違う。これは似て非なるものだ。FONはビジネスなんだから。それでビジネスが成立しないのであれば、それはFONのビジネスモデルがヌルいだけだ。確かにFONの理想は高いけれど、あくまでもビジネス活動してそうしているだけだ。

「でも、あの値段、あの流通がなくなると欲しい人が困る」という言う分はわからんではない。では同じことを「PS3」や「携帯電話」に置き換えたら同じように思うだろうか? よく知られているように、これらの「市価」は原価よりも安い。つまり、逆ザヤになっている。じゃあ「安いPS3を維持するために購入した人はゲームを○個は買いましょう」とか、「安い携帯電話を維持するために、毎月○分は通話しましょう」とか言うだろうか? いや、個人が勝手にそう思うのは止めはしないが、賛成する人は少ないはずだ。なぜなら、彼等が安い価格を維持することや流通を保証することは彼等のビジネスであるし、逆ザヤであることだって色々なバランスの上に成り立っていることで、それもまた「ビジネスの都合」に過ぎないからである。

「FON」は確かに不当と言っても良いくらい安いし、理想は高い。共存と商売をうまくバランスさせているとも思う。でも、「FONコミュニティ」と言いながらも、あれはあくまでも企業のビジネスだ。ビジネスが回るかどうか、価格や流通が維持出来るかどうかは、「FONという企業」の責任だ。みんながハックのネタにして困れば、それをどう対策するかは「FONという企業」の責任に過ぎない。もちろん、「ルータを他のことに使うな」的なことが明示的に書かれていればそれに従うべきではあるが、「法的なお知らせ」を読む限りでは、それは特にうたわれていない。いろいろ解釈すればそう取れないこともないけれど、それはちょっと難癖に近い。

だから、「個人的なモラル」として「ハックのネタにしない」というのはそれはそれで構わないのだけど、他人に「それをするべきではない」という類のことではないように思う。「タバコを喫うかどうか」に似たようなものでしかない。自分が喫わないからと言って、他人の喫うのを非難するもんじゃない。実害があれば非難してもいいけれど。

長くなったので、まとめておこう。

  • 「FON」はあくまでもビジネス
  • ビジネスモデルへの責任はそのビジネスを行っている者が持つもの
  • 個人の倫理観はそのまま他人に適用出来るわけじゃない

だから、別に日経Linuxが非難されるようなことではないと思う。日経Linuxが非難されるべきは、何の事前連絡もなく献本やめちゃったことの方だよwww

言いたいことは理解するが…” への5件のコメント

  1. 事業者の法的性格によって理念を理解したり、無視したりするんですか? そっちの方がちょっと気持ちの悪い考えのような…。そんなこといったら、営利事業者のオープンソースライセンスはビジネスなんだから気にすることないよ、と言っているとも聞こえてしまいます(ライセンスと理念は違うという話は抜きにして)。

  2. >事業者の法的性格によって理念を理解したり、無視したりするんですか?

    そんなことどこにも言ってないけど。

    「ビジネス」というのは、あくまでも金儲けのためにやることです。儲からないスキームなんて考えちゃダメなんです。

    > 営利事業者のオープンソースライセンスはビジネスなんだから気にすることないよ

    なんてことは言うつもりもないし、

    > ライセンスと理念は違うという話は抜きにして

    「抜き」には出来ません。

    根本から間違ってるんで、頭を冷やして出直して下さい。

  3. では、OLPCの理念は守るべきだけど、FONは別に気にしない、というのは、どうやったら理解可能なのでしょうか? OLPCとFONの違いをどこに見出していますか? 本文だと、「NPOがある目的を持って配布している」しか言ってないわけで、それって結局「主体者の法的性格」以外に何があるのでしょうか? 営利事業者だって社会貢献活動をするし、非営利事業者だって収益性のある活動をします(利益を出すことは避けるにしても)。

    言い争いをするつもりはないですが、ここで述べられている考えは、ひどく歪な気がします。

  4. > では、OLPCの理念は守るべきだけど、FONは別に気にしない、というのは、どうやったら理解可能なのでしょうか?

    そんなことどこに書いてると思ってるの?

    OLPCの「逆ザヤ」ってのは、ビジネスじゃない人達からの寄付やらで成立してるわけ。一種の慈善事業であって、商売のための逆ザヤではない。FONの「逆ザヤ」ってのは、理念がどこにあるにせよ、お金儲けの手段なの。慈善事業じゃないんだから。「PS3」や「携帯電話」の話も同じだよね。「FON」と「PS3」や「携帯電話」の違いは何?

    「FON」と「OLPC」の違いは、収益の有無や主体の法的性格じゃなくて、その「目的とするところ」の違い。「結果」として儲かったり損したりという話じゃないし、理念が綺麗かどうかとも関係がない。

    理念が綺麗だってことが、下手なビジネスを肯定することはないよ。ビジネスとしてやる以上は、「市場」にある諸々に耐えなきゃいけない。

    もし「FON」が「我々は慈善事業をやってます」と言うんだったら、多分株主から怒られる。「OLPC」が「我々はPCに代わるビジネスをやっています」と言うんだったら、多分寄付した人達から怒られる。

    > 言い争いをするつもりはないですが

    そうやって「逃げ」を打つこともないと思うけど。

    てか、元エントリの人と私の見解の「ズレ」は同じ類のものなんじゃないかと思うから、「言い争い」でもした方が問題がわかって良くない?

  5. ピンバック: kinneko@転職先募集中の日記

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