「2億円が820万」

高橋さんの記事がばずってた。

見積もり2億円のIP電話を820万円で構築した秋田県大館市から学べること

これをネタにしたエントリにどんなことが書かれているかは、まぁ読むまでもないなーと感じるのは「この記事に対する読者コメント」を見たらわかる。

わりと冷静に、

1人月(ではなく2人月!)300万〜400万の価値は?

2億円の見積もりされたのを820万でできたのはすばらしいと思う

とかあるけど、ちょっとポイント違うんじゃないかな。

「ポイント違う」というのは、どちらも「SIer視点」だからだ。それぞれを要約したら、

  • 素人としてはよくやったよね
  • ベンダの見積り根拠ってのは…
  • 「安全率」入ってないよ

に要約されるように思うし(と読めるんだけど)、そこで書かれている他のエントリの空気とかもその辺に集中してるようだけど、この記事でのポイントはそこじゃない。

この事例での一番のポイントは、実はFLOSSではない。ベンダがやらずぼったくりだということでもない。生産性云々の話でもないし、担当者が偉かったとかという話でもない。一番ポイントは、

エンドユーザが自身の要求を精査した

ことにある。つまり、末尾のあたりの、

重要なことは,自分たちに必要な機能の優先順位を付けて何をあきらめるかを判断し,実績のなさから心配されるリスクにどう備えるかを考えることだろう。

可用性,見栄え,担当者の手間,何を“捨てる”ことができるのか。

ということにある。

システム構築の経験者ならすぐわかるけど、システムの価格はちょっと可用性を上げようとするだけで、いきなり跳ね上がる。「システム構築の経験」でなくても、プログラムのテストでもわかるだろう。ちょっと発生確率の低そうな事象までテスト範囲を拡げると、いきなりテスト項目が増えたりして面倒臭いことになる。「異常系」なんて、本来は前提となる事象が起きてはいけないにもかかわらず、それが起きた時であっても安全にという要求だ。「品質」という観点では大事かも知れないけれど、「通常の運用」からすれば

見えない敵と戦う

ようなものだ。何しろ完全なテストなんて存在しないし、故障しないシステムはない。下手すれば無限のコストがかかるのだ。「可用性」はかようにシステム価格を上げてしまう。

ところが、どこの「担当者」も障害時の責任なんて負いたくない。特に自治体なんて、職員の評価は減点法でしかないから、

素晴しいシステムよりもつつがないシステム

を求めがちだ。多少高いシステム価格であっても、別に自分の腹が痛むわけでもない。そのくせ障害が起きれば責任問題だったりするから、多少価格は高くても責任を効率的に回避することが出来る方を求める。

かくして、ユーザは過剰品質を要求し、ベンダーはその要求に応え、システム価格は上がる。

大館市の場合、件の記事を見る限り、

職員が主体的にシステムを構築した

ことがわかる。背景となる事情はわからないし、単に金がないという理由だけだったからかも知れないが、システムを自分たちで作ったということは事実だろう。そうなると、「何を捨てることができるのか」を主体的に考えなければならなくなる。システムにありがちのトレードオフについて、真の精査が必要になる。

先に挙げた「可用性」はその最たるもので、いくらここでダラダラとコストのかかることをやったところで、何か起きれば言い訳の余地なく自分の責任になる。そうすれば、いたずらに可用性を追及する(つまり投資を増やす)ことよりは、「いかにして問題を回避するか」ということを考えなければならなくなる。「このシステムは確率的には50年に1時間しか落ちません」ということよりも、「年に1日くらいコケるかも知れませんが、〜〜とやれば問題は起きません」の方がみんなが幸せになるし、コストも低いということがわかるようになる。

これを無責任にベンダーに投げてしまえば、「50年に1時間しか落ちない代わりに馬鹿高いシステム」になってしまう。ベンダーにとってそれしか答えがないからだ。もちろんここで「年に1日コケても良ければシステム価格は1/10になります」とか「システムがコケても〜〜とやれば問題は起きません」ということが提案出来るベンダーは素晴しいし、それを受け入れることが出来るユーザは賢いだろう。でも、それはベンダーにとっては「ビジネスチャンスと信頼の両方を失なう」ことになりかねない。となれば、「820万」よりは「2億」を提案してしまうのは、必然なのだ。

そんなわけで、件の記事のキモは、

ユーザが主体性を持てば
システム価格は無駄に高くなりにくい

ということにある(「安くできる」とは言いたくない)。FLOSSが偉いというわけでも、提案したベンダがぼったくりだというわけでもない。まあ強いてFLOSSの価値を言えば、「FLOSSを採用することの教育効果」と言えなくもないけれど。

PS.

さらっと言及するのと、「そこがメインだ」と主張するのは、別のことだと思うよ。

PS2.

ちょうど元エントリがはてブに上がっててブコメを読んだんだけど、案の定でワロタ… 君達、そこポイントと違うからwww てか、そこがポイントだったら、事例として何の意味もないし。

PS3.

多分、「競争入札」だけじゃここまでは行かんでしょう。それが出来てたら、何の苦労もないわけで。なぜなら、競争入札だけだと、結局限りなく高い信頼性を求める方向にしか行かないからだ。

PS4.

「主体性」と「コスト意識」という意味では、この記事も興味深い。

日本の未来が見える村
長野県下條村、出生率「2.04」の必然

まるで違う話のように見えるが、同じことだろうと思う。

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This entry was posted on2月 10th, 2009 at 23:31:19. You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0. Both comments and pings are currently closed.

6 Responses

Comments(2)Trackbacks(4)

  1. 落伍弟子

    スラドに書かれていた
    「地元に回るお金を捻出するための節約なんです。」
    http://slashdot.jp/it/article.pl?sid=09/02/01/0441214
    が興味深いです。単に「安くしたい」が目的ではなく,「税金を使っている」という意味が分かっておられるようです。

    2009/2/13 金曜日 1:37:18 | #1
  2. ogochan

    なんかトピック見てたら、

    業 者 必 死 だ な w

    とか思ってしまいました。

    2009/2/13 金曜日 2:44:34 | #2
  1. It’s funckin’ distracting. Ahh Goood!!…

    要は、コックが料理したらそれなりの値段になるところ、母ちゃんに作らせたら材料費だけで済んだ、しかもそこそこ旨かったって話じゃねえのかw 詳細に要件が見えている状態で2億円…

  2. tech tech okdt より:

    チャレンジャーの価値 – 秋田県大館市…

    大館市のAsterisk案件の記事。ひさしぶりに元気がでてくる記事を読ませていただいた。タイトルはおそらくは「釣り」なんだと思うが、この案件ですばらしいのは「2億の案件が820万で済…

  3. […] Posted an item on Generic.おごちゃんの雑文 » Blog Archive » 「2億円が820万」 […]

  4. 選択肢が増えていることに気づく。…

    見積もり2億円のIP電話を820万円で構築した秋田県大館市から学べること:ITpro

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