「 ”オープンソース型ビジネスマン”の生きる道」

という文章が、 http://premium.nikkeibp.co.jp/linux/okamoto/01/ にある。以前、これにコメントを書いたのだが、華麗にスルーされたので、ここに書いておく。

はっきり言って、弊社はここでヤリ玉に上がっているような「会社主義」だ。もちろん個人の自由裁量は最大限認めているし、滅私奉公みたいなことを求めているわけでもない。しかし、うちの「スタープログラマ」も含めて、会社主義である。会社あっての自分だと思っている。

弊社の原則は「終身雇用」である。給与体制は「能力を評価しつつの年功序列」である。何よりも「人の和が一番だ」という主義である。いわゆる「日 本的経営」の典形のようなやりかたでやっている。これは件の文章で悪いと書かれていることの総出演だ。どうやら件の文章を基準にすると、弊社のような会社 は「とんでもない」と言われそうだし、「全くオープンソースに向いてない」はずである。

私は件の文章に書かれているようなことは、結局あまた失敗して来た「アメリカ的経営」の轍を踏むであろうと思う。「個性」や「成果」の評価は、短 期的には良い結果を生むであろう。あそこで良いと書かれていることは全て「短期的に良い結果を生む」方策である。逆に悪いと書かれていることは「短期的に は良い結果を生まない」方策である。アメリカ的経営の根底には、この「短期的には良い」ということが含まれている。

しかし、オープンソースをやるということは、もっと腰の座ったことである。そもそも、本来ソフトウェアの開発なんてものは腰を据えてやらないと出 来ないことである。確かに短期にどんどん成果が出ればそれは良いことであろうが、本質的に時間がかかるものに短期的成果を求めるということは、それ自体に 無理がある。そのために、「短期的には良い」という方針に立つということは、全く効果を上げない。そればかりか、短期のいろんなことに追われる(実際に追 われなくても精神的に追われれば同じことだ)こととなり、むしろ悪い方向に向く。四半期の決算で株主が騒ぐような土壌の経営は、とてもじゃないがオープン ソースばかりかソフトウェア開発に向かない。

「日本的経営」というのは、確かに短期的には何も良い成果を生まない。しかし、「長期的には悪い方向には運ばない」という性質がある。また、短期的な成果を求めないものでもある。

「短期的な成果」は、「たまたま運が良かった」ものまで評価することになってしまい、長期的な展望を考える時にはノイズとなる。もちろん短期的な 成果を評価する場合は、「マイナスの評価」もありうるので、それでバランスは取れるのだが、多くの日本人のメンタリティとしては「物事は上向く」というの があるので、「勝敗は兵家の常」とは考えにくい。そのためマイナスの評価をした時には「よし次は頑張るぞ」ではなくて、「(´・ω・`)しょぼーん」に向 くものである。また「成果主義」というのはプラスの面は確かに悪くはないが、対偶を取れば「成果なきものは去れ」ことでもある。ソフトウェア、特にオープ ンソースなものというのは、最初から爆発的に商売になるわけではないから、多くの立ち上げ期では「成果なきもの」になってしまう。

Rubyは今でこそ世界で評価されているのであるが、弊社を作った時には私は「一種の会社の道楽だよね」と思っていたし、それであるがゆえに、そ の存在を肯定するための理屈や仕組を作るように考えて来た。実際、matz達に使った人件費がペイしているかと言えば、果してどうなのか。今でさえも Ruby単体ではビジネスにはなっていない。ソフトウェアの認知度や完成度から考えて、ビジネスとしては「これから」である。実に7年かかってやっとビジ ネスの入口である(さらにその前にmatzが個人的にやっていた期間もあるのだ)。こういった気長なことが果して「短期的成果主義」の下に行えるだろう か?

拙作のOLTPモニタのpandaであっても、ファーストユーザの医師会に適用するだけでも、楽に1年かかっている。さらに他のことに使えるよう にするためには、3年かかっている。目の前にお客がいるソフトウェアだってこれだけかかる。もちろん数ヶ月でできてしまうソフトウェアもあるのだが、それ はたまたまそんなソフトウェアだっただけである。

そういったこともあって、弊社では「日本的経営」にしているのである。人の和、会社の和、会社の安定があってこそ、こういったものが作れるからで ある。気長に作っている間に会社がコケてしまえば、オープンソースも何もあったもんじゃないのだ。だからこそ会社の維持は大切なのである。会社を維持する には、維持することが基本の「日本的経営」でやって行くしかない。うわべだけの成果主義であれば「matzやogochanはクビ」でしかない。

控え目に言っても、おそらく弊社は「日本屈指のオープンソース開発会社」であろう。40数人いる社員のほとんど全員がオープンソースソフトウェア の開発に従事しているし、そのうちの何人かは「趣味:ソープンソースソフトウェア開発」である。また毎年とんとんで決算ができる、「ほぼオープンソースだ けで食えている」会社である。日本で数少ない成功例のその会社は、典型的な日本型経営であり、会社主義でやっているのだ。*たかが*ジャーナリストには想 像もつくまい。