ニセ科学を無視してはいけない

例の水の奴のGIGAZINEの続報より。

水から電気を作る「ウォーターエネルギーシステム」続報、販売権を取得しようとした会社に直撃取材

何度か書いたと思うのだが、この中に重要な一節がある。

前にも書いたように、件の水の奴は多分インチキだと思う。だけど、決定的な証拠なしにインチキだと決めつけるのもどうかとも思う。そのことは前のエントリを見てもらうといい。

件のもので一番イライラするのは、バシっとインチキだと決めつけるための決め手に欠けること。「好意的に考えるとインチキじゃないかも知れない理由」がいくつも挙げることが出来るので、どうもインチキと決めつけるが難しいのだ。だから、「多分インチキだと思うけど」とは何度も書くけど、「これはインチキ」と断定出来ない。本当にインチキだと決めつけるための決め手に欠けるものをインチキだと断定することは、むしろニセ科学の温床になる

という悔しい思いをしていたのだけど、件の記事の中にその理由があった。

現場には学識経験者やこういったことに詳しい専門家が不在であったため、このシステムがおかしいと感じながらもいまいちツッコミきれないという歯がゆい結果に終わりました、無念。

同じイライラ感はGIGAZINEの記者も感じていたようだけど、結局私と同じように決め手に欠けていたようだ。そして、その理由がここに書いてある。つまり、

あまりにインチキ臭いから専門家が行かなかった

ということ。「専門家」は最初から馬鹿にして現場には行かなかったのだ。だから、「わかった」人がつっこまなかった。それゆえ、「決め手」に欠けるような情報ばかりだったということだ。

聞けばもっともな事情だけど、よく考えるとこれはヤバい。つまり、専門家が最初からインチキだと馬鹿にしてしまうくらい馬鹿馬鹿しいものに、政治家やら何かで「権威付け」されてしまうと、正しく科学的にインチキを暴くことが出来なくなってしまうということなのだ。専門家は一瞬でインチキだと見破るようなことであっても、素人にわからないものはたくさんある。いや、その「専門家」であっても目の当たりにしたら騙されるものだって少なくない。つまり、「あまりに馬鹿馬鹿しいから」という理由で専門家が相手にしなかったら、素人はどんどん騙されてしまうということだ。

「水伝」も、そのあまりの馬鹿馬鹿しさゆえに、当初は専門家によるつっこみがなかった。ある程度広まってしまってからヤバいと気がついた人が「あれは…」と解説をするようになったのであるけど、時既に遅しの感さえある。一度信じてしまった人は、自己正当化のために「科学的ではないけど道徳的な意味で」というような正当化をしてしまう。情報そのものは無為であるから、結局ニセ科学は広まってしまうし、一定確率でそれを信じる人が出てしまう。

だから、どんなに馬鹿げていても、「科学の皮をかぶった詐欺」の類には「専門家」が積極的に発言して、否定出来るだけのものを持たなければならない。そして、科学的にそれを行うためには、「現場」で正しくつっこまなければならない。そうしなければ、無邪気な文系記者によって、「画期的な発明」みたいな表現で広まってしまい、それを信じる人が出てしまう。

自分にしか影響を与えないものであれば、「スルー力」も大事だけど、その情報が広まるかどうかの場所や位置にいるのであれば、スルーはむしろ有害なのだ。まぁ一々付き合うのも馬鹿馬鹿しいのではあるけど。

PS.

同じことは、常温核融合にも言える。結局今回もトンデモらしいのだが、ちゃんとそのトンデモを指摘出来る能力のある人がきっちりつっこんでいない。そうすると(以下同文)。

PS2.

「あきらかな永久機関なんだから」というコメントがあったけど、そういった短絡的な批判はトンデモの元なんだが。「ヒートポンプ」が熱力学の法則を崩してないのに投入エネルギー以上の温度差を得ることが出来ることを、素人がすぐに理解出来ないことを忘れている。そもそも、素人相手に「あきらかな」なんていう言葉を使うのは、トンデモの手口の一つじゃん。

ニセ科学を無視してはいけない” への4件のコメント

  1. とはいえ、政治家に取材するなら多少なりとも政治の知識がある人が行くでしょうし、経済問題なら経済の知識がある人が行くべきと思うと、今回の件についていえば「水だけで化学反応」に疑問を呈し、そこを問い詰めるくらいの科学の知識を持つ人が取材に行くべきであって、最初からそこまで信憑性がないと思っているなら、そもそも興味本位で取材になんか行かなきゃいいのに、とは思います。

    ちなみに、化学反応に金属がつかわれているという記事がありましたね。「燃料は、水だけじゃないじゃん」

    まあ、常温核融合については、実証実験もせずに反論しにくい面はあるでしょうが、それこそ“過去の経験”があるわけですしね。マスゴミとか言われない程度の“報道力”を持ってほしいものです。

  2. 政治や経済はよく知りませんが、医療やITの取材は知識のない人が取材に来るのが普通だったりしますよね。

    それが良いとは間違っても思いませんが、普通の記者に「知識」を要求するのは、木に寄りて魚を求むようなことではないかと思います。「親の判断力」と同じで、「あるべき」だとは思いますが、現実にはないものだと。

  3. > ITの取材は知識のない人が取材に来るのが普通

    いやー、「マスゴミ」に毒されてますね。:-)
    現実にそういう場面に出くわしたことがないとは言いませんが、本来は取材相手の言葉が理解できるくらいの知識を持ち合わせていないのなら、“報道”する資格はないと思いますよ。もちろん、説明の下手な相手に質問する能力も含めて、ですが。

  4. 何度か書いてますが、下手に知識のある人だったら、ヒートポンプをトンデモと思いかねないと思います。原理をわかった上でトンデモでないと説明出来るということを記者に求めるのも難しいんじゃないかなぁ。第二種永久機関とヒートポンプの区別が出来るには、もう一段の知識が必要ですから。

    もちろんわかって欲しいのは確かで、一々専門家が同行する必要がないに越したことはないですが。

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