「10年泥」

まだこのネタを引っぱるわけだけど。小飼さんのエントリの、

泥のように働いて、何が出来上がりましたか?

を受けて、おっさん達が過去の自分語りを始めてる。私もうっかり書きそうになって、いろいろ思い起こしてみたのだけど、適当に端折って書くと、最初に書いたエントリくらいになってしまう。しかしだ、

まぁこうやって過去のことを思い返してみるのは悪くないし、若者達がそれを見て「じゃあちゃんと下積みをやろう」とか思うのもいいことだとは思う。「おっさんの昔語り」ってのは、ネットではあまり好まれないんじゃないかとは思うけど、ロールモデルとしたい人達の下積み時代を知るのは悪くない。

だけど、それは結局単なる

自己肯定

に過ぎないんだよね。何しろ、世の中の全ては因果律が支配しているということを考えるなら、

現在が幸せであれば
過去の諸々は全て幸せへの道

なのだ。

また、さらに冷静にものごとを見るなら、世の中のほとんど全ての成功は

まぐれ(fooled by randomness)

の結果なのだ。人は成功すれば実力だと思い、失敗すれば運だと思う。でも結局のところうまく行ったのは「まぐれ」の結果に過ぎない。同じ環境を再現したところで、同じ結果が出るという保証はない。我々に可能なのは、「成功確率」を上げることに過ぎない。

だから、自分のロールモデルになっている人の行動を真似したところで、同じになれるわけがない。本人でさえも同じ結果は出ないはずだ。ロールモデルの人達の「10年泥」を知ったところで、それ自体は何のプラスにもならない。マイナスにもならないから、書きもの読みものとしては悪くないし、教訓もいっぱいあるからそういった意味では価値がある。でも、まるっきり真似をしても意味がない。

それより大事なことは、そういった人達、特にそこそこ歳を食ったおっさん達の今日は、ほとんど例外なく「n年泥」の結果だということだ。違うのは、いつ泥の中だったかということや、何年泥の中にいたか、どんな泥だったかということであって、「泥の中」だったことに違いはない。最初から蓮の花が咲いて、ずっとそのまま咲いている人なんてのは、例外中の例外だと思っていい。コの業界でそれを成しとげたと言って良いのは、ビル・ゲイツくらいなもんだ。

確かにそういった人の人生は派手だから、ついそういった「スター」を夢見てあせったり失望したりしてしまう。特に学生やついこの前まで学生だった人はそうだろう。でも人生は長いのだ。最初の「花」がずっと咲き続けることは難しい。蓮根となって泥に沈んで春を待つ時代もあるし花の咲く時もあるのだ。

だから、ロールモデルな人達にどんな「泥時代」だったか聞く必要はない。みんな泥時代はあったのだ。学生や若者に伝えるべきは、

成功者にはたいてい泥時代があった

ということだ。まぁそんなことは一言言えばわかることだと思うから、もっと大事なのは

ロールモデルになる成功者

を見せることだろう。

とか考えると、「重鎮」達を見せるよりは、もっと身近に感じることの出来る人でなければならない。妙に雲の上感のある、SIerの偉いさんでは何にもならない。同じ偉いさんでも、もっと活気を感じる人達であるべきだ。

とか書くと、結局誰もが何度も言っているような結論になってしまうけど、そうなってしまうということは、要するにIT業界の若者やIT業界に入りたい学生には、そういったものが必要だというのは普遍的なことなんだということだろう。

PS.

小飼氏のTB。どんだけマッチョなんだよ… まぁ私も

ヨットは風に流されながら、風上にも移動出来る

なんて言っちゃうわけだけど。

「10年泥」” への5件のコメント

  1. ビルゲイツは「泥」ではなくて、MS-DOSという「泡」を手にしたんですかね。
    彼も、IBMが戦略の失敗をしなければ、今は無かったんですけどね。

    この「泥」と「成功」の議論は面白いですね。是非、おご☆ちゃんにも、Danさんの討論会に出て欲しいですわ。

  2. > IBMが戦略の失敗をしなければ

    だから「まぐれ」なんです。

    > Danさんの討論会

    私はただのプログラマに過ぎないので。「あるふぁぶろがー」でもないし、ギークでもない。むしろ、そういった「派手なタラントを持ってない人」のロールモデルでありたい。

  3. ピンバック: 404 Blog Not Found

  4. 「まぐれ」≒「運」かな?
    だとしたら、「運は実力のうち」というのを、最近、良く目にするのですがね。

    「運が良い」というのは、周りから見た反応であって、本人的には「アヒルが水面下で必死に足を漕いでいる」ような状態があったのでは?と思います。

    閑話休題。自分のBLOGに記事を書こうかな?と思ったけど、西垣さんは専務時代、リーナス氏の「それがぼくには楽しかったから」の帯にコメントを下さいと、小学館から依頼があったほど、OSSやバザールモデルに理解がある経営者の一人だったんです。

    今回どういう経緯でIPAの理事長を引き受けたのか知りませんが、大企業の優秀なスタッフがするような手厚いサポートを受けられなかったでしょうから、大学生とのGAPは仕方ない結果ですね。

    これらからIT業界全体の駄目さをBLOGに書いてしまう大学の先生?もいるようですし。ま、こういった反響を呼び起こした「IPAは偉かった」ということだけは、間違いないと思います。

  5. > 運は実力のうち

    それは小飼氏のエントリにてw

    > 西垣さんは専務時代

    そう言えばそんなこともありましたね。確かに理解のある人でした。

    > バザールモデル

    バザールでござーる♪ はNECwww

    他のblogでも触れられていますが、今回の戦犯はIPAの席の作り方と、煽りを書いてしまった@ITでしょう。

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