不満はモチベーションに昇華しなきゃ

会社の求人をいつも出している。

別に緊急に人が欲しいというわけではないが、かと言って人手が足りているわけでもないので、「人を取る用意があります」という意思表示をしているわけだ。「どんな人が欲しい」の類は過去のエントリにも出ているし、人についてどう考えているかも書いているので、気になった人は読んでもらうと嬉しい。

で、読んだ一人から応募があったのだが、落としてしまった。それはなぜか。

まぁ一番の理由というのは、今はそんなに「人手」が欲しい状態じゃないということ。

私よりも能力の高い人だったら、私の仕事のうち任せられるものは任せてしまえるから、いろいろ楽になる。仕事が過多状態にあれば「猫の手も欲しい」だろうから、「人手」で解決をつけて楽になれる。でも、現状では応募して来た人はすぐに任せられる程能力も高くはないし、その人が出来る仕事がそれ程過多状態でもない。まぁつまり「出会い」が悪かったということ。個々の事情の考え方や解決のしかたはいろいろあるだろうけど、仕事と人材がマッチしてなかったら落とすしかないという単純な話。

これで仕事が多くて困っている状態であれば、「ブートキャンプ」しちゃうんだけど、そうでもない。そもそも、SIerや派遣をやる気がないから、いきなり仕事を抱えるということもない。「来そうな仕事」ってのがあるからそこに人が必要というのはあるんだけど、今いる人で足りそうだし。

ただ、落とした理由はそれだけじゃない。

本人からメールが来た時には、「現状の仕事の不満」というのが書いてあった。要するに今よりもレベルアップした仕事がしたいということ。これ自体はちょっと向上心のあるエンジニアは誰しも思うことだろうと思う。「日々の仕事がつまらない」というのは適性とか指向とかの問題もさることながら、「本人の技術レベルが仕事のレベルを超えてしまった」結果であることが少なくない。おそらくこの人もそうなんだろうと思う。だから、そういった意味での「意気込み」は感じられた。そういったことは大事だ。

でも、前の会社の時もそうだったのだが、こういった「意気込み」というのは額面通りに受け取らないことにしている。なぜなら、

意気込みは偽造しやすい

からだ。現実どうであるかは別にして、「やる気があります」と言うのは容易なことだ。「気」だけの問題なら、言ったもん勝ちだ。最初の頃はそれに騙されていたのだが、しばらく騙されてからは学習した。そこである対策を取るようにした。それは、極めて単純なことで、

意気込みの裏付け

を示させることをするのだ。

現状に不満を持つことは誰でも出来る。また、そういった不満があれば「次」に対して意気込みを持つことは簡単だし「偽造」だって簡単だ。

でも、そんな時に一番大事なのは、そういった「次」に対して準備をしているかどうかだ。真に現状に不満があって、真にそこから「次」に進みたいと思っているなら、「次」に向けての準備をしてなきゃいけない。それがない者の「意気込み」は、嘘でないにしても実用にならない

そんなわけで、私はその人に以下の文書を出してもらうことにした。

  • 履歴書
  • 業務経歴書
  • 業務経歴以外の実績
  • 自己紹介
  • 志望動機
  • 作品

別に全部が必要ではないが、これらのものから判断しようとしたわけだ。

履歴書、業務経歴書、志望動機、自己紹介の類はたいていどんな求人でもあるので、特別と言えるものは「業務経歴以外の実績」と「作品」だ。実は意気込みに裏付けがあるかどうかは、この2つで判断するのだ。

「業務経歴」というのは確かに大切なのだが、業務経歴というのはサラリーマンの場合「やらされた仕事」ばかりが並ぶものだ。もちろんどんなスキルがあるのかということを見る目安になるのだが、そこに出て来るものは結局のところ「与えられた仕事」に依存してしまう。どんなに素敵な能力があっても、その仕事に出会ってなければ、「業務経歴」にはならない。確かに「実績」というのは大事なものではあるけど、それがその人の能力の全てではない。ソフトウェア開発にある「テストの限界」と同じような問題を抱えているわけだ。

その人が何を指向しているかを見るためには、「業務の外」も含めて見る必要がある。現状の業務に不満があり、それを何とかしたいと思っているなら、「業務の外」で何かをやっているはずだ。

プログラマやシステムエンジニアを指向しているのなら、何かプログラムを作ってなきゃおかしい。出来れば公開しているのがいい。あるいは業務とは直接関係のない試験を受けているというのでもいいだろう。そういったことをするということは、単なるスキルアップだけではなく、

不満をモチベーションに昇華する

という能力があるということにもなる。以前に採用するのにITスキルは問わないという話を書いたように、そうやって作った「成果物」は別に稚拙でも構わない。働いていればスキルは身につくのが当然だからだ。

でも、何も強制されない環境で、そういった「何かを作る(する)」という活動をするという考え方をすることは大事だ。「会社の仕事は退屈だ」と言うだけではなく、「退屈なんでこんなもの作ってます」的なものがあれば、見所がある。そんな人を評価出来ない会社には気の毒だけど、評価されないなら転職する気になってもしょうがないよねと思う。

こういった活動は同時に

意気込みの可視化

ということでもある。「やる気があります」と言うだけじゃなくて、その「やる気」の裏付けになるわけだ。そうすれば、その人に本当にやる気があるのか、それとも口先だけなのかということがわかる。

まぁそういった意味では、自分の作品を公開するということは、一種の「就職活動」でもある。それは「技術の誇示」だけではなくて、それ以外の様々なスキルの裏付けとなる。そういった意味では、何らかの「ふりーそふとうぇあ」を作って公開しているということは、アドバンテージたりうることだ。

件の人には「こんな根胆なのよ」と説明したわけではないので、ある意味アンフェアと映るかも知れない。でも、自分で「やった」と思えるような実績がある人なら、こういった水の向け方をされたら「待ってました」とばかり言いたくなるのが技術屋と言うものだろうから、結果は同じだろう。

実は応募して来た人は知らない人でなかったという事情もあって、お断りのメールの時にこの辺のカラクリを説明しておいた。「次」の機会 — それは弊社なのか他の会社なのかは別にして — の時には、「現状の会社での不満」をモチベーションとして何らかの「成果物」が出せるようになると良いなと思う。

まぁそんなわけで、「次」を目指している人は、その「不満」をモチベーションに昇華して、何らかの「成果物」を作っておくのがいいと思う。別に「次」目指していなくても、そういった作品を見た人がコンタクトして来るかも知れない。