ORCAのアーキテクチャ(IPv6)

初めての人は「(序)」から読んでね☆

「ORCA」の意味

ORCA日本医師会のIT化プロジェクトであり、医療機関のIT化ネットワーク化を目的としている。実際に何に使うかということは、日本医師会の公式の発表等を参照してもらうといい。一例を挙げるなら、医療機関の経営状態を把握して、診療報酬改訂がどんな影響を与えるか調査するとかという経営情報、どんな疾患が多いかという疫学的情報、そういった情報を収集して、医療に役立てようということだ。

だから、「レセコン」というのは、そのためのポータルに過ぎず、これがORCAプロジェクトそのものではない。レセコン部分だけを指す場合、「日医標準レセプトシステム(略して日レセ)」という名称である。

この文は「ORCA」についてであり、日レセだけの話ではない。

ORCAにおけるIPv6

ORCAはネットワークの設計上、IPv6を基本に置いている。もちろん現実のネットワークであるから、トラフィックのかなりの部分はIPv4で行われているのではあるが、ORCAのORCAとしてのネットワークはIPv6を使うというのが基本的なデザインである。これを実現するために、日本医師会として/32のアドレスブロックを保有している。これは少なくとも当時は、ユーザが保有する世界最大のブロックであった(今はどうだか知らない)。

IPv6の採用は、当時でも今でもかなりチャレンジなのではあるが、ORCAとしては必然だったのである。

医師会の構造

医師会には、「日本医師会」の他に、都道府県単位である「都道府県医師会」と、さらに小さなエリアを単位とする「市町村医師会」がある。また、さらに細かい単位の医師会もある。これらの医師会の間には

組織的上下関係はない

のである。つまり、「日本医師会」の支部が「都道府県医師会」なのではなく、あくまでも並列な組織なのだ。ただ、支部的側面が全くないかと言えば、「日本医師会の代議員」は都道府県医師会から選出される… という関係があるのだが、基本的に独立した法人格を持っている。同様な形態を持つ組織は、「社会福祉協議会」「弁護士会」「農協」などがある。これらも地域組織と全国組織の間に直接の上下関係はなく、独立した法人格を持った組織である。

それぞれが別の組織だということは、組織には組織の政治があり、組織同志が友好的かそうではないかは、それぞれの組織の間の関係によって決まる。つまり、「○○県医師会と××県医師会は仲が悪い」というようなことがあったりする。

このことは、ネットワークを組む時に障害となりやすい。

たとえば、○○県が自前でネットワーク(VPN)を組んでいて、××県のネットワークと接続する場合、相互に仲が良ければ話は早いのだが、仲が悪いと政治的にも技術的に面倒なことになる。

VPNの問題

既に一部の地域医師会では、VPNを使ったネットワークが始まっていた。当初は、これをさらに進め、地域医師会のVPNを相互接続するという案が有力であった。

このようなネットワークの相互接続の場合、ポリシーの整合が必要になる。ネットワークの運用ポリシーが同じでないと、無用な混乱の元になる。また、VPNの接続は「相互接続」であるから、接続する相手毎に約束や設定を行う必要がある。

このようなことを行う場合、事前に調停が必要になる。うまく擦り合わせておかないと、後々厄介の元である。ところが、このようなことは往々にして政治問題化しやすい。政治問題になってしまうと、エンジニアがどう頑張っても解決出来ない問題になってしまう。

技術的にも、それぞれのネットワークのIPアドレスやルーティングに厄介を起こす。元々別のネットワークだったのだから、IPアドレスだってそれぞれの都合で振られている。接続するVPNの数が知れている時には相互接続の手間も知れているが、ある程度を超えると加速度的に手間が増える。

というように、「医師会」というものがどんなものかを考えた時に、VPNを相互接続してネットワーク化するというのは、非常に困難を極めることが予想された。技術的な問題だけならまだしも、政治問題が絡むとお手挙げである。

IPv6という解

そういった話をしている時に、スタッフの一人が、

じゃあいっそIPv6に

という冗談を飛ばした。その時は冗談に過ぎなかったのだが、よく考えてみると実にいい案だということがわかった。いい点を挙げると、

  • 相互接続に悩まないで済む
  • 議論に政治が絡まないで済む
  • アドレッシングに関する問題がほぼ自動的に解決する

ということである。問題と言えば、一般のネットワークではIPv6がサポートされていないとか、機器やサーバクライアントの設定が面倒臭いとかということがあるのだが、いずれも

個々で解決可能な技術的問題

だけである。我々が「政治」に関与する手間を考えれば、技術的な問題の解決だけ考えればいいIPv6は、はるかに問題がない。つまり、

困難な政治問題を技術問題に転換する

ことが出来るのである。作るもの、学習するべきものは増えるが、どうせORCAが十分普及した頃にはIPv6が一般的になるだろうと考え、「妙に苦労してVPNを使うよりは、IPv6の方が手間が少なくて済む」ということで、IPv6を使うという結論になった。

幸いなことに、LinuxではIPv6のサポートが入った頃でもあるし、日本のインターネットも「いっと(藁)」のお陰でIPv6が使えるところが徐々に増えて来た。それでも使えないところには、プロジェクトの方でトンネルを作るための機器を用意することにより、使えるようにした。トンネルの用意はIPv6でなくても必要であることはわかっていたので、用意する口の数の違いだけで済んだ。

ORCAにおけるIPv6は、実験ではない。あくまでも実用のための技術である。いろいろ解決して来た問題はあるが、実験とか研究とかの類ではないため、ただの1枚の論文も書いていない。実用システムを作ったところで論文なんて書かないのと同じ理由である。むしろ、IPv6を実験ではなく実用とするものとして扱ったということが、我々の「誇り」でもある。

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