プロというもの

私は以前はTV局に勤めていたし、子会社では音響照明といった舞台関係の仕事をしていた時代もある。だから、今でもテレビや舞台を見る時には、ついそういった目で見てしまう。

8月の末頃、大阪にあるエキスポランドに寄ってみた。そこの野外ステージのようなところで、何やらバンドをやっている音が聞こえたので、ついついのぞいてしまった。しかし、そこでの音は、

聞くに耐えない

ような酷い音である。低音はボコボコ言ってるし、音の「切れ」も悪い。もちろんバランスも滅茶苦茶である。まるで素人がやっているような音である。いや、素人の方が上手かも知れない。機材はそこそこ立派そうなものを揃えていたのであるが、とにかく調整がなってない。席の構造上、ちょっと調整が面倒な点があるのは認めるが、いくら何でもあれは酷い。もう少し何とかして欲しい。

また、10月18日には京都駅のオープン記念らしく、嘉門達夫のコンサートを室町広場(だったかなぁ)でやっていた。これがまた照明も音響も下手くそである。照明は「まー適当にやっかぁ」的な様子であるし、音響は例によってボコボコ(低音の締まりがない)のキンキン(高音のバランスが変)のワウワウ(エコー対策がしてない)である。まぁここの会場も音響的にはなかなか厳しく、どうしてもエコーは避けられないし、ハウりを嫌うとイコライズも難しいはずである。とは言え、嘉門達夫は基本的には「言葉の人」であるから、喋りや歌詞がちゃんと聞こえないと面白くないのである。しかし、それが全然ダメなのである。中程で聞いていた私がそう思うのだから、後の方の人はもっとダメだったんじゃないかと思う。

おそらくどちらのコンサートも、それなりの人がそれなりの金を出して企画したことであると思う。また、出演者もそれなりに思ってやっていたはずである。ところが、いわゆるステージスタッフがなってないので、せっかくのコンサートが台なしである。

ところで、私はステージ屋の道を進み続けることを諦めてしまった(今でもたまにアルバイトではやっている)。これは今の会社が忙しいとか、ステージ屋をやると休日が人と違うことになって遊べないとかという理由はあるのだが、一番大きかったことは、

自分はその道のプロとしての仕事が出来ない

と見切りをつけたからである。「ステージ屋としての私」が、「コンピュータ屋としての私」を越えることが出来そうになかったので、自分に見切りをつけたのである。本当のことを言えば、前の会社のコンピュータのセクションから外れた時に、「もう二度と本業でコンピュータは触るまい」と決心をしていたのであるが、やはり10数年ちゃんとやって来て築いた「コンピュータ屋としての私」と同じようなレベルのステージ屋にはなれそうにないので「仕事をするならプロとして働きたい」と思っていた私は、プロとしての技量が持てない自分を見限るしかなかったのである。

何しろコンピュータ屋としての私と同じレベルをステージ屋に適用するなら、おそらくは、「安室奈美恵やマライヤ・キャリーのコンサートを仕切っている」くらいのレベルになるであろう。しかし、どう頑張っても私はそんなステージ屋にはなれそうにないので、その道のプロであり続けることを断念したのである。

とは言え、そんな私でもプロとしてメシを食っていた時代はあるわけで、一応「プロとしての自覚とプライド」は持ち合わせている。いや、このようなものはいわゆるプロには共通のものであるから、コンピュータ屋では少なくとも名実共にプロである私は、当然プロとは何たるかくらいは知っている。だから、ステージ屋をやっていても、自分の技術で出来る限りのことをやるし、妥協や「ま、いいか」的なことは、余程の事情がない限りはやったりしない。それが「プロ」というものだと思っている。そのようにしているから、こんな私にでも指名で仕事が来ることだってあるのだ。

そのような目で冒頭のようなステージを見ると、

お前らそれでもプロか!

と言いたくなるのである。確かにもらった金以上のことをする必要はないかも知れない。しかし、そうだからと言って手抜きをする理由にはならない。そもそもステージ屋のギャラというものは、

人件費 × 人数 + 機材損料

となるのが普通であるので、技術を尽そうと手を抜こうと同じである。しかし、そうであるなら、「技術を尽すのがプロ」ではないかと思う。同じ金なら手を抜くというのは単なるサラリーマンに過ぎない。

まぁ付け加えておくと、技術というものは精進しないと身につかず、手を抜くと減って行くものである。どんなくだらない仕事でも、しっかりやっておかないと技術は身につかないものである。だから、手を抜いて楽をしたような気になっても、その分下手になるのだから、後でそのツケは回って来る。プロたるもの、その辺はよく理解しておいた方がいい。

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