秋葉ヨドバシのビルに、刀削麺の店があって、何度か行ってる。その度に「自分で作れないか」と思っていた。
しかし、「美味しんぼ」には刀削麺を作るのは職人技のようなことが書いてあったし、自分で考えてみても粘る小麦粉の塊をあんなにシャーシャーと削るのは難しいと思っていた。なので、「食べに行くしかない」と諦めていた。それに以前ラーメンを作った経験から言えば、「自分で作って上手く出来ても、しょせんラーメン」ということもある。
ところが、デイリーポータルに、
刀削麺を作りたいというのが出ていて、我然作りたくなった。
件の記事を読むとどうやら、「やることさえちゃんとしておけば、作れないことはない」ことがわかる。
問題の「職人技」なのだが、実はちょっとふに落ちないところがある。
ヨドバシの店もそうだが、近頃増えて来た刀削麺の店は「チェーン店」なのだ。最初は「セントラルキッチンで麺を作っている」と思っていたのだが、店で削っている。これが本当に「職人技」であれば、「店で削る」なんてのは不可能だ。それとも、中国12億人の中から「職人」をリクルートしているのだろうか?いや、お店ではおねーちゃんがやっていたから、そんなたいそうなものでもない。だから、「職人技」ではないのかも知れない(これは伏線)。
そんなわけで、とりあえずチャレンジしてみる。
デイリーポータルの記事によると、生地はかなり堅くないといけないようだ。そこで水分少な目にこねる。だいたいに麺ものってのは、つい水を多めにしてしまう失敗をするものだから、ちょっとづつまとめるようにして、全体に水を回すようにしてこねた。
出来てみると、恐しく堅く、かつパサつき気味。いくら何でもこれではいかんだろうと、「普通のうどんの生地よりもかなり堅い」くらいのところにしたものを作って、ビニール袋に入れて寝かせておく。この時期なので部屋に転がしておく。
次にこれを削る刀を用意する。
チェーン店で「おねーちゃん」が麺を作れるのも、デイリーポータルの素人がそれなりに作れたのも、実はこの「刀」にヒントがあるのではないかと思う。たいていのものは、道具は技術を越える。「弘法筆を選ばず」と言うが、あれは「弘法大師」だったから筆を選ばなくて済んだんだと解釈するべきだ。そんなわけで刀を作ることにした。
その前に生地をスプーンでちょっとひっかいてみたのだが、まるっきりうまく切れない。つまり、「刀」は本当にちゃんと切れるものでないと機能しないようだ。デイリーポータルでもステンレス板を砥石で砥いでいた。
そこで台所を見回すと、ステンレスのバットを発見した(左の画像で生地の載っているもの)。これを材料にすれば色々ちょうどいいと思い、ハサミで切ろうとするが、まるっきり歯が立たない。そりゃ柔かいとは言え、「刃物」にしようと思う材料なんだから、切れるわけがない。ステンレスのバットを材料にするのは諦めた。ただ、サイズ的には「生地を載せる台」には使えそうなので、これは台にすることにした。
さらに見回すと、コンビニで買って来たナマクラな果物ナイフを発見する。ナマクラと言えども刃物なんだから、これを使うことにする。
デイリーポータルの記事やお店で見る刀を見ると、どうもこの「刀」は曲がってないといけないようだ。そこで、このナイフを曲げることを考える。とりあえず、適当な隙間に入れて力をかけてみる。しかし、
まるっきり曲がらない
のだ。そりゃそうだ。刃物材がそんなに簡単に曲がるわけがない。曲がるよりも折れるはずだ。しょうがないので、「焼きなまし」をしてみたのだが、これもなかなかうまく行かない。そこで、「熱間加工」つまり熱をかけて赤い状態で曲げてみることにした。そうすると、なんとか曲がったので、焼きを入れ直して、砥石で砥ぎ直しておいた。
鍋に湯をわかしながら、スープを作る。
スープは、「豚挽肉に玉葱の細切れを混ぜて炒めたものに、豆板醤とウェイパーを入れたもの」である。
まず、玉葱をスライスする。スライスしたままでは長いので、適当にハサミで切る。なぜハサミかと言えば、スライスを受けたボールから移さずに作業できるからだ。これに豚挽肉を適当に入れてほぐしておく。塩や胡椒をちょっと入れておく方が、味が薄まった感じがしなくていい。
中華鍋にゴマ油を入れて、混ぜた挽肉と玉葱を炒める。程々炒まったところに、豆板醤を入れてさらに炒める。ここにウェイパーを入れてお湯(水でもいいけど)を入れてよく混ぜておけばスープのできあがり。
さて、いよいよここで麺を削ることになる。
おそるおそる削ってみると(飛ぶと厄介だから)、うまく削れない。どうも生地が柔かだった。かなり堅くしたつもりなんだけどな。しょうがないので、さらに粉を足してこね直し、袋に入れて風呂に入る。つまり、ちょっと寝かす。
これで削ってみるが、やはりうまく削れない。それにどうも刀の曲げも少ないことに気がつく。そこでさらに曲げて再チャレンジ。馬鹿の安倍もたまにはいいことを言う(謎
ふと思い立って、思い切って削ってみたら、思いの外うまく削れた。そうか、ゆっくりやるといけないんだということに気がつく。そこで、「俺は職人なんだ」と暗示をかけて、シャーシャーとやってみると、意外にもうまく削れる。短かかったり、厚かったりするのも出来るが、あまりややこしいことを考えないでやって行くと、どんどん行ける。
適当に茹でて、さっきのスープをかけて食ってみると、まぎれもなく刀削麺だ。
やってみて気がついたポイントとして、
- 生地はとにかく堅くこねる。心配になるくらい堅くていい。寝かすと意外なくらい柔かになる
- 生地を乾燥させない。油断するとどんどん乾燥するが、乾燥すると切れ難くなる
- 生地に湯気を当てない。湯気で柔かくなると、生地から麺が離れにくくなって、うまく鍋に落とせない
考え方にもよるが、うまく道具を作ってコツをつかめば、ウドンを打つよりも簡単かも知れない。
さらに研究した結果は(2)をどうぞ。