法人税率

これもよくわからんので、識者がいろいろ教えてくれたり議論されれば良いと思って書くんだけど。

よく、「法人税が高いと海外に法人が逃げる」と言う人がいる。

法人税が高すぎて日本企業の競争力がそがれてしまう

まぁ確かに法人税は安いとは思えないので、そうかなって気がしないでもないけれど、じゃあその対偶逆命題の「法人税が安いと海外の法人が日本に来る」んだろうか?

うちみたいな零細企業は、利益はある意味どうでもいい。配当圧力がないから、利益が出そうになったら利益なんて出さないで従業員にボーナスでも出せばいい。法人税をいっぱい納めたところで、税務署から菓子折りが来るわけでもないし、誰かが誉めてくれるわけでもない。だったら、目の前の従業員にボーナス出した方が、直接的に喜んでくれる。まぁ、不幸なことにそういった状況にないからボーナス出ないんだけど、方針としてはそうだ。まー、もちろん早く返すべき借金とか、とっとと返したいわけだけど。

法人税で何が困るかと言えば、税金は現金で納めなきゃいけないから、キャッシュフローを悪くする。零細企業にとってはこれが痛い。会計の話を細々書くとボロが出たりするんであまり書かないけど、税金ってのはキャッシュフローを悪くする要因であることは確かだ。特に売掛が多くて利益が出てしまってるとかだと、楽に死ねる。

だから、本当は利益出して内部留保とか積みたいところなんだけど、キャッシュフローが悪くなるのは嫌だから、利益を出すことに向けて頑張るとかとゆーことにはならない。「いい会社」になるには必要なことだってわかってるけど、「いい会社」になることよりも、「潰さない」ってことの方が大事なわけで。

そーゆー事情があるから、法人税は下がってくれると良いよなーと思いつつ、「どーでもいい」ものになっている。まぁ、こんな事情は他の中小零細の会社でも似たようなものだろう。「利益よりも分配」とゆー、まるで社会主義のような、公益法人みたいな運用になってしまう。

で、まぁそんなことを背景にしつつ、「法人税が高いから海外に法人が逃げる」論を見たりするわけだ。つまりまぁ、

法人税率は他人事

としてだ。

仮に、「法人税率が高いから海外に法人が逃げる」が真だとすれば、「法人税率を安くすれば海外から法人が来る」ということになる。これが正しければ、

税率を下げた以上に法人が増えれば、
法人税収が増える

ということが可能になるはず。台湾が13%くらいだとゆーことだから、一気に10%くらいにしてしまえば「国際競争力」がつく。となると、日本は、

法人税のタックスヘブン

とゆーことになって、会社を作ったら日本に登記しておこうかとゆーことになる。今が40%くらいらしいので、30%も下がってしまうけれど、その分払う企業が増えてくれればいいわけだ。税率が1/4になっても、法人益が4倍になればいい。流入する法人の分と、競争力がつくと言われてる分がセットになれば、そんなに大変なことでもないんじゃないか?

具体的には、日本に新規に登記した法人は、「○年間は税率10%」とかにしておく。これは「海外法人」だけじゃなくて、ベンチャー支援にもなる。そうやってしばらく様子を見ておいて、いい具合に法人税収が増えて行ったら、段階的に古くから日本に登記してある会社も法人税率を下げて行く。そうすれば日本は

法人税収でウハウハ

ってことになって、いろいろハッピーになる。税収が増えれば、いろんな問題が解決するし、インフラを充実させることも出来るから、どんどん海外企業を誘致することが出来て、ますます豊かになって行く。

とゆー、おいしいシナリオが作れるはずだ。それなら、戦略的に安い法人税を設定することにして、国民に理解を求めればいい。そーゆー「国際戦略」があっても良いと思う。

でも、正直なところ、私はこのシナリオには否定的だ。それは、

  • 日本は法人税率もさることながら、規制が厳しい
  • 日本人は日本に外国人が来ることを好まない人が多い
  • そもそも、日本にそんなキャパシティがない

とゆーことからだ。

規制が厳しいとゆーことについては、前にも書いたが、日本でネットサービスを新規に始めることは絶望的とさえ言える。別にこういったことはネットサービスの類に限ったことではなくて、他の業界でも不条理な規制はいまだに少なくない。「法人税率」に対して工夫の余地はたくさんあるのだが、「規制」に対して工夫する余地はほとんどない。下手に頑張れば、

脱法企業

の烙印が押されてしまう。これは直接的な規制だけじゃない。日本では、「何となくわけのわからないもの」は「悪いもの」と同義なのだ。「わけのわからないもの」で何か問題でも出て来れば、マスコミの格好の餌でしかない。日本には「制度による規制」だけじゃなくて、

空気による規制

があって面倒臭いわけだ。

また、国籍法の一連のことで見る限り、日本人は日本に外国人が居住することを極端に嫌う。「滞在」は大歓迎だが、「居住」は嫌だと言うわけだ。これはウヨは言うに及ばずだろうが、そういった排他的思想を持ってない人であっても、周囲に外国人が増えると、何となく落ちつかない。正直私も「わけのわからない言語」で会話している人々(この辺にはやたら多い)がいると、なんとなくイラっとしてしまう。理屈じゃなくて感情だ。

制度にしても、日本では「外国人を居住させる」ことについて、うまい具合な制度になってない。実質的に

帰化か滞在か

の二択になってしまう。「海外からの法人の役員が心地良く居住出来る」ようにはなってない。そういった人達の権利を保護するような制度はないのである。

とか考えたら、「おいしいシナリオ」は、単なる「法人税」の問題じゃないなーとゆーことになる。

で、これはひっくり返すと、「法人税が上がったところで、日本の法人は逃げない」とゆーことでもある。日本とゆー環境に最適化して利益を上げている企業が、海外に逃げたところで同じ利益が上がるとゆーことにはならないからだ。

「法人税減税論者」はぜひとも、このエントリをdisって欲しい。そして、それなりのポジションの人はこの「おいしいシナリオ」を実現して、

豊かな日本

を作って欲しい。そこまで行かなくても、

法人税率を下げると、企業の競争力が増し、
結果的に税収が増える

とゆーことを見せて欲しいところ。「風が吹くと桶屋が儲かる」的な話ではなくて、計算で示して欲しい。

PS.

もちろんそういった税制の結果、それなりにやっている国があることは知らないではない。そういった「タックスヘブン」は既にいくつもあるわけで。問題は、そういった少数の例ではなくて、「日本の法人税収」を支えられるだけの誘致が可能かということ。法人税率を1/4にしたら、4倍以上の法人益がなければ、単なる減税に終わる。「シンガポール」みたいな小国の話がしたいわけじゃない。あの規模の国の場合と日本とでは、いろいろ環境が違う。また、欲しいのは「計算で示される」ことであって、「こーゆー例がある」ではない。その「例」が日本に適用出来るかどうかは、別の話だとゆーことが↑の趣旨でもある。

あと、「加減」とゆー意味では、中途半端に下げてもダメだ。ここで書いたような「おいしいシナリオ」が成立するためには、国際競争力がある税率でなければ、誘致効果はないからだ。「既存企業の競争力」のためは、中途半端でも良いかも知れないが、そういったことに敏感な経営者なら、最初からもっと税率の安いところに登記する。つまり、法人税率を下げるべきというのは、

4倍以上の法人益を目指して
法人税率を1/4にするかどうか

なのだ。そうでなければ、「一部優良企業を優遇して終わり」でしかない。

個人的には、この「おいしいシナリオ」は成立してくれると嬉しい。でも、そういった「願望」と「現実」は等しいとは限らないだろうということで、わざわざ悲観論を書いたのだ。

PS2.

ところで、今既にこれだけ税率が違うのであるけど、それを理由に海外に登記し直した(つまり出て行った)例があるのだろうか? 確かに金融ファンドみたいなのとか、いかにも怪しげな投資会社とかがシンガポールやケイマンに登記してるとか、そーゆー話はいくつも聞くんだけど、日本で既に法人税をしっかり納めているような「優良企業」が、「日本は法人税が高いから」という理由で出て行った例があるんだろうか? ないんだったら、下げる理由はないよね。

あと、「法人税払うくらいならボーナス出す」に対するつっこみがあったけど、これは何かおかしいか? 結局は「所得税」という形で税金は納められるわけだし、給与所得者の可処分所得を増やす。これは普段みんなが求めれることと違うの? それとも、従業員の給料を下げて法人税を払うのが正義なの? 上場企業でなければ、そんなことするメリットはないと思うのだが。

PS3.

「それは対偶じゃねーよ、逆だよ」とつっこまれてしまった^^; じゃー、必ずしも真じゃないじゃん。あれ? でも、やっぱり結論は… いろいろ言ってる人達は? いかにも「もっと法人税が安ければ海外企業が来るんだ」って言いたそうな表現の人は少なくないのだが、それは単なる勘違いなのか?

「disってくれ」って書いてるんだけど、disるポイントはその辺じゃなくて、「おいしいシナリオなんて実現しない」って言っている部分だからねっ!

PS4.

「否定的なシナリオ」として書いたんだが、

【スクープ】政府「法人税ゼロ」検討
成長戦略で外資の参入促進、シンガポール並み優遇に

本気でやるのかよ… ↑で書いた「夢をカタチに」するつもり?

法人税率” への8件のコメント

  1. いやー、全くの同感です。
    このエントリの延長には法人税を上げても法人は逃げないし、金持ちをいじめても金持ちは逃げない、というところがあると思います。
    彼らは「空気による規制」の受益者なのですから、「空気による規制」のないところに行くわけがありません。

  2. ピンバック: とっても! ちゅどん(雑記帳) » Blog Archive » 法人税率 | おごちゃんの雑文

  3. 「法人税が安いと海外の法人が日本に来る」は対偶ではなくて、「逆」では?
    対偶は、「法人が海外に逃げないならば、法人税は安い」では?

  4. タイは、法人税・所得税とも決めうち30%です。理由は簡単。税務署がチェックしやすいからね。
    日本は、30%って聞いたけど、タイと同じ様なもんです。それと、こっちは消費税7%だから、日本より高い。

    それで、こっちで仕事をしていて経理帳簿なんか眺めていると、実にシンプルなのよ。T字のバランスシートなんか作らないし、監査法人の経理報告書読むと、前年度との比較で数字読んで、簡単に判断してしまう。税務署も、その数字の食い違いに大きな箇所で脱税がないか、調べてるだけだしさ。

    何でもすごく、シンプル。

    相続税も無けりゃ、社会保障もお飾り、一日当たりの法定労賃が六百円の国よ。でも、金さえあれば、何でもOKね。

    それで、結論ですけど、法人税を上げたら法人は逃げますし、金持ちをいじめたら金持ちは逃げます。空気の規制なんか、当てにならんよ。

    実際、自分の取引先では、日本の工場をたたんでいる会社も多いしさ。会社の暖簾だけは消したくなかったんだろうと思う。

  5. >仮に、「法人税率が高いから海外に法人が逃げる」が真だとすれば、
    >「法人税率を安くすれば海外から法人が来る」ということになる。

    この部分は、単純に論理学的な推論を使って議論しているのでしょうか?だとしたら、後者の命題は、前者の命題からは導けません。対偶と逆の扱い方を混同しています。
    A:「法人税率が高いから海外に法人が逃げる」
    が真だとすれば、
    B:「海外に法人が逃げないならば、法人税率が高くない」
    が真であることが言えるだけです。
    C:「法人税率を安くすれば海外から法人が来る」
    の真偽については、何も言えません。少なくとも、CはAからは導けません。

  6. 法人税を上げたからって、そう簡単に出て行ける産業って
    どのくらいあるんですかね?

    ろくに海外での交渉事の経験も無い中小企業が
    「法人税上がったから出ていこうぜ!」ってなりますかね?

    逆に大企業は税金上げなくてもアジアに拠点移していってるけれど、
    タックスヘイブンみたいな国や馬鹿みたいに人件費の安い国と
    張り合って税金安くしたり給料下げたりするのは
    それこそ無茶でしょうし。

コメントは受け付けていません。