そろそろ「独立家電師」がいてもいい

先週の日曜日に、「電子工作コンテスト」なるものに行って来た。

電子工作コンテスト2009

あまりイベントには出掛けないんだけど、審査員とゆーことで呼ばれたわけ。まぁ詳細は件のサイトで。

そこで出品した人達といろいろ話してて思ったのが表題のこと。

この中で「審査員特別賞」なるものになった、MP3プレイヤがある。

Rev8.0 【有機ELディスプレイ付きインナーイヤープレーヤ】

実は投票の時に私はこれに凄く低い評価をつけていた。と言うのも、

あまりに完成度が高過ぎて逆につまらん

と思ったからだ。それくらい完成度が高い。

こういったものはあまりに完成度が高いと、市販の商品と同じになってしまう。つまり、家電屋で売っているレベルとの比較になってしまう。そうなると、単に「ちっちゃいMP3プレイヤ」とゆーことで、下手すりゃ1000円くらいで売ってる… ってことになってしまう。そういったレベルで見れば、「そういった価値」に見えてしまうわけだ。

とは言え、技術的には物凄いエネルギーがかけられているし、当然完成度も高い。そう言った意味では当然高く評価されるべきだ。

と共に、下手すりゃヨドバシで1000円、高くても10000円くらいで売ってるようなものを、自分で作ってしまったという「モチベーション」は凄い。動機は「コードが邪魔にならないMP3プレイヤが欲しい」ということらしいのだけど、その辺の解決方法はいくらでもあるわけで、そういった細かい部分に注力して作るというエネルギーのかけ方はハンパない。

当然、これくらい完成度が高いと「欲しい」とかゆー人も出て来るわけで、実際にそういった声があったし、「作りたい」という人もいた。まぁ、普通の人がキットで作れる程は簡単なもんじゃないんだけど。

でもここで気がついたのは、こういった「市場にありそうだけどない製品」に対する需要は確実にありそうだということ、また「家電」に対して作ってしまう程の思い入れを持つことは不可能ではないということだ。

今時の「家電」ってのは虚しいもので、多少高価でも量産されている。お影でハイスペックなものが安かったりするのだけど、結局のところ

消耗品

であって、その「品」に思い入れを持つことは難しい。

でも、かつてのテレビやラジオなんてのは、値段も凄かった(大学卒初任給の○倍とか言われる)だけではなく、その値段に見当った意匠もされていた。よくネタにされる、「観音開きのケースに入ったテレビ」とか、ランプシェードに組み込まれたラヂオとか。つまり、値段に見当った

アート

であった。だから、こういったものは今でも「骨董品」としての価値を持って取引される。買った人も多分「一生もの」のつもりで大金をはたいたんじゃないだろうか。

今の家電はそういった点では面白くも何ともなく、「大卒初任給の○倍」なものであっても、まぁいいところ数年で使い捨てだ。下手すりゃ故障時の修理すらされない。意匠がいいからと、不動品になっても所持され続けるというものでもない。カフェの飾りにもならない。

話が外れるのだが、「時計」も似たような状況にある。私が子供の頃くらいまでは、時計は高級なもので、一生ものとして購入されることが多かったように思う。「形見の時計」なんてものが大事にされたりしたし、実用品でもあった。

ところがちょうど私が腕時計をしようかという頃に、「クオーツ」なる技術が普及して、同級生が持っている時計がことごとくクオーツだった。つまり電子化されていた。液晶表示の時計とか最先端な臭いと共に使われ始めた頃でもある。まぁ私は親父にもらった

機械式鉄道時計

だったんだけど。

この頃からクオーツはほぼ使い捨てだ。液晶は数年でボケるし、そもそも単価が安い。パチンコの景品になってたりしたし、今や100円ショップであったりする。私が子供の頃は「おもちゃの時計」はシールが文字盤の本当におもちゃだったけど、今時は時計機能が本物だったりする。その程度になってしまった。そんなものでも、スペックだけ見れば、高級品とされるスイス製なんて目じゃなかった。そのせいで、スイスの時計産業は打撃を受けたらしい。

ところが、「スイス時計」は別の方向に走り始める。時計の持つ「精度」は既に達成されている、あるいは重視されるポイントでなくなってしまったがために、

個性

で勝負に出た。ブランドや宝飾に走るものもあれば、高度なメカで勝負に出るもの、また「一品もの」の特注生産するものとかだ。

「複雑時計」なんてのは、ある意味「馬鹿の極み」だ。修正不要の万年カレンダーやら、位置を入れると日の出日没を表示してくれるとか、デジタルでやればちょっとのプログラムで済むことを、歯車でアナログ計算をする。ポケット電卓をリレーで作ってるような、そんな感じさえある。そういうある意味「誰得?」と思うようなものを腕時計や懐中時計に組み込んでいる。その存在そのものがアートだ。

このお影で、時計におけるスイスの地位は、それまでとは違った意味での地位を持つようになった。また、「職人」も単なるライン工ではなくなった。文字通りの「職人」という地位を持つに至った。その究極は「独立時計師」と呼ばれる人達で、年に数作、あるいは受注生産で時計を作る。彼等はパーツレベルで手作りだ。

実は件のMP3プレイヤを見て思ったのはこのことだ。たいていの家電は、製品としてのスペックはもう十分になってしまったのだから、そろそろ

品物としての価値

が求められても良いんじゃないか、あるいは「一品もの」があっても良いんじゃないかということを思ったのだ。特に個性が欲しい人向けに、あるいはプレゼントとして、こういったものが作られるということがあっても良いんじゃないかということだ。

家電が使い捨ての消耗品になってしまっているのは、それを作る技術者としてどう感じるところなんだろうか? 私はそういったものを作ったことがないのでよくわからないのだが、著書がBook OFFにあったりすると悲しかったりするというのと似たものがあるんじゃないかって気がする。もちろん「とっととディスコンにしてくれ」な思いをするものもあるのだろうけれど、やっぱり「作者」としてはいろいろ思うところなんじゃないかと思う。また、実際に作る人も設計する人も、つまりは「ライン工」でしかなく、その地位もあまり高くない。

とか考えたり、「中国製」に侵されつつある世界の家電のこととか考えたら、スイス時計の「独立時計師」のような

独立家電師

が出ても良い時期ではないか。「一本もの」を作るとか、言われた仕様で作るとか、いわゆる「職人」でないと出来ない領域の「家電」を作るということがあっても良い時期ではないだろうか。特にアクセサリー性の高いものはプレゼントにも使われたりするので、需要は少なからずあるだろう。

てーか、もう技術的に十分熟成して完全にコモディティ化してしまったものは、

「早い、安い、うまい」のスパイラル

から抜け出す方向に行くべきだ。スペック勝負の世界では、コモディティ化という改良は必要だけどね。

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This entry was posted on12月 4th, 2009 at 21:33:16. You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0. Both comments and pings are currently closed.

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