就活中の人達へ

景気もイマイチ良くないので、今から就活というのは、新卒転職どちらも容易じゃないだろう。

正直なところ私は職を得ることそれ自体にあまり苦労したことがないので、その手の秘訣については何も知らない。とは言え、「どんな職に就くべきか」ということは結構悩んで来た。だから、そういったことから一つだけアドバイスしよう。それは

天職は都市伝説

と思えということだ。

就職となると、自分の好みや方向性、あるいは能力、その他諸々の「欲」の類があって、簡単には決まらない。だいたい、一生のうちの何割という時間を職場で過ごし、職のために住居を変えることも少なくない。自立してからの生活費は全て自分の職によって得るものだ。だから、簡単に決められるものでないのは確かだ。

また、終身雇用なんてものが既に形骸化しているとは言え、「能力」という意味ではそう簡単に変えられない。プログラマが板前になるような、大きな「転職」ってのはなかなか容易ではなく、せいぜいが「転社」くらいしか出来ない。多少タフな新卒就活をしている学生なら、「ダメなら転職」とか思ってもそれはせいぜい「転社」レベルでしか思ってないだろう。

景気もイマイチで、なおかつ一番就職がいいのは新卒だということで、ある種のあせりがあるのもわからんではない。その上でさらに「自分に合った」とか考えると、ますますあせりを感じるだろう。いわく、

一番条件のいい時に一番良い方向に

ということで、何らかのタイムリミット的なものを感じてあせる。まぁわからんでもない。

そういった人達に言っておきたいのが、冒頭に書いた「天職は都市伝説」ということだ。天職を得るなんてことは、環境的にも選択的にも不可能だと思っていい。

私がプログラマが天職だとわかったのは、前の会社を作るちょっと前くらいだ。それまで、自分がどんな専門性を持っているか、どんな仕事をするべきかということは、正直よくわからなかった。私が妙に器用なせいなのか、与えられた仕事はそれなりに上手くこなしていたし、平均よりは上くらいのレベルになれるなという感覚は持っていた。もちろん32くらいの時に、コンピュータ部門から高周波部門に異動になった時も、最初はいろんな戸惑いがあったけれど「やれる感」はあった。

その後いろいろなことがあり、テレビ業界っつーかマスコミに勤め続けるということに将来性が見い出せなくなったということもあり、「転職」を考えるようになった。その時、もういい加減いい歳なんで、あらためて「天職とは何か」ということを考え、その結果に現在がある。とか書くと、いとも簡単に「天職」がみつかったかのように聞こえるけどそうでもない。

「天職」と言えば、「自分が得意な仕事」と思うだろう。確かにそれは間違いじゃない。だけど「得意な仕事」というのは簡単じゃない。能力的に得意だけが「得意」じゃない。生活の面も考えるべきだろうし、職場環境のことも考えるべきだろう。判断のファクターがいくつもあるのだから、それぞれに評価がある。でも、体は一つだから結論も絞らなきゃいけない。どのファクターで結論を出すか、それも迷うところだろう。つまり、天職なんてものは、

考えれば考えるだけ迷うもの

なのだ。

その当時、既に言語処理系の著作があったり、Linux界隈ではそれなりに名前が知られていたりしたけれど、それであっても「コの業界が天職」なんて結論に至ることは難しかった。普通のサラリーマンをやり続ける限り、コの業界でなくても給料はもらえたし、それが嫌いな仕事でもないし、嫌な職場環境でもないし、一度コの業界を抜けると戻るのは結構億劫なもんだし、コンピュータは趣味でもいいんだし。

そうやって、じっくり考えれば考える程、わからなくなる。じゃあ、そんな中でどうやって「天職」と決めたかと言えば、取引先の人に

先生

と呼ばれたからに過ぎない。実にささいな理由に見えるのだけど、その背景にはいろいろなものがある。

というような、個人的に天職を発見出来たとか、その動機とかはどうでもいい。ただ、そこに至るまでには長い時間と、それなりの経験があったということ。また、ちっとやそっとの「高評価」は単なる1ファクターに過ぎないということはわかって欲しい。つまり、

天職を見い出すのは容易じゃない

ということだ。高々、数ヶ月の就職活動や「○○診断」の類で発見出来ると思ったら、それは甘い。ましてや、少ない経験で「これが好きだから」なんてことでわかろうはずもない。眠っている能力があるかも知れないし、下手な横好きなだけかも知れない。

そんなことじゃ困る、適職の見つけ方を教えろという話もあるだろうけど、それは「やる気の出し方」と同じなのだ。小飼氏が言及しているように、「手足を動かせ」と同じだ。仕事なんて、やってみて初めて向き不向きがわかる。さらに言えば、好きと出来るは違うし、得意と稼げるも違う。その辺の「重みづけ」についても、まずはやってみて、肌感覚を得ないことにはどうしようもない。

だから、新卒の就活だったら、「天職」なんていうわけのわからないものを求めることに時間や手間をかけるよりは、「まぁ自分のキャラと大きく外れていない」程度の基準で、あとは待遇とか見栄えで選んで、「とりあえず入ってみる」くらいの軽い気持ちでも良いと思う。どうせ終身雇用なんて崩壊した。いろんなことが合わなかったら、遠慮なく転職なり転社なりすればいい。もちろん「これがやりたい!」という強い思いがあるんだったら、それにまっしぐらでもいい。とにかく、

天職は都市伝説

と割り切ってしまって、「天職の呪縛」から離れることだ。多分、それが一番「天職」に近付く方法だろう。

就活中の人達へ” への3件のコメント

  1. いまだ就活継続中の身です。
    やってみてダメだったらと思うと怖くなってしまうんですよね。
    そんなこと言ってると職なしになってしまいそうですが。

  2. >そんな中でどうやって「天職」と決めたかと言えば、取引先の人に「先生」と呼ばれたからに過ぎない。

    まったく同じ理由でした。ちょっとびっくり。

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