建設業界の今日は、IT業界の明日

日経ビジネスオンラインより。

談合消滅後の建設業界で何が起きているか
工事単価の“ダンピング”や発注者の権限強化で職人は青息吐息

談合がなくなったらのとタイミングを同じくして、ダンピングが始まったという話。ただし、本文中でも書かれているように、直接の因果関係があるわけではなく、時を同じくして発注者が強くなった結果、ダンピングすることになったという話らしい。

それはまぁそれとして、件の記事を見ていると、これは近未来のIT業界の図だなと感じると共に、「職人」とは何であるかということがわかる。

経済環境が厳しいらしいこと、特にそれが「発注者の強さ」に起因するらしいことは、言われるまでもなくわかったこと。そういったネガティブなことに関して言えば、既にIT業界にも起きているらしく、重層下請け構造による不幸の話はよく聞くところ。ヒエラルキーの下になればなる程回って来る金がショボく、現場で働いている者に一番分け前が少なく、伝票を右から左にしてる奴等が一番持って行く。まぁどこの世界でもあることのようだ。

でも、私が注目したのは、そういったネガティブな面ではない。

問 そこそこの職人でも作れるように、建築の各工程で標準化を進めようとしていると言いたいのでしょう。

答 そうや。腹立つで。もちろん、言いたい意味は分かるよ。建設業界もできるだけ工業化し、効率化していかなければならないというのはその通りや。それは目指したらいい。 それでもな、あんた、その道50年の天ぷら屋の親父と同じ材料で、同じの揚げて食べてみ。どっちがうまいか、そんなのアホでも分かる。建築も同じや。絨毯一つ、壁のクロス一つ張るにも職人の業がある。伸びシロを無視してぴしっと張れば、時間の経過とともに浮いてくるやろ。糊の伸ばし方一つ取っても全然違う。

この言葉がとても深い。「職人の世界」はある意味「一生プログラマ」と同じ世界だ。もちろん、「システムエンジニア」になったり「経営者」になったりする職人もいるわけだけど、そうでない大多数の職人はそうじゃない。たいていは「この道○年」という経験を積み、腕を上げる。プログラマが35歳で定年とか言われるのに、職人の世界は35なんて小僧に見える。もちろん途中でそういったことに見切りをつけて、「システムエンジニア」やら「経営者」にドロップアウトする職人もいるのだけど、残った人達はそれなりのものになっている。

私は「プログラマ」だって職人の一種だとして評価されるべきではないかと思っている。確かに、システムをデザインするようになったり、営業が出来たり、経営が出来たりするという方向も悪くない。でも、好きでプログラマを職業に選んだ人は、別にシステムのデザインをしたかったわけでもないし、営業や経営をしたかったわけでもない。興味の対象、得意分野というのは流動する(べき)ものだと思うが、そうでなければならないというわけでもない。プログラマであることで最大限の能力が出せる人なら、一生プログラマである方がいい。「定年」になったからと言って、能力を発揮しにくい仕事に就く必要はないはずだ。

「この道40年の職人」が尊いものとして評価されるのであれば、「この道40年のプログラマ」が同じように評価されてもおかしくない。まぁそうなり難いのはコの世界に多い「新しいものはいいもの」病が原因ではあるのだが。

それと共に引用した文章の中に、興味深いことが書かれている。それは、効率化や標準化というものを認めた上で、さらに職人の技を認めているということ。

コの業界にありがちの勘違いで、様々な規定、たとえばコーディング規約や標準工程といったものがあると、成果が平均化されてしまうというものがある。つまり、決められた事がたくさんあると、「腕」が発揮しにくくなると考えている人達がいるらしいのだ。件の文章はその逆を言っている。

その道50年の天ぷら屋の親父と同じ材料で、同じの揚げて食べてみ。どっちがうまいか、そんなのアホでも分かる。

この部分だ。同じ条件でも、いや同じ条件だからこそ、腕の違いがはっきりするというのだ。こういった「名人の言葉」に私がgdgdな解説をつけることもあるまい。とにかく「腕がある」ということはそういったことなのだと。

件の記事、他にも含蓄深い言葉がいくつもある。一見「業界の不景気の構造」を嘆くだけのものに見えるが、実は「職人」や「仕事」や「品質」が何たるかということを理解させた上で問題提起をしているので、「職人」「仕事」「品質」についての言葉が深い。「なるほどなぁ」と思うと共に、コの業界と比較して考えるといろいろ面白いところだ。

PS.

元記事の方のブクマを見たけど、上から目線の馬鹿自慢が多いことで。そんな馬鹿を自慢する奴がいるから、「職人」の地位は低いままなんだよ。いい加減、弱いもの同士で叩き合うのやめりゃいいのに。

建設業界の今日は、IT業界の明日” への3件のコメント

  1. この建団連のおっちゃん、なかなかいい味出してまんな。
    >大阪には安くてうまい物はたくさんあるけど、安うていい物はない。
    >勘違いしたらアカンで。
    >安うてうまい物はある。
    >味でごまかせるからな。
    >でも、体にいいか悪いかは別や。
    >わしの言うてる意味、分かるか?
    今の大阪がダメになっている理由をこれほど面白く、かつ的確に表現していますなー。

  2. ピンバック: Tweets that mention 建設業界の今日は、IT業界の明日 | おごちゃんの雑文 -- Topsy.com

コメントは受け付けていません。