「サインアップフォームは滅びるべき? Gradual Engagementのススメ」

マイコミジャーナルより。

サインアップフォームは滅びるべき? Gradual Engagementのススメ

利用者の立場に立てば、「何を今さら」だと思うし、今開発しているシステムもこういう設計。そもそも、諸々のネットサービスって、なんであんなに過剰なまでの情報を集めるのか、意味がわからん。

利用者に嫌われないためには、極力個人情報は集めないことだ。これは理屈じゃない。誰しも思うことのはず。その「誰しも」にはネットサービスの提供者も含まれる。だって自社のサービスだけで全てが出来るわけじゃないんだから。ところが、多くのサービスはやたらに情報を集める。

先日、MySpaceに登録したのだけど、要求して来る情報にうんざりした。そう言えば、orkutも何ページにも渡る情報入力を要求して来た。どうやらそれらは任意の項目が多いようなんだけど、任意であれ強制であれ、集めているということに変わりはない。公開するかどうかも選べるんだろうが、公開しない個人情報を入れさせて何になるのだか。おおかたマーケッティング用のデータマイニングにでも使うんだろうが、よくわからない。とにかくうっとおしい。

そのうっとおしさがあるものだから、今開発しているシステムでは極力集めないことにしている。なぜなら、

  • 入力する側にとって、うっとおしい
  • 正当に利用出来る範囲は、あまり広くない
  • 個人情報を集めると、保護することに頭痛い
  • そもそも自己申告なんだから、あまり信用出来ない

ということから。

以下にそれぞれについて理由。


入力する側にとってうっとおしい

これは既に述べた通り。たいていが任意入力だから「文章」を書くことになる。さもなくば適当に言葉を選ぶか。単純に選択肢にチェックする場合でも、自分の属性にピッタリのものがあるとは限らないので、選ぶのに悩む。まぁ「出身地」みたいなものは選択リストから入れさせることも可能だが。

そしてこの問題で一番うっとおしいのは、データの利用目的がはっきりしないものは入れたくないのに、入れなきゃいけないってことだ。入れることが自分にとってどんなメリットがあるかわからないものを、うっとおしいなーと思いながら入れるなんてのは、いろんな意味で「ありえない」ことだ。

正当に利用出来る範囲はあまり広くない

内部で使う分には、まぁ何に使おうが勝手と言えなくもないだろうが、それとてあまり容易ではない。なぜなら、使った結果に個々の個人情報が透けて見えるような形になっていると、資料として使い辛いからだ。外部のために使う、たとえば何らかの資料を出す時には、さらに気をつかう。

たいてい個人情報と何らかの行動でマイニングした結果なんてのは、マーケッティング絡みの調査依頼だったりするはずだ。ところが、そういった情報は個人をトレースしているし、そのトレースの精度が高い程価値がある。ところが、その精度が高いがゆえに外には出しにくい。外に出すためには、利用者が不快に思わない程度に利用のための契約をする必要がある。これ自体相当厄介だ。

個人情報は保護しなきゃいけない

漏洩や窃用されたら一大事だ。だから保護しなきゃいけない。

とこが、フォームから入力させるということは、データがオンライン状態になっているということだから、常に「うっかり漏らす」ことに対して注意を払う必要がある。もちろんそんなことは当然のことだし、そうそう漏れるようなシステムは作りはしないのだが、こちらが対策していても、利用者がうっかり「公開レベル」を緩く設定していたりすると、結局漏れたのと同じことになってしまう。つまり、この前のAmazonの「ウィッシュリスト」みたいなことが起きてしまうということだ。

情報流出の多くは、内部の者が原因であることがほとんどだ。それは「うっかり」であっても「悪意」であっても、たいてい内部の者が漏らす。そうなると、内部の者を疑う体制が必要になる。これもまた厄介なことである。

そもそも自己申告に過ぎない

システム提供する側からすると、一番のネックはこれ。利用者が正しい情報を入れてくれる保証なんてどこにもない。それはmixiのプロフィールページを見れば明かだ。

もちろん非公開なら正しい情報を提供することに抵抗は減るだろう。でも、非公開ならそもそも入れる側にメリットはない。自分以外の者が見ることも使うこともない情報を、ネットの彼方のコンピュータに教えてやる必要性を見い出せる人なんていないはずだ。


そんなわけで、個人情報を少なくとも「まとめて」入力させるメリットなんてどこにもないのだ。

強いて言えば「外部機関」から何か照会があった時に、「いちおー情報は取ってるよ」という態度が示せるというだけだ。このサーバの利用者からは個人情報は取っているのだが、これはあくまでも「自由に使えるサービス」だから、「匿名OK」と見えることを避けたかったということからだ。それでも照会があった時にも「これはあくまで自己申告ですよ」と言い訳をしてから提供をしている。「外部機関」もその辺は心得ていて、「あくまで参考用」ということらしい。

そんなことよりも、たいしてメリットもないものを、「これだけ入れないと使わせてやんねー」みたいに延々と入力させるということで、敬遠される方がずっと厄介だ。それをハードルにしたいのであれば、そういった運用もアリだし、このサーバでの個人情報収集はそういた意味もあるのだが。

これが「必要な時必要な精度で」という必然性のある形であれば、入力する方も判断しやすい。たとえば何らかのメッセージサービスで「ここにメールアドレスをセットすると、新着メッセージのお知らせがメールで受け取れます」みたいなことが書いてあれば、入力させられる側も目的がわかるし、それゆえ精度の高い情報を入れる。そこに捨て垢を入れる人は多分いないだろうし、「そんなものいらない」と思う人は捨て垢すら入れることもない。お互いに幸せだ。そういった意味なら、MySpaceの「メール認証」はなかなか上手い使い方だと思った(気になる人は試してみるといい)。

システムとしては「プロフィールテーブル」みたいなデータベースを作っておいて、そこにどんどん入れて行くというのはシステム設計として楽だろうが、それがそのまま「入力フォームのページ」になっているのは、利用者にとって優しくない。仮にそんなデータベース設計になっていても、「必要な時に必要な精度で」入れさせる方が抵抗も少ないし、精度も上げやすい。まぁまとめて入れさせる方が、画面設計とか楽なんだろうけど。

そんなことを考えると、「サインアップフォーム」なんてのは滅びるべきどころか、存在に必然性がないと言える。