前の会社を辞めた時、私にはお金がなかった。そして、しばらくは収入もほとんどなかった。その辺は当時の日記を見てもらうとわかると思う。
いろいろなことを考えると、田舎に帰った方が効率的に見える。家賃はいらないし(私はマンションを田舎に持っている)、生活費も安い。これから会社を始めようと言うのだから、何も東京で住む必要もない。
とは言え、私は田舎に帰るという考えは全くなかった。
いや、本当に全くなかったかと言えば、それにはちょっと自信はない。感情的なものも含めれば「田舎に帰りたいなぁ」と思わなかったかと言えばそうではないからだ。でも、理性的な選択肢としては微もなかった。
それはビジネスに関する諸々の都合であるとか、人間関係がどうだとか、しがらみがどうだとかという問題ももちろんあるが、それよりも
田舎に引っこむ心理的問題
が大きかった。
と言っても、いわゆる「都落ち」というようなネガティブな感情があったとかということではなくて、「田舎の居心地の良さ」が有害だと思ったからだ。
都会のビジネスマンにとって、田舎はいろんな意味で「癒し」になる。様々なハイテンションなものはないし、生活費は安い。厳しい競争に身を削られる思いをすることもあまりない。時間の流れもゆっくりしている感じがあるし、何よりも日々の疲労感はまるっきり違う。
確かにいろいろな生活の不便さがあるのだが、松江のような程々の田舎であればそんなに困ることもない。私が田舎にいる頃は本が手に入らないで苦労したのだが、それこそ田舎だとAmazonを使えばいい。これは他の商品も同じことで、ネットと通販のお陰で、田舎の生活は不便さがほとんどなくなった。立地的には都会と大差がない。
ビジネスでも、田舎者を相手に商売するなんてのは難しくとも、田舎の立地を生かして都会相手の商売をするというアプローチがあるから、頭の使い方次第だ。人材確保も、「田舎でないと生活出来ない」と信じ込んでいる人達を使うことを思えば、都会よりも楽だったりする部分もある。もちろんこういったことはやり方次第なのではあるが、現代のコの業界においてことさらに不利ということはない。そりゃまぁSIだの人材派遣だのと言った、「客が目の前にいなきゃいけない」ものはそうは行かないけど。
そんなわけで、田舎で起業ということはそんなに悪くない。無理をしなくてもいいから楽だし、健康にもいい。
でも、私にとってその
「田舎の心地良さ」はむしろ有害
だと考えていたのだ。
前にも出張で田舎に帰った時なぞ、ぼけーっと車運転していたりした時に「ああ、人生立って半畳寝て一畳だよなぁ。何も無理することもないよなぁ」とか思ったものだ。当時の私の収入なら、田舎なら高額所得者だ。はっきり言えばそこまでの収入はいらない。むしろ時間的ゆとりでもあった方がいい。あくせく働く必要がないのだ。
また、田舎にいると、人に会うこと、特に同業の知人に会うことは少なくなる。生活でお腹いっぱいでもあるから、いわゆる「負けん気」が必要なくなる。何しろ収入も十分以上あるし、ステータスも程々あるし、「もっと上」を見る必要をあまり感じなくなる。もちろんテンション高い時はどこにいても上は意識するものだが、「常に」意識する必要はない。
これは確かに気楽でいいのだが、そうなると「働く」ということに対するモチベーションが下がる。生活に困らなければ生活費を稼ぐモチベーションも下がるし、「自分よりも上」の奴を目の当たりにしない限り、そういった奴等に負けないように頑張るという気もなくなる。田舎にいると、たいていの「自分よりも上」の奴等は、その存在を意識して想像しない限りはいないのも同然なのだ。
とか書くと、「ネットがあるじゃないか」「どうせ普段はヒッキー状態だろ」という声が出て来る。それは確かに嘘じゃないし、かつて田舎暮しをしている時は「自分よりも上」の奴等とコネクションを持つためにネットを使っていた。だから、そういったものの有効性はわかっている。だけど、「モチベーションの根源となるハングリーさ」は、やっぱり「リアル」に触れることで強く感じられる。「ネットとリアル」みたいなことを言うつもりはないけど、やっぱり「目の当たりにする」ということは容易に想像力の限界を超えさせてくれる。想像力を働かすのにもエネルギーが必要なのだ。
つまり、私にとって田舎で生活するということは、いろいろなリアルなコストは削減してくれるのだけど、一番肝心だと思っている
モチベーションを維持するコスト
を大きくしてしまうのだ。つまり、楽して生きられる環境にいると、働くモチベーションの維持が難しくなってしまうというわけだ。
私も仕事としては、「引きこもり系エンジニア」であるから、そうやって仕事をしているのが一番効率がいい。また、いろんな雑音は少ない方がいい。そういった意味では、田舎の方が仕事はしやすいし、Matzはそれを言ってはばからない。だけど、私はそういった「快適な環境」の中でモチベーションが維持できる程強い人間でもない。何らかのテンションの元となるものが外にないと、モチベーションそのものが維持できないのだ。
そして、多分それは私だけとは限らない。だからこそ、田舎にはこれと言った産業がないのだ。だって、「とりあえず無理しなくても食える」環境にいたら、ハングリーになるのは難しい。「これから産業を起こして何とかするぞ!」的なテンションにはなかなかなれない。縮小均衡型と言えど、無理やり欲を出す必要がない暮しは楽なのだ。
だから私は田舎に帰らないことを選んだ。自分のやろうとしているビジネスにかけるエネルギーそれ自体が必要な上に、さらにモチベーションを維持するためにエネルギーをかける余裕はないからだ。
田舎で暮らした事がないからわかんない
(´・ω・`)ショボーン
田舎がある人が少し羨ましくなった。
今気がついたんだけど。
「暴言」が一番多い?(^o^;
「田舎がある」って幸せかどうかは…
「田舎にいる」のは幸せだと思うけど。