今時のミキサーって凄いな

「初音ミク」に刺激されて、DTMをまたやろうかという気になっている。

DTMについては、10年以上構想しているものがあって、それを実行に移そうと思っている。それは、「ホールをシミュレーションして伝達関数を求め、それを使ってリアルなコンサートホールでの演奏をシミュレートしてしまう」ということ。今時の計算機なら、ホールのシミュレーションもそうそう大変なことではあるまい。また、どうせ無理のない範囲でホールは使うものだから、3次元の波動方程式を解かなくても、音線図法で求めてやればいい。

「なんとなく近い感じ」で満足するなら、ミキサーを上手に操作して、エコーをうまくかけると、なんとなくそれっぽくなる。CDのミクスダウンは、そうやっているわけだ。とは言え、それは「本物」を知らない時に思うだけのこと。アコースティックなホールでのライブ音は、それとはまるっきり違う。似て非なるものなのだ。

まー、それはいいとして、とりあえずプラットホームとなる「ミキサー」なるものを作ろうとしている。freeのミキサーソフトはいろいろあるのだけど、どうも自分の気に入ったものがない。それなら作る方が気楽だ。

どうせ自分用に作るだけだから、勝手にミキサーの仕様を作るのもいいのだけど、リアルなミキサーからかけ離れたものを作るのもナニなので、いろいろなミキサーの仕様やらブロック図やらを見て回る。

アナログのミキサーは、回路や仕様は私が現役だった頃と大差ない。違うなーと思うのは、目方だ。今や20chが小脇に抱えられるらしい。まー、アナログのオーディオ機器ってのは、

目方も性能のうち

って部分があるから、本当のプロ用がそんなに軽いなんてありえないけれど、電子技術の進歩やら構造材の進歩を考えると、「昔のハイエンド機」くらいの性能なら、そんなのでも出せるだろう。昔は16chくらいでも、何人かかかって運んだものなんだが。

それもびっくりなんだが、今時はデジタルのミキサーも少なくない。それはまだ私が現役のミキサーやらやってる頃から構想だけは持っていて(当時の上司は「ミキサーは作るもの」と豪語していて、アナログ24chとか自作して使っていた)、現実的なコストで出来るなと計算してたものだ。まー10年以上前なんで「フェーダーをどうするか(=乗算器をどう実装するか)」という根本的な問題と、「信頼性のないものは使えんよ」と言われていたのでそれっきりだったのだが、今やデジタルミキサーは常識となりつつある。

面白いのは、そんなデジタルミキサーにもブロック図があるということ。現実の回路としては、プリアンプの直後にADCがあり、ポストアンプの直前にDACがあって、あとは計算機(多分DSP)の中なのだけど、なぜだかイコライザがあったり各種フェーダがあったりする。要するに

チャート

がブロック図として描かれているわけだ。

音響屋にしてみれば、これはこれで当然だ。だって、「なんだかわからないけど演算した結果がDACから出て来る」なんてことを言われても、それは何のことだかさっぱりわからない。それよりは、今までのアナログ回路のアナロジーで「AUXプリフェーダの出力」とかわかる方が、ずっと良い。

ソフト屋にしてみれば、「こんなブロック図は仮想でしかないから、いくらでもパッチで変更出来るように…」とか考えがちだが、そうやって極端に自由度を上げても、面倒臭さの方が先に立つ。「AUXの1と2は常にステレオとして使われるので、PANで振るのは組になっているものだけ」みたいな制約がある方が、逆にいろいろ考えやすい。

ソフト屋としては「実現可能なものは何でも実現したい」と思うし、「自由度は高けりゃ高い程嬉しい」と思うものなのだが、実際に「使う」という目で見ると、それは必ずしもそうじゃない。だいたい、何でも「欲しい自由」ってのは、「なんでもかんでも出来る」ことじゃなくて、

あとちょっとの自由

であって、それ以上のはむしろあるだけ邪魔。

ミキサーってある意味「究極のUI」みたいなところがあるから、それがこんなふうにデザインされているってのは、なかなか示唆に豊んでいる。