黒木 靖夫氏 『ウォークマン流ブランド構築術』

黒木 靖夫氏 『ウォークマン流ブランド構築術』

黒木氏は「ウォークマンの父」と呼ばれる人。

ソニーがいかにして「ブランド企業」になったか、その元は「ウォークマン」からであったという話。今のようなしょぼくれた、「タイマーメーカー」のソニーではなく、輝けるソニーブランドが生まれる事の話である。

この中で興味深いのは、

「売れそうもない」ものに取り組むのは、単に面白いからとかフロンティアスピリッツを尊重するからといったことではなく、売り上げより利益を重視していたからであり、それこそがソニーの経営理念だったのである。当時は「ブランド」について強く意識していたわけではなかったが、今から振り返ると、利益重視という姿勢はブランドと実に相性が良かったことにあらためて気付く。

という文章。

これを読むと、「今時の企業経営」に毒されていると、「利益重視なんてしたら、経営がセコくなってブランド作りとかフロンティアスピリッツなんて言ってられないだろう」と思ってしまう。

しかし、後に続く文を読むと、そういった感情の背景にある「利益重視」の姿というのは、「利益をひねり出す」ことであって、「利益を産み出す」ことではないということに気がつく。ここで言っているのは、あくまでも「利益を産み出す」という意味での「利益重視」であって、従業員に無理な労働をさせ、乾いた雑巾を絞るように「ひねり出す」のとは違うのだ。

我々は「今時の企業経営」に毒されているものだから、つい「企業は利益を追及するもの」というのを、悪い方向に見てしまう。この文脈での「利益」とは、「計上利益」のことだ。しかし、「企業活動による受益者」と考えた時には、「利益」は計上利益という視点だけではない。「企業活動による受益者」は「株主」だけではないからだ。従業員、役員だけではなく、顧客や地域社会… みな「受益者」であり、それらを益するのが「利益」である。

と考えれば、乾いた雑巾を絞るように「ひねり出す」利益を追及する、今時の企業経営はおかしいものだと気がつくし、(当時の)ソニー流の「利益追及のためのブランド戦略」というのは、非常に整合の取れたものだと言える。