「常紋トンネル」

常紋トンネル

内容は「タコ」労働者についてのフィールドワーク的記録。「タコ」とは、8本足の軟体動物でもなければ、「タコは育てよ」のそれでもない。「タコ部屋」のタコだ。強制連行にあった朝鮮人の話とかもあり、それを読めば「慰安婦」の話やら強制連行の話の「後づけの解説」はあまりに空々しく見える。まるっきり「人権」なんてのは無視され、「見せしめ」のために殺される「タコ」の話とか、これがたった60年ほど前のことだとか考えると、なんとも言えない。

とは言え、いわゆる「告発」的なニュアンスはほとんどなく、事実をつなぎ合わせているだけのように見える。それだけにリアリティがある。

ぱっと読むといにしえの過酷な奴隷労働の話なのだが、ちょっと見方を変えると、現代に通じる諸々がある。いろいろなものを現代のものにマッピングして読むと、なかなか趣深いものがある。

タコ部屋制度は、人間の精神を破壊して奴隷根性を持たせ、タコ部屋以外では仕えない人間につくりかえる精神的罪悪をおかしていたのである。

というくだりなぞ、どう言って良いやら。

結局のところ人間はそれ程進歩するものじゃないのだな。