最後に手に入れた自由

これは単なるポエムである。

弊社にはいろんな動物が飼われている。普通の熱帯魚の類の他に、「アメリカザリガニ」「メダカ」「サワガニ」とかいる。

こいつらは熱帯魚屋で買って来たもの(メダカ)も含めて、育てるために売られているものではなかった。

「アメリカザリガニ」はアメ横センタービルの地下で買って来た。行ったことのある人は、どんな状態でどう売られているかわかるだろう。要するに食用である。

ザリガニは美味い。食ったことない人、単に「野食」として食った人にとっては、なんか泥臭いものみたいに思っているだろうが、ちゃんと食材として食べると美味い。ちゃんと食材にするには、綺麗な水でしばらく泥抜きをしなければならないという手間があるのだが、尻尾の部分だけ食う分には綺麗に洗うだけで十分だ。

とは言え、ザリガニ類の味は「ミソ」にある。これを味わうには泥抜きは必須。ちゃんと泥抜きしたザリガニのミソはたまらない。てか、ザリガニはミソ食ってなんぼだ。試したことのない人は、夏にイケアで売っているので、それを食うといい。まぁあれはヨーロッパザリガニなので、アメリカザリガニとはちょっと違うんだけど、だいたい似たようなもんだ。他には中華料理屋のメニューにあったりする。

サワガニは美味い。なんか高級食材っぽい感じがするし実際そうなんだけど、普通にカニを買うよりは安い(気がする)。しかも、全体が味わえるので、効率がいい。てか、そうしなけりゃ食う場所がない。

だいたい素揚げにしてバリバリやるもので、上手く揚げると「カニ」って感じも維持されて、なかなかに品と野趣を持ったものになるのだが、他の食い方もある。弊社では、オリーブオイルとか酒とか使ってパスタソースを作って食う。

メダカは食わない。食えば食えると思うのだが、食う程の量がない。あれは他の魚のエサとして売っている。うちではザリガニのエサとして買って来た。

いずれも、育てるために売っているものではない。特にメダカは「これは飼育用ではない」旨のことがわざわざ書いてあったりする。おそらく遺伝的にどーだこーだみたいなこともあるんだろう。どうせ外に放逐するわけじゃない。

とは言え、こいつらは結構かわいい。ザリガニもサワガニも愛嬌がある。雑なメダカも健気な感じがかわいい。実は昔は飼育用のザリガニとかいた時代もあるのだが、結局

ザリガニは何でもかわいい

ということで、アメリカザリガニを飼っている。食用にもなるし。繁殖させるとさすがに元がワイルドだけあって

遺伝的多様性

としか言いようがないことになる。これも結構楽しい。いつまでも赤くならない個体とか、いつまでも大きくならない個体とか。系統固定とか出来たら楽しいなとか思いながら選別したりする。

サワガニも同じである。とにかくかわいい。あまり大袈裟な環境でなくても維持できる。もっとも、今のところ繁殖には至ってないのではあるが。

いっぱいいるので器が雑である。そうすると、ごくたまに

脱走

する奴がいる。メダカはあまりしない(それでもやる)が、ザリガニやサワガニは気をつけていないと結構脱走するし、気をつけていても脱走される。まぁ、いっぱいいるし、元が元だけに(しかも繁殖までしてる)、「かわいそうだな」とは思うが「損をした」みたいな気持ちにはならない。どうせ何かの転みで共食いしたりするし。

事務所の中なので、水場はない。運良く他の水槽に入ってしまえば(たまにいる)、それで命をつなぐことは出来るのだが、だいたい乾燥して御陀仏である。掃除したりすると、事務所の隅の方でそういったものを発見することがある。

人間目線だと、「かわいそうだな」と思うのだが、よく考えてみるとそうじゃないかも知れない。

奴等の「同僚」達は、とっくの昔に食材になっていたのである。つまり、ここにいることでより長生き出来たのだ。ザリガニが繁殖するくらいだから、それ程悪い環境でもあるまい。つまり、彼等にとって割と幸せだったのである。

その「幸せ」について、奴等はよく理解していない。だから脱走を企てる。そして、運良くそれが成功したのだ。努力が実った。素晴しいではないか。

そして、そこで誰かに逮捕されたり処刑されたりするわけじゃない。少なくとも当初は事務所の中をこの世の春とばかりに「自由」を謳歌したはずである。

元は池だったか水田だったか知らないが、そういった環境で「自由」だった奴等が捕まえられ、狭い袋に入れられて運ばれた。その中の運の良かった個体が運の悪かった個体よりも長生きが出来た。そして、運良く脱走に成功し、また「自由」を得た。その「自由」の先に死があったかも知れないのだが、奴は最後に「自由」を手に入れられたのだ。そして、その先には永遠の「自由」がある。どうせ生きとし生けるものの最後は死である。同じ死ぬなら、希望に満ちた人生を送った後の方が幸せだろう。

そう考えると、人間目線での「かわいそうだな」という人間の傲慢なのかも知れない。彼等は幸せだったのだ。「自由」に殉じたのである。ある意味素晴しい生き様である。

「自由」に殉じた生き物達。とは言え、サワガニについてはこれはミイラではなくて脱皮殻である。

PS.

どこにいるか見つからなかったので、てっきり物陰で死んでいると思っていたのだが、今朝になって発見されてしまった。なんと、水槽と隣りにあったプラスチックの箱(百均のCD収納箱)に入っていた。この箱、「消臭ビーズ」の使用済みのを洗浄してる箱で、中には水が入っている。その水には界面活性剤が含まれているはずなのだが、かなり洗った後なので無害レベルになっていたのだろう。サワガニの元気な姿を発見してしまった。

それにしても、容易ではない水槽からの脱出を試みて、運良くそれが成功したのは良いが、その出た先にあったのはプラスチックのケースであり、そこからは脱出が出来なかったとゆー、自由になれた気がしたのになれなかったという、なんかラッキーだったのか残念だったのかわからない結末になってしまった。