ぼくのかんがえたさいきょうのこってり

「こってり」が好きである。

特にラーメンは「こってり」を味わうためのものだとさえ思っている。ゆえに、天下一品とか好物であるし、「ジェネリック天下一品」である「鶏白湯ラーメン」も好きだし、九州系豚骨ラーメンも好きである。

他方、いわゆる東京ラーメンにありがちの「背脂ちゃっちゃ」が大嫌いである。あれを「こってり」と称する人達がいるんだが、あれは油っこいだけで美味しいとは思わない。「真のこってり」とは、油脂によるものではなく、コラーゲンによるものだと考える。

さて、その「真のこってり」はなかなかに難しい。コラーゲンの多い食材と言えば、「骨(特に軟骨部)」や「骨髄」また、いわゆるスジ肉、その辺である。

これらが十分に「こってり」となるためには、非常に時間がかかる。長時間煮ることで、コラーゲンが水溶性となりスープに溶け出さないと、「こってり」とはならない。時間がかかるし熱源も必要であって、なかなかにハイコストなものとなる。

しかし、ここで一つの食材がある。これを使えば、それ程長時間煮る必要もなく「コラーゲンによるこってり」が実現出来る。それは何かと言えば、

豚皮

である。

「なんだそれは? 食えるのか?」と言う向きには、中華の東坡肉とか沖縄の角煮であるラフテーとかが「皮付き」であることを思い出してくれると良い。あの表面にあるのが「豚皮」である。脂身に似てるがそれ程脂のない部位だ。こってりとして美味い。何しろあれはコラーゲンそのものと言っても良いからだ。

よく見ると、上の部分が皮っぽいでしょ。まぁこれは故宮博物館の「肉形石」なんだけど。

自分で味わいたければ、「ハナマサ」にでも行けば売っている。秋葉原のハナマサだと、1kgが500円くらいでシート状のものが冷凍で売っている。

これを解凍したら、まず下茹でする。シート状のままで下茹でをする。なぜなら、シート状では大き過ぎて食えないので、これを一口サイズに切り分けたいのであるが、そこは豚の皮。普通の包丁ではなかなか切れない。ところが、ちょっと(10〜20分くらい)茹でると、簡単に切れるようになるのだ。下茹でなしだと「皮」でしかなくてなかなか切れないのだが、下茹ですると同じ厚さの大根でも切るようにサクサクと切れる。加減としては、白く不透明であった皮が半透明と言うか、軽く透きとおった感じになるくらいだ。案外すぐである。

下茹でした湯は白濁して、表面に脂が浮いている。これを放置しておくと、冬だと柔らかなゼリー状になる。もうコラーゲンが溶出しているわけだ。まぁここでケチることもないので、捨ててしまって構わない。

皮を一口大に切ったら、

  • 醤油
  • 甘味(味醂でも砂糖でも牡蠣油でもいい)

で煮る。これら100%である必要はなく、適当に水で薄める。比率も好みの味になれば良いので、適当だ。まぁ最初は酒:醤油:味醂で2:1:1くらいのものを、同量の水で薄めて試してみるといい。好みで塩を加えてもいい。要するに「角煮の汁」を作る。これでしばらく煮る。一緒にネギなんぞを入れてみてもいい。中華風味に抵抗がなかったら、五香粉とか八角とか入れると、豚臭さが減る。

煮るのは、そのまま数時間煮てもいいし、1時間づつ3日煮るとかでもいい。ただそんなにガンガンと気合いを入れるような時間ではなくて、「煮物」を作る感じでいい。割と早いうちから柔らかくなるので、好みのところでやめたらいい。長く煮るとトロっとした感じになり、短いとトロっとした中にもサクサク感がある。

煮汁を見るとわかるが、脂は意外なほど少ない。脂身の多いバラ肉を同じように煮ると、相当に脂が浮いて来るのであるが、皮だとそんなこともない。また、そこそこ煮たのから一度脂を取り除いてやると、また脂がいっぱいに浮くということもない。つまり、皮自体にはほとんど脂がない。つまり、こってりトローりという感じはほとんど全てがコラーゲンに依るものなのである。

脂の少ない部位なので、味の浸みは早い。意外なくらいあっさりと味がついてくれる。チャーシューの脂身部分は好きなのではあるが、あそこはなかなか味が浸み込んでくれないのだが、皮だとすぐに味がついてくれるし似たような食感だ。

先日の「教会御飯」では、これをベースに刻んだ豚バラや玉ねぎと一緒に煮込んで、「魯肉飯」を作ってみた。味の細かいところはさておき、髭長の魯肉飯と似た食感のものが出来た。

火を止めて放っておくと、寒い日には随分と煮凝りが出来る。今くらいの季節だったら、器に移して冷蔵庫にでも入れておくと、ガチガチと言って良いくらい硬くなる。これをスプーンなどで切り取って食べると、これがまた口の中でトロっとして美味しい。熱い御飯に載せたりすると、もうたまらない。あまりにトロっとしてしつこいので、漬物とか薬味とかと一緒に食べると、さらに良い。こってりしている割には油脂が少なくてヘルシーである。

思うに「こってり」と称して背脂ちゃっちゃをやっているラーメン屋は、背脂の代わりに豚皮を煮たものをちゃっちゃとやると良いと思う。長時間煮た皮は、長時間煮た脂身に負けないくらい柔らかで崩しやすい。これを使えば脂を警戒する人も安心して「こってり」を感じることが出来る。

別に先発明権なぞ主張しないので、ラーメン屋やりたい人はアイディアの一つだと思って試してみて欲しい。そーゆー店があったら食べに行きたい。願わくは、背脂による「似非こってり」を撲滅して欲しい。