「口の悪い人間をエンジニアとして採用するべきか」

増田の

口の悪い人間をエンジニアとして採用するべきか

面白い話なんでネタにしてみる。個人的には「絶対にするべきではない」が答え。

この手の話はいわゆる「出来るエンジニア」を採る時によく話題となる。そして、たいていは「技術者なんてそんなものなんだから、口がいいかどうかはどうでもいい」みたいな話になりがちだ。でも、私は絶対に採るべきではないと思っている。

こういった人が来た時は、往々にして「ふれこみ」がどの程度信頼出来るかという話がまず来るのだが、そこは面倒なので「本当に出来る奴」という前提で書く。まぁ、「ふれこみ」が嘘でも結論は同じなんだが。

ごく例外的なことを除けば、「技術」は虚しいものである。

業務上で必要な技術は、だいたい業務をしているうちに身につく。もちろんそれには優劣はあるだろうが、業務として毎日やっていれば、その積み重ねは馬鹿には出来ない。また、それで身につかない人はそもそもその業務が向いていないと思われるので、ここの議論からは除外して考える。そうすれば、環境(学習しやすさとか)や教育(いい先輩とか)が良ければ、どうとでもなる。

また、業務として必要な技術は買って来ることも出来る。優れた外注が確保出来ればそれを使えば良いのだし、「部品」として入手出来る技術もある。我々は「IntelのCPU」みたいな高度なものを作る技術は持っていない。しかし、買って来れば使うことが出来る。主戦場が「CPUを作る」ことでなければそれでいいのだ。

そう考えれば、特別な技術を除けば、技術なんてものはどうとでもなる。「スパコン」の開発であってさえ、多くはメインとなる演算装置は買って来る。

他方、「口の悪い人間」をチーム(会社)に入れた時の弊害は図り知れない。

まず、チームの空気が悪くなる。「口の悪い人」は悪意がなくてもそういった言葉を口にするわけなので、それを聞くことそれ自体がストレスになって、空気がギスギスして来る。

また、それが「出来る人」だとその「悪い言葉」の後ろ盾になってしまう。彼/彼女にボロクソに言われた時に、それを否定することが出来ない。つまり、ボロクソに言われてしまうことは正しい内容だということで、持って行き場がなくなってしまう。そうすると、言われた側は「自分が悪い」と思うしかなくなり、精神を病んでしまう。病まなくても、やる気は大きく損われるだろう。その結果、チームの生産性は損われることになる。

もちろん、彼/彼女が損われた生産性以上の能力を持っているなら、別にそんなことは問題ない。だが、たいていの「出来る奴」はそこまでの能力を持っているわけではない。まぁ仮に持っているとしたなら、「チーム」に入れないで彼/彼女が単独で仕事をやればいいはずだ。その方がお互いにハッピーだろう。

さらに、そういった人が長くチームにいた場合、その能力の高さゆえに「上」の立場になって行くだろう。そうなると、そのチーム全体が「パワハラ体質」になってしまう。

とか考えると、余程能力が高いとか特殊な場合を除けば、採用はしない方が良いという結論になると思う。

というのが私の思うところなのだが、

というつっこみがあった。これにはちょっと違う考え方を持っている。

私はここで言うところの「検証する必要」はないと思っている。つまり、「口が悪い」というのは主観でいいし、「気に入らない」でもいいと思っている。なぜなら、「チームの平和」みたいなものは、完全に主観の世界だからだ。

「チーム」はそこのリーダーがやりやすようになっていればそれでいい。だから本来「良い悪い」で判断するべきことが、「好き嫌い」で判断されてしまっても、それはリーダーの責任の問題であって、

自分でケツを拭く

類のことであるからだ。多少口が悪くても能力が欲しいと思えばそうやって行けばいい。ただし、その代償で脱落者が出るかも知れない。それはリーダーの責任である。逆に、単なる仲良しグループにしてしまって無能集団になってしまって業務が遂行出来ないことになっても、それはリーダーの責任である。こういった極端なことはないとは思うが、どの辺でバランスを取るかは、それはリーダーの責任である。

とは言え、ある程度までの規模までなら、「気に入った奴」ばかりで並べるのは運営上も良いと思うのだが、ある程度以上の規模になったら、そうとばかりは言えないと思う。なぜなら、

ある人にとって気に入らない人であっても、
別の人は好きかも知れない

からだ。もちろん逆も当然ある。

それを考えると、判断にはリーダーだけではなくていろんな人の「好み」を聞くべきだ。そういった多様性を持っていれば、「最初は気に入ってたけどそうでなくなった」という人であっても居場所が存在する。それ以外の理由も考えれば、なるべくチームは多様性を持った方がいい。

それでも「みんなが苦手と思う」ようであれば、それはそのチームにとっては招かざる者だと判断して良いと思う。口の悪い奴、悪い言葉を使ってしまう奴は、いろいろ改めることを強くお勧めしたい。

PS.

自称(だと思うが)口の悪い側の人からこんな反論が来た。多分これは典型的な「口の悪い出来るエンジニア」の考え方なんだろうと思う(多分代弁したんだろうな)。つまり、「普段は口が悪いけど必要なら言葉を尽すよ」と。

でもはっきり言ってしまえば、この行動は何の益にもならないし、一番タチが悪い

「口の悪い出来るエンジニア」は普段から口が悪いことが多い。↑のように心掛けている人であっても、周囲が何となくストレスを感じているような人は、

普段の言葉使い

に問題がある。独り言としてつぶやかれる「クソ」とか「ボケ」とか、あるいは普段の会話の端々に感じられる口の悪さ。そういった「コミュニケーションの外」の言葉が、周囲を不愉快にし、やる気を削ぐ。

人は自分が「やらかした」と思う時に叱られること、酷く言われることは、それ程ストレスではない。実はストレスなのかも知れないが、「やらかした」の方のストレスが大きいから、相対的にはそれ程気にならない。そこでの「口の悪さ」はあまり問題にはならない。また、明確な目的を持って会話している時はそっちの内容の方が重要だから、「口の悪さ」はあまり気にならない。変に丁寧な言葉の方が困る局面の方が多いと言ってもいい。コミュニケーションでは「伝わりやすさ」は大事だ。「口の悪さ」が苦手な人であっても、「ストレートさ」まで苦手だということはそれ程でもなかったりする。そもそも

悪いことを悪いと言う

ことは、「口が悪い」という類ではないし、それが苦手だったら耐える努力はした方がいい。

とか考えると、せっかく↑のように気をつかったつもりでいても、残念ながらそれはそんなに効果はない。注意するべきは、普段の言葉の方だ。

PS2.

「口の悪い出来るエンジニア」となると、こういった人達が反例として出て来る。元の増田にもこの手の反論が並んでいる。Linusとか本当に口が悪い。まぁ、あそこまで来てみんなが知っていれば、単なる芸風とも言えるが。

その辺にいる「口の悪い出来るエンジニア」も、多分この辺を見て「技術があれば口(に限らず)の悪さは免責される」と思ってるのではないかと思う。つまり、彼等の「ロールモデル」がこういったスーパーマン達だと。

私はこれはあくまでも「コストバランス」の問題だと思う。こういった「スーパーマン」達は、そのストレスで周囲が全滅したところで1人でも闘える

ランボー

みたいな奴だ。また、周囲もそういった奴によって受けるストレスよりも、そういった奴から得られるメリットの方が大きいと評価している。また、周囲もそういったストレスをものともしないタフな奴(たいてい出来る奴)だったりする。

それくらい

本人も周囲も桁外れに頭抜けているからこそ許容される

類の人であって、その辺の「平均の10倍は出来ます」程度の(それでも相当凄いとは思うが)奴が許容されるというものではない。元増田の「たとえばトップカンファレンスにほぼ毎年論文を採択される程度の能力を指す」という程度では、許容の範囲ではない。

とは言え、割と頻繁に「超出来るプログラマ」がLinusの口の悪さを理由にkernelのコミュニティを抜けて行くのを聞くと、Linus級であっても「出来る」からと言って許されるものではないんじゃないかとも思っている。

PS3.

変な誤解をしてる人がいたので本当に蛇足でしかないことをつけ加えておくと、これは「採用するかどうか」という話でしかない。既にそういった人がいる場合の話ではない。

採用する前であれば、「口が悪くなくて優秀な奴」を選ぶことも出来れば、「バランスを考慮したら口が悪くてもいい」というような判断が出来る。いずれにせよ、「選別」の問題である。既にそういった人がチームにいる場合、極端に有害な人(これもよくいるので困るのだが)でない限り、チームを外す(=解雇する)ことが出来ないので、「矯正」とか「再教育」みたいな話になってしまう。しかし、↑の議論は「口が悪くて能力が高い人」と「口は悪くないけど能力は平凡な人」を教育するコストがどうとかという話ではない。本編の中で「教育」の話が出ているのは、あくまでも価値判断の指標に対する見方という話でしかない。