私がフリーソフトの威力を知った時

その昔、まだ私がCAPTAINなんてものの仕事をしてた頃の話。

ある時プロトコルが変更になって、それまで特殊なモデムが必要だったのが、その辺のモデムとパソコンでも出来るようになった。そしたら、いくつかのメーカとNTTから、そのためのソフトは有償ソフトとして販売されるようになった。「特殊なハードウェア」を要求しなくなったので、一気にいろいろやりやすくなったのだ。

メーカはさて置き、NTTはいろんな経緯からタダで出しても良いよなーと思って、その手の会合の時に「タダにしろ」と迫ったんだが、

「金かけて作ったものを無償配布は出来ない」

とゆー理由で蹴られていた。まぁ、ある意味「正論」である。

とは言え、それじゃー当時の私の立場では困るんで、公開されている技術参考資料と、実在する端末の動作を参考にしてCAPTAINの通信をするソフトを書いて、freeで公開した。もうよく覚えてないけど、コードだけでCで2万行くらいはあったと思う。「コードだけで」というのは、特殊なフォントも作ったから。今からは想像もつかないと思うが、当時は何から何まで全部自分で書かなきゃいけなかったのだ。ドキュメント通りに作っても既存端末と同じ動作にならなかったので、リバースエンジニアリングみたいなことをやりつつ、多分1年近くかかったんじゃないかな(よく覚えてない)。

とは言え、その「free」には条件があって、「NTT以外にはGPL」とかゆーふざけたライセンスだった。あの当時は、みんな「オレオレライセンス」で「ふりーそふと」を公開していたのだ。そういった雑多なライセンスと比べれば、「NTT以外にはGPL」というのは、割と素直なライセンスだw

そのソフトはそもそも「タダソフト」として流通してくれることを目標に作ったものだし、自分の能力の限界もわかっていたから、freeの方が都合が良かったわけだ。具体的な問題として、当時の私のところには、FMRなんつー富士通ローカル仕様のパソコンがあっただけなので、当時のメジャーであったPC-9801用のコードは自分では作れなかったのだ。まぁ、既に家にはPCがあったので、それ用のコードが書ける可能性はあったのだけど。

まぁそんなわけで、

NTT以外にはGPL(NTTの人にはライセンスしません)

なんてふざけたライセンスにして公開した。

そしたら、NTTの方から電話が来て、「どういうことだ」とか言われたのだけど、

地域CAPTAIN会社がフリーソフトで作ろうとして
技術参考資料を入手しようとしたら、
金払えとかぬかしやがったからだ

とか言ったら、あわてて担当者がやって来た。それなりの対応してくれたので、「NTT以外には」はやめたのだけど。

そのプログラムは、今となってはどうってことないものだけど、マウスを使うためのちょっとした工夫もあって、結構出回るようになった。さらにそれを元にWindows版を作った人もいて、結構なシェアになったらしい。その頃は既にCAPTAINから離れた仕事をしていたので、よく知らない。

そうこうしてるうちに、どうもNTT謹製()のソフトよりも、その方が流行った(らしい)。とか思ってるうちに、NTT謹製のソフトの方もタダになったそうだよ。つまり、

やれば出来た

わけだ。

この手のこと、最初は「正論」で「タダには出来ない」って言うんだよ。でも、そのうち市場とか世間の圧力がある程度以上になってしまうと、いつの間にかその「正論」は消えてしまう。

まぁそんなわけで、とてもささいなことではあるけど、ソフトウェアをfreeにすると、結構なインパクトがあることがわかったし、そういった

武器

にすることが出来ることもわかった。

フリーソフトウェアとかライセンスってのは、戦略的に使うことが出来るもの。今となっては当たり前のことなのだけど、1990年くらいの頃にそれを知ったことは、なかなか大きなことだったと思う。