中村氏の大罪(1)

中村氏の犯した大罪を挙げて説明しよう。

まず一番の大罪は日本の技術者の「スカンクワークを困難にしてしまったかも知れない」ということである。

実はちょうど、

解雇社員が独自に開発、アップルの『グラフ計算機』秘話

を読んで感動していた時に中村氏の判決の話を聞いた。

件の話の詳細は見てもらうこととして、「スカンクワーク」とは要するに業務外の仕事をするということである。「業務外」とは言えいわゆるアルバイトではなく、最終的には会社のためになることをやる。

元々、中村氏の仕事はスカンクワークとして行われていた。この辺のことは一時日経エレクトロニクスに連載していたので、読んだ人も少なくないと思う。それだけ読んだ人は、彼の「愛社精神」に涙した人もいるだろう。

しかし、事情はどうあれ、結果が出てから彼は会社に刃を向けた。彼に同情すべき事情があるかどうかは、このさい関係ない。それは彼のことについての「特別な事情」に過ぎない。

これは「スカンクワークであっても正当に評価してやらないと会社は損をする」という警告であると同時に、「下手にスカンクワークさせておくとロクなことにならない」という意味でもある。経営が技術者寄りであれば、前者の判断をされるであろうが、経営が管理寄りであれば後者の判断となる。となると、スカンクワークを禁止する会社も出て来るはずだ。

世の中の新しい技術の何割かは、こういったスカンクワークから出て来る。そりゃそうだ。出来たばかりの技術、これから出来る技術は、「赤ちゃん」なのだから、それを育てるにはコストばかりかかる。最初から将来のわかった赤ちゃんなら、企業投資としてそのコストをかけられるが、海のものとも山のものともつかなければ、それをどうするかは「信念」による。中村氏だって、信念でやっていたはずだ。

また、世の中のかなりのオープンソースは、スカンクワークの成果である。スカンクワークで書いたプログラムなら、「どうせ元はタダみたいなものだからタダで配っていいよ」となりやすい。それくらいの「社会貢献」に抵抗のある会社はそう多くない(ないわけじゃないけど)。

スカンクワークを認めることは、技術者の満足にもつながるし、愛社精神を育てることにもなるし、技術(者)の備蓄にもなる。コスト的な問題を起こさない限りは、最大限認めるようにした方が双方都合がいい。

しかし、中村氏の件のように、スカンクワークの成果を使って会社に刃を向ける者が出たらどうなるか。スカンクワークを否定する会社が出て来てもおかしくない。

そうなると、技術者はかなり息の詰まる管理がされてしまうと同時に、技術の進歩に対して失なうことは少なくないはずだ。

彼は8億いくらかを儲けたが、その結果、日本企業の競争力や技術者のモチベーションを低下させる元を作ったのだ。

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