ミラクル・リナックスに何が起きているのだ?

吉岡さんがミラクルの役員でなくなったらしい。

ミラクル・リナックスが、第二の創業を目指し、新経営体制を発表
〜 国産OSベンダーとして、オープンソース・コミュニティと企業をつなぎ、エンジニアの成長を支援 〜

吉岡さん自身のエントリで、

取締役退任。生涯一プログラマ宣言。

取締役退任。生涯一プログラマ宣言。

これを読むと美談なんだが、ちょっとひっかかるものがあった。

そもそも、どんな事情であれ「退任」とは尋常でない。なぜなら、これは明らかに「降格人事」なのだ。

これが今時の独立系ベンチャーであれば、「そんなこともある」と言ってもいい。いや、それでもちょっと躊躇すべき人事だ。でも、「ミラクル・リナックス株式会社」はそういった独立系ベンチャーじゃない。会社概要を見ればわかるが、一言で言えば「大企業の子会社」だ。もちろん大企業そのものじゃないし、ベンチャーではあるから大企業の論理そのもので動く会社ではないだろう。でも、「偉い人」達は大企業の論理で動く人達だし、大企業の文化のはずだ。

こういった企業の常識だと、役員が役員でなくなるということは、つまりは「降格」であってそれ以外ではない。吉岡さんがどう言おうと、どう思おうと、少なくとも対外的にはそうとしか見えない。そうなると、外の者から見れば「何かあった」と思うのが普通だ。だからこそ、このような人事は慎重に行わなければならないし、軽々には出来ない。そういった「変な人事」には、企業にも本人にも「説明責任」が発生する。そして、「降格人事」なのだから、たいていはポジティブな説明は難しい。会社を守るためには、「吉岡は酒ぐせが悪いので降格しました」みたいなことで説明することになってしまう。

無邪気な技術者や、零細企業の役員でいつも苦労している人は、あるいはポジティブにとらえるかも知れない。だって役員じゃない方がいろいろ楽だもの。でも、普通のサラリーマンの常識では、そうとらえるのは難しい。だから、

取締役CTOを務めてきた吉岡 弘隆は、今後はシニア・エキスパートとしてエバンジェリスト活動とMID(モバイル・インターネット・デバイス)の開発をリードしてまいります。

なんて説明やら、

日本に一人くらい、こんなへんなおやじのプログラマがいてもいいと思う。そういう我儘を許してくれるミラクル・リナックスそして家族には大変感謝している。

これがわたしの生涯一プログラマ宣言である。

みたいな、一見ポジティブな説明をされると、ますます「裏に何かある」と勘繰るものだ。

でまぁ、下衆のかんぐりをしてしまう私としては、一つのフラグを発見してしまう。それは、

ミラクル・リナックスは、このたびの経営体制刷新により、「第二の創業」を目指します。

という部分だ。

一般的に、「第二の創業」という言葉は、「今までのことはチャラにして、これから新しく頑張ります」という意味で使われる。普通、儲かってる会社はこんな言葉は使わない。なぜなら、儲かってる会社はあらためて「創業」なんてことをする必要はないからだ。儲かってりゃ儲かってることを続けりゃいいし、それでもなお新しいことを始めるのであれば、子会社を作ってそれこそ本当に「創業」しちゃえばいい。だから、「第二創業」という言葉は、

苦しくて苦しくてしょうがない会社が、
今までのビジネスを否定してでも起死回生を狙って行う

ものを指す言葉なのだ。従業員に対しては、「今、我々は創業したのと同じ苦労を味わわなければならない」という宣言になるし、対外的には「今までのビジネスの連続性がなくなっちゃうかも知れないけどごめんなさい」という宣言でもある。逆にそうでないのであれば、こんな言葉は使っちゃいけない。単に経営体制を変えましたという時に「第二創業」なんて言葉を使う広報は、

腹を切って死ぬべきだ

と言っていい。文字通りの「決死の覚悟」というニュアンスを含んでいるんだから。

多分、広報は間違って言ってないだろう。なぜなら、「経営体制刷新」という言葉がついているからだ。「経営体制刷新」というのも、儲かってる会社はやらない。儲かってりゃ今までの経営が正しいということだから、「刷新」なんてする必要がない。仮に儲かってる会社が「経営体制刷新」なんてやったら、それは大馬鹿だ。そんなことをする株主は、腹を切って(ry

試しに「経営体制刷新」とか「第二創業」とかって言葉でぐぐってみるといい。経営コンサル系で書かれていることを除くと、結構「かわいそうな会社」が出て来るから。私にとっては、やはり同じような業種の「Laser5」を思い出させる。あそこも2度ばかし第二創業をやっている。そして…

そんなわけで、件のプレスリリースには、実はポジティブなメッセージは何もない。ここから伺い知れるのは、

苦労してるらしい

ことだけだ。

ということだけで終わりになるかなと思っていたら、

ミラクル・リナックスによって不幸のどん底に落ちた人からの手紙

というエントリを知る。書かれている詳しい内容はリンク先を見てもらうと良いのだが、ここから伺い知れることがある。それは、

業績不振と中国

ということだ。この「中国」が業績不振による人件費削減のためか、Asianuxのためかよくわからないのだが、今回社長になった児玉氏が、

2007年12月のAsianux Corporation 創立にも大きく貢献し、現在も取締役副社長を兼務で務めます。

と書かれていること、また「第二創業」のことも考えると、多分Asianux絡みのことだろう。つまり、要約すれば、

業績不振だからAsianuxに重心を移した

ということに読み取れる。

実はミラクルは今まで何度か重心を移している。元々、オラクル専用ディストリビューションとしてMiracle Linuxがリリースされ、元々の経営の柱はそれだったと思う。だから、今でも株式の半分は日本オラクルが持っている。その後、レッドハットあたりがオラクルを入れやすい工夫をしたりして、「オラクル専用ディストリビューション」という地位は地滑りした。次はSambaとかをバンドルするという戦略に出た。つまり、「オラクル専用」ではなくもうちょっと汎用的に「大き目のアプライアンス向け」に重心を移した。それ以外のことはあまりよく知らない(ことにしておく)が、そういったように主力商品の摸索は続いていたのだ。

実は「主力商品の摸索」はミラクルに限ったことではない。ターボもそうだったし、その過程で消えてしまったLaser5もそうだった。てか、いわゆる「オープンソース屋さん」は常にそうだと言えなくもない。そうなる理由は連載の方で書いてたりするし、これからも書くけど、とにかくそうなってしまっているのだけは事実だ。ミラクルのように、それなりにしっかりした大企業がついていても、こうなってしまうわけだ。

以上が一連のことに関する、かなり勝手な分析。多分、当事者達は「いや違う」と否定するんだろうけど、それは当事者達が意識してないってだけだろう。歴史がそれを証明するはずだ。

PS.

つっこまれる前に書いておくと、↑は全部私の誤読から来た結論かも知れない。とは言え、現在私がすぐ見ることの出来る資料、および今までの経緯、そして「世間の常識」から考えれば、このような結論に至るというのは、何もおかしいことじゃない。だから、これが「誤読だ」と言うのであれば、こういった解釈をされる「隙」を作ってはならないということだ。「伝え方」というのはそれくらい大事なのだ。

PS2.

スラドのコメントにもあったのだけど、これで吉岡さんが「フェロー」にでもなっていれば、また見え方も違ったから、もうちょっとポジティブな評価も出来たかも知れない。「エバンジェリスト」では、ペーペーと同じだからね。

PS3.

「もうちょっと詳しい分析はさどっちが書くだろう」と追記しようと思っていたら、既に書いてた

そこで2ちゃんのスレが紹介されている。「しょせん2ちゃん」ではあるが、「されど2ちゃん」でもある。

PS4.

あちこちに「憶測」って書かれてたんだけど、「大人のプロトコル」を理解してねw