どんなに社会システムが整備されても顕名では言えないこと

前にもチラと書いたけど、仕事の調査でフリーペーパーを集めている。

メジャーどころはどこにでもあるので、あまり蒐集の対象にはならないのだけど、ちょっとマイナーなものは地域性が強く出ていて面白い。まぁ社会学のフィールドワークじゃないから、そういったことそれ自体には興味がなくて、「この辺には何がある」という狩猟的な興味なんだけど。

で、気がついたことは、やたらに風俗、それも風俗求人のフリーペーパーが多いということ。

私の昔の客に風俗出版の会社があったので、そういったことをまるで知らないわけでもなく、そういったものの意味とか売れるポイントとかってのは一通り聞いていた。また、そんな雑誌の広告営業の苦労とかも聞いていた。だから、風俗フリーペーパーが出ること自体は「さもありなん」と思う。

とは言え、やたらに「求人」の広告が多い。風俗求人専門のペーパだっていくつもある。これが不思議だった。

元々の私の仮説は、

  • 常に求人があるから勢いそんなのばかりになる
  • 営業がそういったのが得意
  • そういった求人が一番儲かる

という類のことだったのだけど、ある話で目から鱗だった。それは、

風俗求人にクチコミはありえない

ということ。

確かに、どんなにいいお店に勤めていても、「私、ここで働いて良かったよ」という類の話は、誰にも出来ない。だから、そういったお店の情報はクチコミでは拡がらない。そのくせ、そこで勤めたいと思っている人は、良質の情報が欲しいはずだ。何にしろ何らかの形で「身体を売る」のだから、危険な目にあいたくない。そうなると、求人する側もされる側も、「広告」が必要になって来る。

これは「カツラ」の広告も同じだし、「結婚相談所」も同じだ。そう思って見ると、これらの広告はあちこちで見掛ける。ギャンブル雑誌の表4には怪しいお守りの広告が多いが、これも同じで、これで解決したいものは要するに「コンプレックス」の類。つまり、

自分がその恩恵にあづかっていると恥ずかしいもの

は、クチコミが期待出来ないということだ。だから、どんなに提供されるものが良くても、いや良ければ良いだけ、クチコミはありえない。同じ理由で顕名での発言はありえない。

もちろんそんな「恥ずかしいこと」は時代と共に変化する。風俗嬢が「フードル」とか言われてもてはやされる時代だから、全てがそうではない。でも、大多数の人にとって「恥ずかしいこと」と認識されることは、他人には言えない。だからクチコミもなければ、顕名による信用ある発言は期待出来ない。

「顕名である」ということは、私は一種のブランド戦略だと思っている。それゆえ、顕名の発言には信用があるし、信用を確保する努力をするべきだと思っている。とは言え、どれだけ信用があろうと「恥ずかしいこと」についての発言は難しい。ある商品が良かったということを、匿名で発言しても「業者乙」でしかないが、匿名でしか発言出来ない(したくない)ものがあるのもまた事実だ。

炎上やら身の危険やらとは別に、「恥ずかしいこと」は顕名では言いたくないのが普通なのだ。

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