「mixiの新規約がひどすぎる件」を考察してみる

セルフカバーのエントリは伸びないものだけどw

mixiの新規約がひどすぎる件

で問題点は書いたし、同じポイントについていろんな人がつっこんでいる。mixiライトユーザの小飼氏まで別の視点であるが問題点を指摘している。

おかしいおかしいと言うのは簡単なんだけど、じゃあそんなおかしいものがなんで出て来たのか、考えてみたいと思う。

問題点は既に指摘されているので、あらためて書くこともない。

ここでひっかかるのは、こういった「気が狂った」としか思えないような規約が、おそらくちゃんと存在しているであろう法務部門や顧問弁護士のレビューを通ってしまったであろうことだ。

mixiほどの会社であれば、当然法務部門もあれば顧問弁護士もいるだろうから、規約の類を作れば必ずレビューしてるはずだ。だから、彼等はこれで問題なしと判断したわけだ。また、mixiというサイトの運用はmixiという会社の経営を左右することであるから、経営的に問題なしという判断もされたはずだ。つまり、mixiという会社の総意としてこの規約は、

正当

だと判断されているということだ。

ここで「mixiは儲けに走った」だの「株主がどーのこーの」だというような中二的考察は抜きにしたい。何度も書いて反発をくらっていることではあるが、「企業は儲けるもの」だ。儲けるためには何をするのも正当化される。もちろん法に抵触するとか、商道徳に反するとか、利用者の離反を招くものは現実的に実行は出来ないが、その辺は「儲け」とのバランスで考えられるべきこと。金にならない利用者が離反したところで、金になる利用者が増えれば実行して良いし、会社のイメージを気にしないのであれば触法的なことをしても構わない(どれだけ処罰されても談合がなくならないのはそーゆーことだ)。何を実行するか決めるのが「経営」というものだ。その結果の責任を取るのも「経営」だ。

という前提に立って、mixiはどう判断したのだろうか考えている。

実は一番問題視されている第18条の2、「ユーザーは、弊社に対して著作者人格権を行使しないものとします。」というのは、これだけ見るとトンデモもいいところなのだが、他のネットサービスの規約を見ると、それ程珍しくないものだということがわかる。これについての解説は、

News – mixiはblog化するのか?

mixi、4月1日より利用規約を改定–日記などについて著作者人格権の行使を禁止

あたりにある。

一番多くの人が懸念している、「勝手にblog本が出る」ということは、mixiが出版社でないこと、またmixiと関係の深いサイバーエージェントが出版部門を廃止したこと、また昨今の出版業界の動向を見ると、それ程可能性のあることではないように見える。「著作者人格権を行使しないもの」とか書いてあるとは言え、2日猶余があるみたいだし(第19条5の(1)の(ア))、おそらく平時の運用については大騒ぎするようなこともないだろう。いくら「著作者人格権を行使しないもの」と言っても、それはmixiに対してであって、他に対してじゃない。また、出版に必要な権利の行使や譲渡は著作権およびその隣接権だけじゃない。だから、mixiが勝手にblog本を出すということを察知したら、他の出版社にかけあってもいい。この辺のことは、あくまでも「懸念される」という程度であって、現実的な問題ではないだろう。

そう考えたら、この条項はもっと他のことを想定していると考えた方がいい。

そこで私がすぐ考えつくのは

管理上の都合

だ。

これは既に何度か言っていると思うのだが、著作者人格権には「公表」に関する権利を含む。いつ、どうやって、どんな形で、どんなライセンスで「公表」するかは、著作者人格権の範中だ。そして、憲法に認められた基本的人権の中には、「思想」や「発言」の自由が含まれている。「日記」は自分の個人的思想や信条を含んだ発言であるから、「日記を書く自由」は憲法が保証する権利である。それは、他人の権利を侵害するものであったり、名誉を棄損するものであっても同じだ。もちろんそれらは禁じられるものではあるが、著作権法の類とは別の法律の範中だ。「発言」することそれ自体は自由なのだ。

ところが、これが他者の権利とか名誉と相反する場合、いろいろ厄介なことが起きる。もちろん「発言の責任は発言者がとるもの」ではあるのだが、ネットの場合その情報をホスティングしている事業者も「共犯」とみなす動きが少なからずある。昨今の幇助犯の拡大解釈を見ていると、「うちのサーバを使っただけ」であっても、サーバの管理者や事業者が共犯関係にあるとみなされることは少なからずある。まぁその辺を抑制的に解釈する事業者は、プロバイダ責任法をタテにそういうヤバい情報を削除したりする。

この時、明快な不法行為だとか、権利侵害の類であれば、あまり問題は起きない。そこで当事者がコネたところでプロバイダ責任法をタテにすれば、まぁたいていは片付く。「プロバイダ責任法」というのは、そういったことをやった時に起きるであろう面倒なことから事業者を解放してくれるので、正しくは

プロバイダ無責任法

と言ってもいい。まぁ何にせよ、「わかりやすいこと」については話は簡単なのだ。

厄介なのは、グレーゾーンに属することだ。「事実の暴露」と「名誉棄損」は紙一重だし、裁判で「事実の暴露」の方が認められることであっても、その途中ではいろいろなことになる。また、そういったものの事実誤認も起こりうる。また、規約では明示的に禁止してないけど… なこともあるだろう。こういったことに限らず、人の活動には

ややこしいこと

がつきものだ。簡単に規則を決めて運用すれば済むかと言えばそうとは限らない。もちろんケースバーケースな対応が求められるのだけど、「とりあえず緊急避難」として公開を停止するとかする必要もあるだろう。

ところがそうなると、「著作者人格権」が行使されると、結構厄介なことになる。「盗人にも三分の理」と言うが、ましてや普通の人のやること。1時間くらいの理があってもおかしくない。特に「確信犯」やら「正義」やらが入ると、ますますややこしいことになる。

運用する側としたら、そんなややこしいことに関わりたくない。だから、利用者責任ということにしておきたいところなのだが、世の中それを簡単には許してくれない。mixiのように上場してたらますます許してくれない。だから、「ちゃんと」管理をすることを要求されてしまう。ところが、グレーゾーンだの確信犯だのとゆーややこしいものがあるもんだから、なかなかそれもまっとうできない。

そうなると、

えーい面倒だ。俺の庭では俺の自由にやらせろ

ということになる。つまり、多少恣意的の謗りを免れないような運用であっても、「安全側」「事なかれ側」に倒すために、「公開するかどうか」は「俺」の自由にさせろという判断になる。

といったあたりが、mixiだけじゃない他のいくつかのネットサービスの規約の中で「著作者人格権を行使しない」という条項がある理由なんじゃないだろうか。そういったことであれば、経営判断的にもおかしくないし、法務や弁護士のレビューでも問題視されないだろう。むしろ、ない方がおかしいくらいだ。

まぁだからと言って、あまりに影響範囲の大き過ぎる「著作者人格権を行使しないこと」なんてことを規約に入れるのもどうかとは思うが。

PS.

BBWatchにちょっと弁明みたいなものが出ている。詳しくはリンク先を見てもらうと良いのだが、これはここに書いた以上に理由になってない。1000歩譲ってこれが理由だとしても、「著作者人格権を行使しないこと」と表現するのを肯定はしないだろう。

「mixiの新規約がひどすぎる件」を考察してみる” への4件のコメント

  1. 4月まではあえてスルーすることにしました。
    どうせ「言い訳→穴があってツッコまれる」のループを繰り返しそうな悪寒がするので(笑)

  2. そしてほとんどゴリ押しで通しちゃうんですよ。以前からそうであったように。

    「下に対策あり」と。

コメントは受け付けていません。