判例的には「課長」は管理職じゃないです

南方司君のblogで知ったんだけど。

マック店長への残業代支払いを命ずる判決

元記事は、

<マクドナルド訴訟>店長は非管理職 東京地裁が残業代認定

この件ではびっくりしている調子のblogも多いようだけど、

判決は管理監督者を「経営者と一体的立場で労働時間の枠を超えてもやむを得ない重要な権限を持ち、賃金が優遇されている者」と判断。

というのは、過去の判例の踏襲に過ぎないようです。

以下は「罠」でもなければ、レトリックの類でもない。

これはかなり前に経営コンサルタントである「ドン」に教えられた。判例的には「管理職の要件」とは、

  • 人事権
  • 経営権
  • 待遇

およびこれらの「実態」が必要だということらしい。つまり、人事や経営に参加しているという実態がない者は、いくら規定上「管理職」となっていても、管理職ではないと判断されるのだと。だから、実態としてこれらの権限がない「マクドナルドの店長」が非管理職だという判断は、過去の判例からすれば、ごく普通の判決。

これは同じように、世間で「管理職」と呼ばれるほとんどの「課長」は、実態としては管理職とみなされないということ。大きな会社であれば、「課長」ともなるとまぁそこそこの人事権くらいはあっても、いわゆる「経営への参加」類はありえない。

我々の常識からすれば、

経営は取締役の仕事

だし、商法上もそうなっている。酷い会社になると、平取締役ですら満足に経営に参加させてもらえないくらいなのに、ましてや従業員としての権利が保護されている(= 会社に対して最終的な責任を負わない)「課長ごとき」に経営なんて、普通の「経営者」からすれば「馬鹿言うな」だろう。会社に対して最終的な責任を負わないで「経営に参加」ってのは、なんかおかしい。

ここで、常識的に考えて、「経営への参加」は「意見を聞く」程度に限定されるものだ、それならまぁそうだよな… とか勝手に解釈するのだが、これもどうやらそうじゃないらしい。もっと積極的に参加しているという「実態」が必要なのだそうだ。

まぁこの話の真偽については、気になった人は調べてるといいんだけど、件の判決を見る限りでは、この話が真実に見えるはずだ。

そんなわけなので、「管理職になって残業手当がなくなって困る」という部課長は、ユニオンでも組んで「労働運動」するなり訴訟を起こすなりしてみるといい。少なくとも、判例はそんな「管理職」の味方だ。件の判決というのは、そういったことなのだ。会社側が争う余地があるとするなら、いわゆる「管理職手当」が「みなし残業」と解釈されるかどうかというあたりまで。

まぁ個人的には「管理職」は単なる職制に過ぎないということにしちゃってる方がすっきりしてると思うけど、それだと取締役と従業員の立場の違いがあり過ぎでもある。「判決的な意味での管理職」は「対外的な責任」という意味で運用しにくいと思う。「そんな終身雇用を前提とした人事システムはナンセンス」とも言えるだろうけど、どうせ役員は定期的に入れ換えをしなきゃいけないわけで。小さいところなら、まぁどうとでも出来るけど、大企業は大変じゃないかなぁ。

判例的には「課長」は管理職じゃないです” への5件のコメント

  1. 前もmixiで書いたかもしれませんけど
    零細な会社だと株式会社設立の頭数そろえのためだけの
    「みなし会社役員」ってのもいますからね。
    でブログにも書いたけど会社役員なのに
    ワーキングプアってのもいるわけで。

  2. > 株式会社設立の頭数そろえ

    まぁ今は役員は一人でもいいんだけど、「トカゲの尻尾要員」は明かにいたりしますね。でも、商法上の責任は同じ。

    > ワーキングプア

    働いてる間はまだしも、従業員よりも簡単にクビに出来ちゃいますから。ぐちゃぐちゃ理屈つけて、退職金を0にしたりとかね(^_^)

  3. どうもです。
    昔成り行きで個人加盟労組の手伝いしていた経験からいくと、以下の点が「画期的」です。

    ・今までの判例がそんな大きく報道されてこなかった上に、多くの場合が雇用側が上告しても二審か最高裁で争っている間に金銭と幾らかの労働者(と原告労働者が駆け込んだ労組)側に有利な条件で和解が行われている。
    二審判決出た後に上告しない場合でもこういう例に含みます。
    ・金銭解決してしまうと告訴した労働者にのみ有利な状況が出来るが、今回原告が和解拒否で押し切った事で雇用者側が未払い賃金の支払いと店長への監督義務があると司法に認めさせた事で、今後マクドナルド本社側に労務管理の責任が発生する

    で、二番目の点が重要で、
    http://www.ohmynews.co.jp/news/20070909/14901
    でも触れられていますが全ての本部直轄の店長だけで数百億円の未払い賃金があって、
    しかも店長が過労死したり精神や体を壊して辞めたりする事例もありますから、
    当然それらの事例について今まで本社が認めてこなかった労災を起こした監督責任も問われる。
    そうなると、本社直轄の分だけでも一千億近いお金が飛ぶということで、その上で本社直轄の分を認めるとFC展開してる部分の「見た目オーナー」が当然「なんで自分たちも同じノルマ押し付けておいて無視するんだ」と裁判になる。
    この場合、労働法の問題と一緒に商法の問題も絡んできますから、もっとややこしくなるし、マクドナルド側の出費も尋常ではなくなる。

    確かに「大企業は大変」でしょうけど、オフィスに勤めてる社員ならば、部長級の裁量で課長職に経営への参加ともとれる行為を認めている場合が少なからずあって、
    今までの判例だと「口出せないのになんで口出せる奴と同じ待遇なんだ」と言う部分での「逃げ道」が逆に雇用者側にあったんですが(それでも最近の司法判断は、特に労災裁判では雇用者に厳しくなってる)、
    マクド(やファミレスやコンビニなどと言った正社員とFC展開が混在している企業)の店長の場合には

    「君のお店への予算はこれだけ、商品はこれ、それで売上これ以上出してね(はあと)あ、君や店員が超過勤務してもそれは君が店員を上手く使えなかった責任だから問題起こしたら責任全部君が取るんだよ(はぁと)」

    と言う感じで本社から一方的な不利益な条件を押しきられて通されていた訳で…

    この裁判は普通の労働裁判での「見做し残業」とは少し質が違って下手に大きな監督責任を会社側とバイトも含めた部下に対して持っている店長に労働者性を認めるかどうかというのが最大の争点で、
    今まではこの手の脱法行為は「コナカ」の一件とあと少し以外の労働裁判やそのまえの労基や労働委員会では労働者性が認定されにくかったり労働者性を認めても裁判で強引に和解を呑ませられた(ので、堂々と経営者側が一方的に無理を通せた)。

    テレビでははしょられていますけど去年の10月にマクドの店長が過労死していて、「この判決がもう少し早く出ていたら死なせずに済んだのに…」と判決後に訴えた労働者側が号泣していますので。

    http://www.ohmynews.co.jp/news/20080128/20244

    今までの「見做し管理職」での未払い賃金や過労死/労災をめぐっての労働争議よりも数段インパクトが大きいですよ。

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