無力

乾燥した空気が僕の喉を痛めつける。
空はどんよりとしていて、夕方なのにもう夜のようだ。
長時間のPCの相手は想像以上に疲労が溜まる。眼鏡を外して眼を擦った。
横にいる彼女はベンチに座ってからずっと動かない。
先が丸い靴を睨みながらだんまりを続けていた。
名を呼ぼうとしたけれど喉が掠れて思うように声が出ない。
咳をして喉をならす。喉を通る冷気が異様に気持ちが良かった。
「なあ」
ほんの少しだけ彼女の瞳が動いたように見えたけれどそれだけだった。
怒っているような悲しんでいるような複雑な表情をしている彼女を
遠目に眺めながら、無性に煙草が吸いたくなった。
彼女の震える睫毛を眺めていたところで何も変わりはしない。
況してや冷え切った手を握っても、肩を抱き寄せても意味が無い。
隣の小さな彼女の心を温められるのはもう僕じゃない。
彼女のように泣く事でどうしようもないこの感情を
鎮められるのならば、僕だって泣く事が出来るのに。
嗚咽を堪えながら僕を見ないように彼女は立ち上がった。
何もかも思い通りにいかない事ばかりで諦める事を覚えた僕は
本当に必要なものさえも無くそうとしている。
その瞬間を僕はただ傍観していた。
彼女の去る後姿を眺めながら。





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