Prime Airの「本気」を考えてみる

Amazonが「Prime Air」という名称で、マルチコプターを使ったサービスをリリースするという話が話題になっている。

アマゾン、30分以下で届ける小型無人8翼ヘリPrime Air を公開。実用化は2015年以降

ここに限らず、そこらじゅうに話が出ている。

かつて他から似たような話が出たこともあるが、それらの話の「その後」をまるで聞かない。意地悪に見れば、Amazonのものも

言ってみただけ

かも知れないという疑念を持つことも出来る。ピザの宅配とかどうなった?

実は同様のサービスが可能か検討をしてみたこともあるので(現在も思ってるのだけど)、これがどれくらいの本気度があるか、ちょっと考えてみたいと思う。

結論から言えば、これは多分本気の話で、「言ってみただけ」ではないと思う。それは、以下のような理由からである。

  • システムとしての方向性の中で作られている
  • 8ローターである。つまり安全性や信頼性について考慮している
  • 荷物の持たせ方を考えている
  • 動画に「いかにも」なサイバー感のある演出がない

もちろんこれだけで「本気」とは言えないと思うし、株価対策的なものもあったりすると思うのだけど、ここまで考える姿勢があれば「やるかどうか」だけの話だろうと思う。

まず、「空気」的なものから考察してみる。

この動画を見ると、舞台はAmazonの倉庫から始まる。ここで見られるのは、専用のコンテナにAmazonのルーチンワーク的に荷物を詰めて発送している。実際にAmazonの倉庫を見たことはないのだけど、たいていの自動化の進んだピッキングはこんな感じなので、そういった中での「お話」にしたのだろう。

注目するべきは、これがAmazonの「ルーチン」に組み込まれた形での動画であるということだ。実際にこうなるかどうかはわからないけれど、

だいたいこんな感じ

として考えられたものだろうと思う。未来にこのシステムが実現した時のPVを作るとしたら、やっぱりこんな感じなんだろうなと思わせるに十分なものだ。

これが仮に「いつか実現されるコンセプトビデオ」であるなら、もっとサイバーな感じの演出がされているはずだ。既に実験室では、

ヴィージェイ・クーマー 「協力し合う飛行ロボット」

こんなデモが公開されていたり、

こんなCMがあったりするのだから、もっとサイバー感バリバリのものを作らなければインパクトがない。ところが、Amazonの公開した動画は、サイバー感どころか

アメリカのどこかではもう実験運用してるんだな

的な違和感のなさ。PVとしては面白くも何ともないと言っても良いくらいだ。

ところが、こういったものをあえて公開した。つまり、これは「未来のいつか」ではなくて、「もしかしたら来月あたり」なものだと思っているということだ。派手なものを見せて顧客や株主をどうこうしようというものではなくて、「もうすぐこんな感じのものローンチするんですわ」的な位置付けだということだ。

アマゾンの無人機開発がジョークでない理由―配達以外にも多くの使途

WSJでもそんな話。

というのが動画の「空気」から感じることなのだけど、技術的なことも見てみる。まぁ、これだけの動画でそれ程わかるわけでもないし、この機体をそのまま使うわけじゃないだろうから、ざっとした感じなのだけど。

ここで一番重要なのは、

オクタコプター

であるということだ。我々がよく知っているクアッドコプターではない。ローターが8つもある。

実は飛ぶだけであれば、ローターは3つで良い。最低3つあれば安定に制御が出来る。また、バランスを考えても、ローターは4つあればいい。ローターが4つあるクアッドコプターであれば、そこらじゅうにある。

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うちにだってある。あ、うちにはAR Droneもありますw

4つローターがあれば飛ばせるのであるが、これには実用化には致命的と言っても良い欠点がある。それは、

信頼性に欠ける

ということだ。

ハードウェアは故障が不可避だ。その故障が起きた時に、致命的な結果が出ないようにすることが、「運用」には必要となる。4ローターだと、1つ止まるだけで制御不能になって墜落してしまう。これでは使いものにならない。

もう1つの欠点は、ペイロードがあまり大きく出来ないということだ。ローターの下には障害物がない方が効率が良いわけだが、4ローターでそれをやると、やたらにローターを支えるアームが長くないといけなくなって、デカいものになってしまう。

こういった欠点を解決するために、ローターは4つ以上必要となる。5つあれば1つ止まっても平気だし、6つあれば2つ止まっても平気… という単純なものではないけれど、8ローターであれば、最大4つまでローターが止まっても制御可能だ。もちろん運が悪ければ2つで制御不能になるのだけど。

8モーターが安全な理由

4モーターが危険な理由

こういったシステムを実用にしようと思うと、「安全性」と「信頼性」が不可欠だ。積荷を抱えたまま墜落してもらったら、顧客も運用者も困るし、そんなものが天から降って来たら、道行く人も危険だ。実際にこの手のものを動かしたことがある人なら、一度や二度はローターに指を当ててしまう失敗はあると思うのだけど、こんな小さいものでも相当に痛い。パワーがあるものなら(件の機体は2.5kgまで搭載とか言っているから、相当なパワーだ)、

空飛ぶフードプロセッサ

だと言っても良い。もちろん人のいないところを飛んでいれば、そんなことは問題にならないわけだけど、そういうわけにも行かないから、人に危害を与えないということは、最低でも考慮されなければならない。そういった意味で「信頼性」は非常に重要なのだ。

「実験」であれば、それはどうでもいい。でも、そういった「信頼性」を考えた機体にしているという点で、「実用化」ということを考えていることが伺い知れる。

これに関連して、「FAAに相談中」的な話が書かれている。アメリカがどんな扱いをするか知らないのだけど、日本の場合は「無人機」はどんなに大きくても「ラジコン飛行機」と同じ扱いで、特に法規制はない(法制化の動きはあるらしい)。アメリカもその辺は大差ないと考えると、そこで敢えて「FAA」について触れられているということは、

それなりの覚悟の表明

という意味だろう。「安全」は安全だけでは意味がない。「安心感」がなければ人は納得しないのだ。FAAの「お墨付き」はそういった意味でも重要だ。

実は定常飛行時のエネルギー効率という点であれば、8ローターよりも4ローターの方が良い。と言うか、ローターの径は大きい方が良い。それは、ローターの空気抵抗による損失は半径に比例するのに対し、ローターによる推力は、半径の2乗に比例するからだ。ところが、これに外乱が加わると、ローターの回転数を変えることになり、それについてはローターの径は小さい方が得になる。都市のビルとか思わぬ風が発生しているので、制御がしやすい方が結果的に効率が良くなるのではないかとも思われる。まぁ、何にせよ、「実用」ということを考えれば、4ローターはありえず8ローターになる。

また、飛行エリアを限定しているという点も重要だ。「30分以内に届ける」というところだ。これをもうちょっとちゃんと解釈すると、

飛行時間は1時間以内

だということだ。

実はマルチコプターはものすごく電力が必要になる。なぜなら、静止しているだけでも、重力に逆らう必要があるわけだから、それに相当する電力が必要になる。そして、これはどれだけ効率を上げたところで、飛んでいる機体(と荷物)の目方に相当する分だけのエネルギーが必要になるというのは、不可避である。

このマルチコプターは、今までマルチコプターの実用として使われて来た「空撮」とはまるで違い、「荷物」を運ぶことになる。「空撮」用の機体であれば、軽量化することでエネルギー効率を上げられるのだが、「荷物」の重さをどうこうすることは難しい。せいぜい、コンテナを軽くするくらいしか出来ない。

他方、搭載出来る電池には限りがある。やたらにデカい電池を載せても、それは無駄な目方となるわけなので、なるべく電池は減らしたい。電池の容量や駆動系の効率は技術的に先が見えてしまっているので、「目方」と「時間」と「電池」のバランスを取るしかない。それが「2.5kg」「30分以内」というあたりだろうと思われる。それを達成するためのシステム設計や検証がされて行くということだろう。電池や効率に殊更のブレイクスルーがない限り、これらのバランスの問題はついて回るので、それを前提にシステム設計しなければならない。

「実用化にはあと2年くらい」という話なのだけど、そうなると電池や効率は「今」のものを使うことになる。そうなると、「今」の技術の限界を前提としたシステム設計をしなければならない。たとえば、1つの機体で往復1時間はキツいということになれば、リレーをするようにするとか、電池の充電(交換)はどうするだとか、そういったことを、運用までに解決して行かなければならない。機体自体に大きな期待をかけて改良するというフェーズは、既に終わっていて、後は微調整だろうと思う。多分課題は、

  • さらなる安全性の確保(エアバッグとか必要かも)
  • 運用条件の検討(ピザの30分以内とかの話と同様)
  • ロジステック的なシステム検討
  • 運用方法(電池の充電とか)

あたりではないかと。

PS.

DHLも言い出したらしい。

DHL、小型無人機による配達サービスをテスト中

上に書いたことを読んだ上で、この記事を見て欲しい。

どう見てもこれは「なんちゃって」に過ぎない。おおかた、Amazonのそれに刺激でもされて、あわてて発表したんだろう。

ドイツポストのプロジェクトはまだ初期段階にあるが、構想自体はアマゾンより前から存在しているという。

とか書いてるけど、「は?」に過ぎない。なぜなら、

  • これはラジコンに過ぎない(8枚目の画像)
  • 4ローターだ(上に説明した)
  • 雨が降ったら荷物が濡れる(箱を直接ぶら下げている)

等の問題があるからだ。「前から存在している」のであれば、これらについて何か答えを用意してない限り、「前から遊んでました」以上のものではないからだ。

PS2.

一応、4ローターでも安定させる方法はある。

でも、「理論的に可能」と言うことと、「実用として使える」ということは必ずしも一致するわけではないので、現時点では

使えない技術

と思って良いと思う。飛び続けるのは確かなんだけど、4ローターが3ローターになると、極端に外乱に弱くなるので。こういった技術はむしろ、もっとローターが多いものの時の信頼性確保に使われるべきである。「実用」という意味では。

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This entry was posted on12月 6th, 2013 at 14:13:19. You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0. Responses are currently closed, but you can Trackback..

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