昨日の日記で、くさかべさんが「醤油+バターでジャンク風味」という話をしていたので、実験。
今日は先日の「貢ぎ物」の牛肉が届く。箱に「個体識別番号」なんてものがついているくらいの、高級和牛である。残念なことにこれはスライスなので、どう料理しようかと悩む。ブロックなら迷うことなくステーキなのだが。
結局考えに考えた挙句、「あまり混ぜものもしないで、そのまま焼いて食う」ことにした。
この肉の切り方から言って、本来スキヤキにするべき肉なのだろうが、スキヤキは魯山人に言わせると「あまり肉食の得意でない日本人の考えたマズい料理」である。確かにスキヤキは味つけが濃いから、あまり肉の味を引き出しているとは思えない。普通以上のグレードの肉であれば、どんな肉でも大差は出ない。それに、実はそんなに好きでもない。シャブシャブも魯山人は同様に酷いことを言っているが、それとは別に「お湯においしい部分が抜けて行く」のがもったいないので、あまりいい肉ではやりたくない。
牛肉を使った料理はいろいろあるのだが、「スライス」を使ったものは味つけが多過ぎで、肉の価値が活かされない。醤油砂糖を多用すると、だいたい似たような味になってしまう。そんなわけで、なるべくストレートに食うことにしたのだ。
ただ、せっかくなので、
- タマネギスライス+塩+胡椒というタレをつけて焼く
- 単に焼いてる時に塩胡椒するだけ
- バターで焼いて、醤油をかける
という3種類の食べ方をやってみた。基本は(1)で、(2)(3)は「1ロット」だけ。「ロット」と言うのはどう言うことかと言えば、そのまま全部焼いてしまうと、後の方が冷めてしまうので、何回かに分けて焼いては食い…としたのだ。
(1)のタレは、タマネギをスライスして塩を混ぜ、胡椒を混ぜてちょっと寝かせておくだけだ。私はたいていの「焼き肉」の類は、これをベースにする定番のタレである。簡単に作れるし。
(3)はバターを熱して肉を入れ、途中で醤油をかけ回したもの。これが今日の本題の「ジャンク実験」である。
(3)を食ってみると、実のところ「大変おいしい」のだ。何も考えないでこれだけを食えば、きっと誰も文句を言わない。「このまま御飯にのせて、がーーーっとかきこむ」と、たまらないくらいおいしい。
しかし、(3)は1ロットで終了させた。
なぜかと言えば、この料理法は「おいしすぎる」のだ。つまりどう言うことかと言えば、「どんな牛肉でも、それなりにおいしくなってしまう」ということである。せっかくの「100g1000円を楽に越えそうな高級牛肉」を使って作るようなものじゃないのだ。こいつは「100g104円のハナマサのOGビーフ」でも、きっと同じような味になるだろう。もちろんいくらかの違いはあるだろうが、大した違いにはならない。だから、そういった「安物の肉」にこそふさわしい。安物の肉をおいしく食べたい時に力を発揮する。逆に高い肉にはもったいない。
他の料理でも言えることだが、和風調味料の雄である「醤油」「味噌」というのは、おいし過ぎる。下手に使うと、他の工夫や他のものの価値を台無しにしてしまう。まずくしてしまうわけではないが、「醤油味」「味噌味」に染めきってしまうのだ。
(2)は確かに肉の味がストレートに来る。これはこれで悪くない。しかし、これはそれ以上でもそれ以下でもない。これも、これだけで食えば「高級牛肉のそれらしいおいしい食べ方」と見えるかも知れないが。
しかし、(1)は(2)よりもおいしい。また(3)のように、素材のレベルを無駄に均一化させない。つまり、「肉の潜在力」を引き出してくれる。きっともっとおいしい「タレ」が作れるだろうが、方向性としては間違っていない。これがわかると、(2)は(1)とは別の意味で「もったいない」食べ方だと言うことに気がつく。「潜在力」が潜在したままでは、せっかくの肉の価値がない。
前にも書いたと思うが、「いい料理」とは素材の味を極力損わない味付けである。それと共に、素材の価値を引き出さなければ、せっかくの素材がもったいない。そういった意味では、「塩胡椒」だけで食うのも「醤油+バター」で食うのも、あまり良い料理法とは言えないのだ。
って、普段食ってるような安い肉なら、(3)をやってみるのもいいんだけどさ。