冷蔵庫は魔法の箱である

食品衛生的なところでの話で、

冷蔵庫は魔法の箱ではない

的な話がされる。つまり、冷蔵庫に入れておいても腐るから、過信は禁物だよという話だ。実際、冷蔵庫でいろいろダメにした経験のある人は少なくないから、「冷蔵庫は魔法の箱」を信じる人は少ない。

しかし、私はあえて「冷蔵庫は魔法の箱」であると思っている。ただし、「魔法」を使わなければならないし、「魔法」が「万能」ではないとゆーだけだ。

冷蔵庫を魔法の箱だと信じて、それに裏切られる人達は、「魔法」を使ってなかったり、「万能」だと思っていたりする。でも、「魔法」の通じるものに「魔法」を使えば、そう滅多に残念なことにはならない。

たとえば、うちではよくスープストックの類を作って冷蔵庫に保存するが、年のオーダーで平気だ。その他に作り置きをするものは結構あるのだが、たいてい食えなくなる前に消費してしまう。材料はハナマサだから結構な量であるが、それでも消費する前に腐ることはまずない。それは私が「魔法」を知っているからだ。

とか言っても、そんなにたいそうなものでもない。ポイントを挙げると、

  • 滅菌をしつこくする
  • 雑菌を入れない
  • 冷蔵庫の開閉は極限まで減らす

だけだ。これを見るとわかるが、この「魔法」は

生ものには通用しない

ことがわかると思う。

滅菌をしつこくする

地球上のありとあらゆるものは、微生物に汚染されていると思っていい。どんな極限環境でも生物はいるようだ。そして、彼等にとって生育条件が整えば、繁殖をするし、それがある程度を越えると、食べ物を腐らせる。だから、食品を長期保存するためには、滅菌をしつこいくらいしなければならない。

具体的にはどうするかと言えば、1に加熱2に加熱だ。そして、消毒だ。

食中毒性の細菌は熱に弱いものが多い。毒性が高いと言われているボツリヌス菌も、80度以上で30分も加熱すれば死ぬし、100度で数分の加熱で毒素も失活する。だいたいの細菌はそんなところだ。

ところが、こいつらの多くは「芽胞」というものを作り、これが極限環境に強い。天然納豆菌で納豆を作る時に、藁を煮て作るのは、他の菌が高温で死ぬのに対して納豆菌(腐敗菌の仲間)が高温で強いから、それによって菌が選別出来るからだ。

@nifty:デイリーポータルZ:そのへんの枯れ草で納豆を作る

そういった「芽胞」もしつこく加熱すれば減るし、一度常温に戻したものを加熱すると、常温に戻って菌になった芽胞を殺すことが出来る。私がハムとか作る時に何度も消毒するのもそういった理由だ。

パンチェッタくらい作りゃいーじゃない

頑張って無菌に近い状態にすれば、まず第一歩は大丈夫だ。

雑菌を入れない

せっかくそうやって頑張って滅菌をしても、後から雑菌を入れてもしょうがない。冷蔵庫での保存の失敗は、実はここにあると言っても良いかも知れない。

雑菌を入れないために第一にするべきことは、

空気に晒さない

ことだ。ほとんどの雑菌は空気からやって来る。試しに御飯をしばらく外気に晒してから、ラップをかけて放置してみるといい。数時間でカビだらけになってしまう。学生時代これでよく泣いたもんだ。でも、同じ御飯でも、炊きたてを茶碗に入れてすぐラップをかけたら、そうそうカビは生えて来ない。それだけ空気には雑菌があるということだ。保存食と言う程でもないけど、汁気ものを作り過ぎて後日食べたいなと思っているのなら、鍋の蓋はなるべく閉めておく。盛りつけたら、すぐ蓋をする。出来れば冷蔵庫に入れる前に一度火を通す。もちろん蓋をして冷蔵庫。

また、多くの雑菌は好気性だ。ボツリヌス菌のような嫌気性の細菌はそれ程多くない。さらに酸化による劣化(油脂とか)も、空気によって起きる。そういったことを考えると、空気に触れさせないということは、いろいろと意味がある。

でも、重要度としてもっと高いのは、

手で触れない

ということ。人の手には大量の雑菌がある。それには良い菌も悪い菌もあって、人の手はそれでいいんだが、食品となると全部が悪い菌だと言ってもいい。腐らせなくても、風味を変えてしまう。

刀削麺(2)

とは言え、調理する時に手に触れないなんてのは、なかなか難しい。そこで、保存する予定がある食品を作る時には、しっかり手を洗ってアルコールかなんかで消毒しておくことをお勧めする。

さらに忘れがちなのは、手や空気が雑菌に汚染されているということは、それらに触れたものも汚染されているということだ。洗って置いてあった食器や調理器具、まな板や包丁。これらは全て雑菌まみれだ。だから基本的にそういったものは、

使う前にも洗う

ことだ。これで雑菌によって汚染される機会はぐんと減る。まな板とか、使う前にアルコール噴霧するとかもする。

冷蔵庫の開閉を減らす

冷蔵庫を開閉すると、外気が中に入る。空気には雑菌が含まれているのだから、それらに晒されるリスクが上がる。また、その風で庫内の雑菌が舞う。冷蔵庫の中は意外に雑菌がいるものだし、寒さに慣れている奴等も多いので、冷蔵庫でも繁殖してしまうものさえいる。外の空気から来る奴等もヤバいが、中に潜んでいる奴等もヤバい。そういったヤバい奴等をなるべく刺激しないことだ。

また当然ながら、温度が上がる。温度が上がると、雑菌に繁殖の機会を与えるだけではなく、下がる時に容器が結露したりする。冷凍庫だと、水の結晶が成長してしまって、風味を悪くする。

冷蔵庫と言えば、よく「魔法」に失敗して腐らせたものを放置してしまっていることがあるのだが、こいつらは早めに処分するべきだ。冷蔵庫の中で何かを腐らせる菌は、冷蔵庫という環境に適合している奴等だということ。そして、そいつらを冷蔵庫に放置しているということは、そういったヤバいものを置いているのと同じだということだ。だから、腐ったとおぼしきものは、どんどん捨てよう。また、そういった菌がいると思われるので、時々冷蔵庫の中はアルコール噴霧とかしておくといいだろう。

これくらいのことに気をつけておけば、普通の頻度で食べるものなら、食えなくなる前に全部消費してしまえる程度には持つので、実質「魔法の箱」になったと言っていい。「滅菌→空気遮断」をしっかりやれば、1年前のスープでも何の変質もしない程度に持つ。「殺菌と蓋」に留意していれば、真夏に鍋を放置しておいても悪くならないくらいだ。また、そのために防腐剤の類を使うことは、もちろんない。だから、

ヤマザキパンはなぜカビないか

ってのは、それなりに管理されていれば、当然のことと言える。

とは言え、ダメなものはダメだ。冒頭でチラと触れたのだけどん「生もの」は持たせることが出来ない。「生もの」は加熱して殺菌と言うわけには行かないし、肉など加工した時に散々空気に触れている。さらに悪いことに、肉は

自家消化

してしまう。ある程度の自家消化は「熟成」として良い結果になるのだが、進み過ぎると「腐ってないけど食えなさそう」なものになってしまう。そういった意味では、「万能」ではない。

「万能」ではないのだけど、実用的な範囲で「魔法の箱」にすることは、不可能ではないし、「魔法の箱」として頼らないまでも、↑に書いたことは食中毒を避ける方法のイロハでもあるので、敢行しておくと良いと思う。