電波利用料の耐えられない別の格差

小飼さんのblogより。

電波利用料の耐えられない格差

ここに暗示はされているけど出て来ない「別の格差」も実はある。

小飼さんの — 同時に河野氏の — blogに出ている表は、主にキー局のものだ。これが地方局となると、またちょっと事情が変わる。

「電波利用料」なるものは、極論すれば「アンテナの数」に比例する。この「アンテナの数」なのだが、だいたい田舎の局ほど多い。なぜなら、いわゆる「難視聴対策」のために、小さな送信所が大量にあるからだ。これは郵政省(総務省)の政策として「民放であってもNHK並の視聴が出来るように」ということになっていたからだ。東京タワーのようなサービスエリアに1000万世帯はあろうかという「アンテナ」も、私の昔の勤務先にあったようなサービスエリアに数100世帯もないという「アンテナ」も、実は同じだったということだ。だから、地方局ほど電波利用料負担は大きい。

まぁ「電波利用料」なんてのは、ここで槍玉に上げられているくらい微々たるもので、問題は「アンテナ」だ。

地方局だと「アンテナ」は山の上にある。山の上のアンテナの保守というのは大変で、

  • 夏になると草苅り
  • 故障が起きれば修理
  • 自然災害による交通路や送電路の損傷

などへの対応が必要になる。そして、これらは365日24時間必要だ。そして、みなさんわかると思うが、故障発生は「アンテナ」の数だけ増える。

机上で「365日24時間」と見てもあまりびっくりしないと思うが、たとえば山の上にある送信所が冬に故障した場合、文字通りの「冬山登山」をすることになる。私の経験でも、送信所そのものではないが1度それを経験している(そんな部署にいたのはたった2年なんだが)。車で登れるところまで行き、そこから送信所まで歩く。テレビの送信所はいわゆる「山岳」にはなくて、里山に近い山なのだけど、ふもとでは晴れていても山頂付近では積雪2mなんてのがあったのが、山陰の冬の山だ。一歩間違えれば、楽に死ねる。実際、遭難しかけた上司もいたし(つか「遭難しかけて一人前」とか言ってた)、普段5分ほどで歩いて行くところを2時間とかかけて、雪をかき分けかき分け… まー、「ネット引きこもり」には理解出来ない世界だ。

これが都市になるとまるで話は楽になる。車で簡単に行けるからだ。そういった意味では、「山」のない地域がとてもうらやましかった。

テレビってのは「ライフライン」と言う程の意味はないと思う。実際、私はテレビを見なくても平気だ。でも、ライフラインに準じるものだと思っている人は少なくない。だから、保守する側は「仕方ない」と諦められるものでない限りは、ライフラインと同じくらい必死に保守をする。「仕方ない」に属するのは、たとえば「悪天候の離島」みたいな限られたものだろう。

「格差」として辛いのは、こういった「維持」に関するコストは、営業収益の少ない地方局ほど大きいということだ。田舎ほど山あり谷ありで、アンテナも多い。そして、田舎ほど広告収入は少ない。

個人的にはもう「地上波テレビ」というメディアは終わっていると思うのだが(何度も書いてるが、そう思うから辞めたのだ)、それが楽しみだという層は確かに存在していて、そういった人達にとっては「準ライフライン」だったりする。仮にこれからも存在し続けるのであれば、こういった「格差」は是正されて欲しいところ。具体的に何がどうということは考えられないけれど、「悪天候の冬山登山」を業務でしなきゃいけないってのは勘弁だと思う。

東京にしか住んでない人は気楽に「市場経済による自由競争」とか言ってくれるけど、「自由競争」が出来ない世界も確かにあるのだ。

電波利用料の耐えられない別の格差” への2件のコメント

  1. ピンバック: 雑種路線でいこう

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