孫たちに贈る森の科学

森林インストラクタ− 大森 孟            
[2004/10/08 奥日光泉門池で写す。]

===================================================================== 孫たちに贈る森の科学 W           筆者:大森 孟 =====================================================================

森と生きもの  その1

    目次 
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  (1)昆虫が生きていくためには
  (2)いろいろな種類の森
  (3)自然の森では
  (4)人工林の管理
  (5)昆虫を捕えることの是非 
 

(1)昆虫が生きていくためには

  昆虫が生きていくためには、餌になる植物がなくてはなりません。昆虫の中 
 には、昆虫を食べる昆虫もいますが、しかし、食べられてしまう昆虫が、植物
 を食べて生きているのですから、これは間接的に植物を食べて生きていること
 になります。
  昆虫が生きていくために食べる植物は、何でもよいというのではありません。
 それぞれの昆虫が食べる植物は決まっているのです。従って、たくさんの種類
 の昆虫が生息していくためには、たくさんの種類の植物が生育していなければ
 ならないことになります。
  また、同じ植物を食べる昆虫でも種類により違いがあり、葉を食べる、皮を
 食べる、芽を食べる、幹を食べる、根を食べるなど、食べる部位は昆虫によっ
 て様々です。
  では、なぜある昆虫があるきまった植物を食べるのでしょうか。それは私に
 は分らないのです。多分、その生物の長い進化の歴史の中で、その昆虫が知り
 得た最良の食べ物なのではないかと思うまでです。その情報がその昆虫の遺伝
 子の中に記憶されているのだろう、と想像しています。

  (2)いろいろな種類の森

  たくさんの昆虫が生きていくためには、たくさんの種類の植物がなくてはな 
 らないのですが、それは、植物の種類によって、食べる昆虫が違うからです。
 こういうことに気をつけながら、周囲の森や林を観察するとなるほどと理解出
 来ると思います。
  昆虫のたくさんいる環境を望むのであれば、植物の種類をたくさん増やして
 やればよいのですが、全く関係のない遠い地域から植物を移し植えても昆虫は
 殖えません。気候が植物の生育や昆虫の生息と深い関係があるからです。
  では、身の回りで、植物の種類がたくさんあるところはどこか、といいます
 と、何と言っても、それはやはり森だと言うことになります。しかし、森がす
 べて同じ条件でできているとは限りません。他のところで触れたとおり、森に
 も種類がありますし、一つの森の中でさえも、草木の生息に微妙な差異があり
 ます。植物に差異があれば、昆虫や小動物の生息にも、違いが出来てきます。
  森が出来るためには、気候が合っていること、土壌があること、適当な水分
 があること、温度が適当であること或いは地形など、いくつかの条件が必要で
 す。それによって、異なる種類の森が生まれてくるからです。人の手が加わる
 ことによっても、森の種類は変わってくるのです。
  森の種類がかわれば、生息する昆虫の種類も変わってきます。森の植物の種
 類が多ければ多いほど、生息する昆虫などのなどの動物のの種類も多くなりま
 す。

(3)自然の森では

  日本の場合、森の半ばは人の手により仕立てられたもので、残りの部分も多 
 くは人によって定期的に利用されてきました。そのため、自然のままの森は少
 ないということができます。。
  私たちが自然だと考えている森の環境の大半は、長い年月にわたり、人の手
 が加わって出来上がっている場合が多いのです。こういう森を自然と呼んでい
 ることも案外多いのです。
   つまり、森は原生林、二次林、スギ・ヒノキの人工林、コナラ・クヌギの人
 工林、アカマツ人工林、その他の人工林と言う具合に分類出来るですから、そ
 の森により、それぞれ違ったの植生があり、それを食べている生き物の世界が
 出来上がっています。
  ここ50年近く、経済的な理由や賃金の事情などから、本来しなければなら
 ない作業を怠っている人工林も多くあり、荒廃が進んでいる森もたくさんあり
 ます。
  人工林では、管理が的確に行われないまま放置されると、自然の遷移が進み、
 植物の種類が変わってしまいます。そのようなことになると、植物の中に、枯
 死する種類が多く出て、それに依存して生きて来た昆虫などは、生息すること
 が出来なくなり、死滅する事になります。
  (注)遷移(せんい)
    森を放置しておくと、時間が経つに従い、植物の種類が変化して、以
    前からあるものが滅び、特定の植物だけがのこります。このように、
    生息する植物が移り変わることを「遷移」と言います。

(4)人工林の管理 

  もし、人工林の管理が適切の行われているならば、植物の種数が最も多いの 
 は、コナラ・クヌギの人工林の筈です。しかも、短い期間で定期的伐採が行わ
 れてきたので、植生に殆ど変化がありませんでした。これは昆虫の生息にとっ
 てきわめて都合がよいことでした。それがために、伐採期に至るまで、コナラ・
 クヌギ人工林で、昆虫たちは大いに繁殖することができました。
  それゆえ、先祖が長い年月行い、後の世の人に伝えてきたとおりに、コナラ・
 クヌギの森を管理することにより、生物を滅ぼすことなく森を保つことができ
 るのです。これが、もっとも簡単で、最も効率のよいコナラ・クヌギの人工林
 の管理の仕方です。
  これにより、生き物のたくさん生息する(「生物の多様性」といいます。)
 森を保全することが出来ます。コナラ・クヌギの人工林だったところは、元通
 りコナラ・クヌギの人工林として保つこと、二次林だったところは、従来通り、
 定期的に伐採して、利用することが、地球環境問題の考えから見ても大切なこ
 とです。伐採した材の用途としては、さしづめパルプ材として利用するのが最
 適でしょう。
  スギ・ヒノキ人工林では、伐採期に至るまで、「枝打ち」作業と「間伐」作
 業を組み合わせて手入れを繰り返しますが、これも伝来の方法です。この手入
 れが生物の生活できる森林の環境を作り出すことになります。
  したがって、放置してもよいのは原生林の様なところ、あるいは崖などで、
 手の下しようのない様なところだけと言うことになります。

(5)昆虫を捕えることの是非

  今日のように、森の管理がなおざりにされ、生物の生息する環境が貧弱にな 
 って来ると、昆虫は種類も個体数も極端に減ってきています。ちかごろ、絶滅
 危惧種(滅びかけている生物の種類)が増えていることは、森の管理がなおざ
 りにされていることと無関係ではありません。
  上にお話ししてきたとおり、昆虫は食べるものがなくては生きていけません。
 森が荒れて植物の種類がどんどん減ってしまったのでは、生きていくことが大
 変です。滅びるもの、個体数がどんどんへるということになってしまいます。
  こういうときに、「自然に親しむ」と言って、昆虫を捕ったり、あるいは、
 花が美しいからといってそれを掘り採ったり、珍しい草木だから、これを掘る
 ことは、大きな間違いです。これでは、すでに壊れかけている、森の生き物の
 世界をさらに壊すことになります。場合によってはその生き物を絶滅へと追い
 やることになりかねません。
  昆虫採集や植物採取(掘り採り)を趣味で行うことはやめるべきです。こう
 いうことは、研究目的で行う以外はすべきではありません。捕獲や採取をしな
 くても、デジタルカメラを有効利用すれば、自然を痛めつけることなく生物の
 記録を作り、観察することができるからです。

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