孫たちに贈る森の科学

森林インストラクタ− 大森 孟            
[2004/10/08 奥日光泉門池で写す。]


===================================================================== 孫たちに贈る森の科学 U           筆者:大森 孟 =====================================================================

◆ 森のいろいろ


     目次 
    --------                       
    (1)はじめに
    (2)どういうところが「森」なのでしょう?
    (3)森を2つのタイプに分ける
    (4)森の広さ
     (5) おわりに
 (1)はじめに


  みなさんは、森とはどういうところのことなの、林とどうちがうのか、など 
 と考えたことありますか。漢字をみると、木が三つもり上がるようにならんで
 いるのが森の漢字で、木が二つ平らに並んでいるのが林になっています。
  私の子供のころは太平洋戦争のさなかでした。日本軍が東南アジアへ進撃し
 ていたので、ジャングルという深い森(このごろ、熱帯林と言われている)の
 ことやそこに降るスコ−ルという夕立の親分のような雨のことを知らない子供
 はいませんでした。
  そのジャングルを表すのに木を四つ、林を重ねたような字で表しているマン
 ガがありました。なるほどと妙に感心したのを覚えています。
  今日はみなさんに「森」のいろいろなタイプのお話をしようと思います。

   (2)どういうところが「森」なのでしょう?

[人の作った森。カラマツが植えられている。]

  みなさん周囲の人、みなさんのお父さんやお母さん、あるいは学校の先生な 
 どに、「森」ってどういうところですか、と聞いてみてください。たいていの
 方は、「う−ん」とうなって教えてくれないと思います。「木のいっぱいある
 ところ」なんて言われるかもしれません。「じゃ、公園は森なの?木がいっぱ
 いあるから。」とあなたがたが問いつめると、「もっともっといっぱいあると
 ころ」などといわれてしまうでしょう。私だって答えられません。
  大学で森の研究をしている先生方の間でも考えはまちまちなのです。これが
 「森です!」と言う答えがないのです。でも、それでは森の話が進みませんか
 ら、いろいろな人のいうことを寄せ集めて、考えてみることにしました。
  そうしたら、「森」は「丈の高い樹木がある程度以上にたくさん生育してい
 ること、つまり背の高い木がたくさんあること」「面積のうえから、相当な広
 がりを持っていること、つまり、広い面積であること」「そのなかに特別な生
 きものの世界ができていること」だということになりました。
  ほんとうのことをいいますと、「ある程度」ってどのくらい?「相当広い」
 ってどのくらい?「特別な生き物の世界」ってどんな世界?という風になって
 やっぱり、わからないのです。
  言う人により、教えてくれる人により答えがちがうのです。

   (3)森を2つのタイプに分ける

 
  あまり難しいお話はやめにして、森を分けてみましょう。大きく分けると、 
 二つに分けることができます。「自然にできた森」と「人の作った森」です。
 「自然にできた森」のことを「天然林」(てんねんりん:自然林という人もい
 ます。)といい、「人の作った森」のことを「人工林」(じんこうりん)と呼
 びます。
  みなさんが庭を見ていたり、学校園を見ていたりすると、種を蒔いたことが
 ないのに、いろいろな草木が顔を出すことに気がつくでしょう。そのままほっ
 ておくと、どの草もどの木もぐんぐん大きくなってしまいす。
  この種はいったいどこからやってきたのでしょうか。実は、種は風に乗って
 きたり、動物の体に乗ってきたり、雨水に流されてきたり、ころころと転がっ
 てきたり、はじきとばされてきたり、といろいろな仕方で知らぬ間に旅をして
 やってくるのです。
  「自然にできた森」のなかには、こうした種から芽を出した草木、折れたり
 切られた株から出てきた新芽、大きな木の下で長いあいだちじこまっていた草
 木、地面についていた枝から根の出た草木などがあります。それらが競争をし
 ながら大きくなって森をつくっていくのです。人の助けを借りることはありま
 せん。

  では、「人の作った森」の方はどうでしょうか。こちらは、人々が使いたい
 木を、使えるように育てていきます。皆さんの目に触れるような森はたいてい
 「人の作った森」の方です。家を建てるのに使いたいのであれば、スギ、ヒノ
 キ、アカマツなどを育てます。お百姓さんの場合は、こやしの元になる落ち葉
 がほしいので、コナラ、クヌギの森を作っていきます。
  「人の作った森」の場合は、どちらも畑に種を蒔いたり、挿し木をして苗を
 育て、それを山に植え、何十年も手入れをして、それらの木が使えるようにな
 るまで育てるのです。

   (1)「自然にできた森」
[自然にできたミズナラの森]


  もう少し、詳しくお話しましょうか。「自然にできた森」でも、できてから 
 そのまま今も大きくなりつづけている森と途中で、台風にあって木が倒れたり、
 山火事にあって焼けてしまったり、あるいは人が切って利用してしまって、大
 きな木がなくなってしまったそのあとにできあがった森があります。
  先に述べた方の森が「原生林」(げんせいりん)といわれている森です。後
 の方の森が「二次林」といわれている森です。「二次林」が時間がたつにつれ
 て森の様子が変わり、その土地に特有の木々の森となったものが「天然生林」
 です。
  では、「二次林」はどのような森なのでしょうか。「二次林」はさまざまな
 落葉広葉樹(冬になると葉が散ってしまうような木々)の生えている森のこと
 なのです。これらの木々ををまとめて、昔から「雑木」(ぞうき)といってい
 ます。雑木は「いろいろな木」のことですが、冬になると葉が落ちてしまう木
 についていうことばです。

    (2)「人の作った森」
[人が作った森。大きなスギの下に、また、小さな苗が植えられている!]

  では、「人の作った森」はどういうものがるのでしょうか。細かにいうとい 
 ろいろな森があるのですが、面積の上から考えますと、3つぐらいに分ければ
 よいかと思います。
  一つは、家を建てるのに使うスギやヒノキの森で「スギ・ヒノキ人工林」と
 言われている森です。ともに山に苗を植えて、80年から100年の間手入れ
 をして育てます。お父さんが植えた木を孫が伐って使うことになるのでしょう
 か。
  もう一つは、お百姓さんが田圃(たんぼ)や畠に使う堆肥の原料の落ち葉を
 とるための森で、コナラやクヌギを育てている「コナラ・クヌギ人工林」です。
 コナラやクヌギの木は炭の原料や薪としても優れていたので、昔の人は大事に
 育ててきました。
  最後に「その他の人工林」として、エゾマツ・トドマツの森、アカマツの森
 などがあります。アオモリヒバの森もあるでしょう。
  「スギ・ヒノキ人工林」、「コナラ・クヌギ人工林」やアカマツの森につい
 ては、あとで、細かなお話をしなくてはいけないので、今日はここまででやめ
 ておきましょう。

   (4)森の広さ


  それでは森の広さについて考えてみましょう。
 森の広さ(面積)を表す単位は「ヘクタ−ル」です。略して「ha」と書きます。
 算数の教科書に出ていますね。1ヘクタ−ルは1万平方メ−トルのことで、み
 なさんの学校の敷地の広さと同じぐらいでしょうか。
  ところで、日本の国の広さはどのぐらいなのかわかりますか。はい、約35
 00万ヘクタ−ルです。その中で、森の広さは約2500万ヘクタ−ルだとい
 われています。その内41%ぐらいが「人の作った森」すなわち人工林です。
 国の役所である林野庁が出した、平成11年の「林業白書」という本によりま
 すと、「人の作った森」の面積は1040万ヘクタ−ルとでています。多分、
 この面積には「コナラやクヌギ人工林」は入れられておらず、これは天然林と
 されていると思います。
  理由は大学の先生方が、森を分けるときに、人の作った「コナラやクヌギ人
 工林」も先に「二次林」と呼んだ森も一緒にして「二次林」と呼んでいるから
 です。こうすると、「コナラやクヌギ人工林」も天然林に入れるしか仕方がな
 くなってしまいます。このわけ方が間違っているのです。
  実際に、日本中の「コナラやクヌギ人工林」の面積がどのくらいあるのか、
 私には分かりません。

   (5)おわりに


  ちょっとむずかしかったかもしれませんね。でも、森のことを分かってくれ 
 たでしょうか。自然にできた森と人の作った森があることが分かれば、それで
 大成功です。では、またね!

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