孫たちに贈る森の科学

森林インストラクタ− 大森 孟            
[2004/10/08 奥日光泉門池で写す。]


===================================================================== 孫たちに贈る森の科学 T           筆者:大森 孟 =====================================================================

◆ 草木が育つには


   目次 
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  (1)草木のご馳走
  (2)草木のご飯
  (3)ご飯はどこでつくられるの?
  (4)「おかず」のありか
  (5)土の中の生き物
  (6)養分はどのようにして作られるの?
   (7) おわりに
 (1)草木のご馳走


  「草木のご馳走」ってなんだろうな?などと考えたことがあるでしょうか。 
 「えっ、ない?」、それはそうです。そんなことを考えるのは変人の私ぐらい
 なものでしょう。普通は考えません。

  ところが、草木のご馳走もあるのです。それは、お百姓さんが野菜ものや稲
 をつくるときに、「こやし」(肥料)をつかっているのをご存知でしょう。さ
 しずめ、あれが草木のご馳走と言えるでしょうか。。
  でも、ほんとうのご馳走は、別にあります。ドライアイスをご存じですか。
 あの、アイスクリ−ムなどを持ち歩くときに、買ったお店で箱に入れてくれる
 白い氷のような塊(かたまり)があるでしょう! あれがドライアイスです。
 ドライアイスを日本語に直すと、「乾いた氷」となります。
  あれは、氷のように水からできているのではないから、湿ってはいません。
 ドライアイスは二酸化炭素から作ります。その二酸化炭素が草木の主食、つ
 まり「ご馳走」なのです。これが、みなさんの食べる「ご飯」にあたります。
 そうして、「こやし」は、「おかず」ということになるでしょう。
  お百姓さんは急いで野菜を育てたり、たくさん実の付いた稲を育てたいので、
 「おかず」にあたる「こやし」を田や畑に撒くのですが、野山の草木は、自然
 にできる「おかず」で我慢をしています。
 (2)草木のご飯


  草木はどういう具合にご馳走をたべるのでしょうか?
 実は草木には口が二つあるのです。葉と根です。みなさん、山姥のお話を聞い 
 たことがあるでしょう。あの山姥は耳まで裂ける大きな口と、頭の髪の毛のな
 かにも隠された大きな口があるというお話です。草木とそっくりでしょう。
  草木は主食にあたる二酸化炭素を、葉の裏にある「気孔」(きこう)という
 私たちの目には見えない小さな穴から取りこみます。草木はおかずの「こやし」
 を細い根の先から、水分と一緒に吸い上げるのです。吸い上げられた「こやし」
 は葉に送られます。そこで二酸化炭素と一緒に「消化」(光合成といいます)
 されて、草木の体をつくる炭水化物(有機物。糖類)というものに変わります。
 このとき、太陽の光の力を借りるのです。
 (注)むかしの人は、太陽などとは言わず、「お日さま」と言いました。
 
  だから、葉は私たちの体の胃や腸と似たような働きをしていることになりま
 す。うして、葉でつくられた炭水化物(糖類:光合成産物)は、枝や幹を通っ
 て、葉や根の先々まで送られ、草木の成長のもとになっているのです。この性
 質を上手に使っていけば、私たちが家を建てたり、大きな機械を「荷づくり」
 (梱包といいます)したりするときに使う木材を、使いやすいように育てるこ
 とができるのです。
  実際に林業を仕事としている人々は、この性質を知りつくした上で、よい木
 材を生産してきました。例えば西川材(にしかわざい)の産地の人々は、よい
 木材を育てて、それを川の流れを利用して江戸(東京)へ送ってくらしを立て
 てきました。
 (3)ご飯はどこでつくられるの?


 では、草木のご馳走である、二酸化炭素はどこにあるのでしょうか? 
 それは、みなさんの身の回りにあります。しかし、目に見えない気体なので、 
 肉眼では見つかりません。マッチ、ろうそくとコップがあれば、二酸化炭素が
 あることを確めることができます。理科の実験で確かめたことのある方もいる
 かもしれません。
  実は、みなさんの吐(は)く息の中にあるのです。生き物は草木でも、動物
 でも呼吸をしています。そのとき、空気中から酸素を取り入れ、二酸化炭素を
 吐き出すのです。そのため、吐く息の中には二酸化炭素が入っているのです。
  大気の中にも360ppm(これは、ほんのちょっとの量です)ほどの二酸化炭素
 がありますし、動物や植物の呼吸によっては吐き出されだけではなく、ものが
 腐っていくときに吐き出され、火を焚くとそこから生まれてきますし、また、
 自動車を走らせても、火力発電をしても(水力発電では出ませんが)、工場で
 ボイラ−を焚いても吐き出されるのです。
  田畑で使った「こやし」が分解するときにも二酸化炭素は生まれてきます。
 (4)「おかず」のありか


  それでは、田畑における「こやし」に当たる、自然の中の草木の「おかず」 
 は、どのようなところにあるのでしょうか。実は、これも目に見えないので、
 「ほら、これが草木のおかずですよ」とお見せすることはできません。ですか
 ら、おかずのありかをここです、と指さしても、みなさんに「嘘でしょう。」
 といわれそうです。
  このごろ、あちらでも、こちらでも土を掘り返しては、下水を作ったり、水
 道を引いたり、建物の基礎を作ったり、川岸をきりくずしたり、さまざまな工
 事が進められています。大昔の住まいの跡を掘り返して、調べていることもあ
 ります。
  そのようなところや山道の土がむき出しになっているところなどで、注意し
 て土を観察してみると、土が折り重なったように色分けされていることに気づ
 かれるでしょう。難しい言葉で「層」(そう)といいます。
  その層の一番上、つまり、表面の層はたいてい黒い色か黒みを帯びた色をし
 ています。この黒い色の土の中に、草木のご馳走がたくさん入っているのです。
 このご馳走を「ミネラル」と呼んでいます。どのようなものかといいますと、
 それは窒素、リン、カリウム、カルシウムなどです。 
  これらのものが草木の体を作るとき大切な役割をするのです。これらをまと
 めて「養分」と呼んでいます。この養分は、水と一緒に根から吸い上げられて、
 高いところにある葉まで送られていくのです。
 (5)土の中の生き物

 
  土の中にはいろいろな生き物が住んでいます。みなさんと同じように栄養を 
 とり、水をのみ、呼吸をして生きているのです。土の中に野ネズミやモグラの
 いることは知っていることと思います。ミミズやケラも住んでいます。ヤツデ
 やトビムシも住んでいます。アリの仲間(なかま)もいますし、セミなどの昆
 虫の幼虫もいます。これらの生き物は体が大きいので私たちの目で見ることが
 できます。
  ところがミジンコなどになるともう私たちの目では見ることができないので
 す。こういう小さな生き物はどのくらいいるのか、どんな生活をしているのか
 あまりはっきりとはわかってはいません。1gの土の中には地球の人口と同じ
 ぐらいの数の微生物がいるというのです。なお地球の人口は60億人(にん)
 になったばかりです。
  微生物には、藻の仲間、原生動物の仲間、ウイルスの仲間、菌類(カビやき
 のこのなかま)、それに細菌の仲間などがあります。このなかのきのこの仲間
 などが草木の求める栄養分をつくる働きをしているのです。
 (6)養分はどのようにして作られるのでしょうか。


  では、草木の「おかず」にあたる養分は、どのようにして作られるのでしょ 
 うか。
  養分のできる道筋は二つあります。ひとつは風化という自然のからくりで、
 もうひとつは目には見えない生き物である微生物の働きです。山道を歩いてい
 ると岩にひびが入り、細かにくだけているのに出あいます。ときには、岩が溶
 け出して「つらら」のように垂れ下がっていることもあります。このようなこ
 とを「風化」というのです。この風化によって砕けたりとけしたものの中から、
 草木の成長に必要な養分が生まれてきます。
  また、生きている動物はやがて死んでしまいますし、草木は同じように枯れ
 て倒れていきます。その遺骸は地上に横たわるので、土の中の生物の恰好な餌
 になります。それぞれの生き物が生きていくのに必要な部分をたべたり、とか
 したり、吸収したりします。そうして、いつのまにか影も形もなくなってしま
 います。
  食べられたり、吸収されたものは、それぞれの生き物の体を作り、活動のた
 めのエネルギ−となり、いらないものが土の中へ捨てられていきます。この捨
 てられたものの中に草木の成長になくてはならない栄養分、つまりミネラルが
 あるのです。この微生物の働きのことを普通「分解」といっています。
  大気は全体のほぼ5分の4が窒素で、ほぼ5分の1が酸素です。この窒素を
 土のなかへ引きこむ働きをしている微生物もおります。この微生物が草木が育
 つために必要な窒素を土の中へ送りこんでいるのです。このような大切な働き
 をしている微生物が、土の中には限りもなくいるのです。人の病気に効くお薬
 になっている生き物もいます。
(7)おわりに


  草木はご馳走だけでは育ちません。草木が育つためには、いくつかの条件が 
 いるのです。
  (1) 水があること
  (2) 温度と湿度(しめり気)がちょうどよい具合なこと
  (3) その草木にあった土があること
  (4) 太陽(お日様)の光があたること
 などです。
  これに、ご馳走のあることが大切です。つまり、
  (5) 養分があること
 ということになります。           (00/02/20、06/11/28補足)

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