削除依頼を無視する理由

今でこそ少なくなったが、私の主斎するネットワーク利用技術研究会のサイトは「管理」が甘いこともあって、アングラなサイトがあることが多く、削除依頼のメールがよく来ていた。私は原則的に削除依頼の類は無視することにしていた。そういったこともあるので、

違法情報の削除依頼を無視するプロバイダーの言い分とは

の言い分はよくわかる。

フィッシングサイトが置かれた(原因はアカウントをクラックされたユーザがいたことらしい)ところがあるとかというような、客観的に明白な違法性のあるものは、可及すみやかに削除するようにしていたのだが、そうでないものは原則放置していた。なぜなら、

削除には勇気と決断がいる

からだ。

ある人にとっての有害情報が、別の人にとってそうであるとは限らない。単純な「誹謗中傷」に見えるものも、実は「事実の暴露を含んだ告発」の類なのかも知れない。ところが、当事者でもなければ裁判所でもない私は、それを判断する手掛りを持たない。判断材料がないところに一方の論理で削除するというのは、言論の自由を脅かす行為だ。

「じゃあ被害者の人権はどうなる」という話がすぐ出て来るのだが、これは別の問題だ。そもそも「被害者」であるかどうかということすら、私が認定するべきことじゃない。「自称被害者」の心情は理解するし伝わって来るのであるが、それが客観的にどうであるかはわからないのだ。

誰でも自分の都合の悪いことをネットに書かれるのは不愉快だろう。しかし、その「不愉快」は自分の実際に行った悪行が暴露されても同じだ。もちろん身に覚えのないことを書かれても同じだ。だから、「不愉快な情報を書かれた」という一方の主張だけを聞くことは出来ない。「告発サイト」の類をどうするか、あるいは「有害情報への警告」をどうするか、私では判断出来ないことは少なくない。実際、ワンクリの告発サイトがあった時にワンクリ詐欺の会社から、「うちはワンクリ詐欺なんかやってないから消せ」という電話がかかって来たことがある。私の目にはどう見てもワンクリなんだが。

そうなると、「裁判所からの命令書」でも持って来てもらわないことには、実行出来ない。「どっちの言い分が正しいか」なんて判断は、私には出来ないから、「言い分」だけだとスルーするしかないのだ。

そんなわけで、明白な法令違反でもない限り、削除依頼は無視するしかない。ホイホイ聞いていたら面倒臭いということもあるが、本来私が判断するべきことじゃないことまで判断することになってしまい、

過剰に責任が発生する

ということになってしまう。消した結果「なぜ消したんだ」と文句を言われた時に、矢表には立ちたくない。そもそも立つべき立場じゃなかったんだから。

削除依頼をした人が、その責任を負う覚悟が出来ているならまだしも、削除依頼のほとんどは「気に入らないから消せ」以上のものじゃない。それどころか「削除依頼メール」が返信出来ないアドレスだったり、本人との紐付けがないフリーメールのアドレスだったりがほとんどなのだ(たまに内容証明で来ることがあるけど)。アカウントを発行する時には、過剰なくらい個人情報を得ていて「最悪の事態」に備えているのだが、「削除依頼人」のほとんどは

どこの馬の骨ともわからない人

なのだ。「本人」であるかすらわからない。

となると、「現実的な運用」として「削除依頼は無視」とならざるをえない。まぁ私はひろゆき程の骨はないから、「しかるべき機関」を通しての依頼であれば消すのだが、そうでなければ無視だ。

そういった経験で言えば、「削除依頼を無視するプロバイダ」が悪いとかそんな問題ではなくて、

削除依頼をするための公平かつ正当で簡便な手続き

が存在していないということが問題なのだ。この辺がうまく機能していれば、削除依頼したい人は「どこに文句を言えばいいんだ」ということで悩まないでも済むし、削除する人は「本当に削除して良いのか」ということで悩まないですむ。

プロバイダを責めることよりも、そういった制度がないことを問題視する方が、ずっと建設的だ。