私は時々出張で新幹線に乗る。これは今に始まったことではなく、私がコンピュータ業界で働いているかなりの時間が、出張生活だった。古くは松江から名古屋に、その後は神戸、広島と、もうまるで
通勤
しているかのように、出張したものである。その度にお世話になるのは、新幹線なのである。
多くの場合、開発の出張なので、出掛けるのは朝である。いかに松江岡山間が在来線であるとは言え、新幹線に乗るのは、やはり午前中である。そうすると、他のサラリーマン達の主張に出くわすのである。
そんな時に思うのは、
車内が暗い
ことである。別に暗そうな人が多いとか、そういうわけではない。新幹線の中の色彩が暗いのである。
最初はよくわからなかったのであるが、よく見ると、このサラリーマン達の服はたいていが、
グレーか紺
のスーツなのだ。そうまるで制服のごとく同じ雰囲気。この色彩が、車両の暗さを感じさせる元なのである。
多くの場合、スーツの色はこの手のグレーか紺が良いように言われている。これ以外の色を着るのは、かなりおしゃれが出来る人か、チャレンジャーである。さもなくば、
ただの馬鹿
だろう。日本という社会の中でスーツと言うのは、グレーか紺以外はあまり歓迎されないものなのだ。
確かにそれは、
個々人なら問題ない
と思う。やはり失礼のないのが良い。自分のファッションセンスに自信がなければ、無難にしておく方がいいだろう。しかし、あそこまで揃っていると、
不気味
でさえある。この光景は、何も新幹線でなくても、オフィス街とかになるとよく見うけられる。
ところで、私は今は渋谷に住んでいる。道玄坂の上のラブホ街の中に私の部屋はある。ハチ公前までゆっくり歩いて10分くらい。センター街まで5分くらいか。そんなわけで、普段の生活圏は渋谷である。以前は原宿に住んでいたので、原宿の方が便利な買い物のときは、原宿に行く(別に服を買うわけではない)。まぁそんなわけで、
いかにも若者
なところが生活圏である。食事も買い物も、それ以外のことも、たいていは渋谷周辺で済んでしまうので、それ以外のところに出掛けることは、滅多にない。
ところが、私の会社は秋葉方面にある。正確に言えば、JR秋葉原駅とJR御徒町のちょうど間のあたりで、地番としては上野3丁目なのだが、簡単に言えば銀座線末広町駅の近くだから、「末広町」とでも言っておけば良いか。まぁそんなところである。ここは、古くから問屋のような店の並ぶ下町地域であり、渋谷のような新興の地域とは趣が随分と違う。物価もかなり安く、生活するにはとても良いところである。秋葉が近いのも、なかなか魅力的である。
しかし、会社の近くには、あまり住みたいとは思わないのである。
なぜなら、冒頭に言った
朝の新幹線の暗さ
がそのまま街になっている。そんな場所だからである。
夜の渋谷原宿の飲み屋は、着ている服も、髪の毛も、色とりどりで雰囲気が明るい。怪しげな雰囲気がある場所であっても、曇りの日のような憂鬱さはあまりない。ところが、会社の近くの飲み屋は、着ている服も髪の毛の色も画一的である。それはオヤジ達ばかりか、女性達、それも若いとおぼしき女性も、同じ雰囲気である。確かに楽しげに談笑をしているグループはあるが、それでもやはり曇りの日のような憂鬱さがつきまとう。どうもあの空気が嫌なのである。
そんなわけなので、どうも会社の近くのエリアには、そういった「人集まるところとしての街」の魅力に欠けるのである。それでなくても、部屋にこもる暗い仕事をしている我々なのだから、せめて近所に出掛けた時くらいは、明るく華やかでポジティブなものを見たいと思うのだ。
とても不思議なのは、渋谷原宿に出掛けている、色とりどりの若者達は、就職したらどうなるのだろうということだ。やはり、オヤジ達と同じようになってしまうのだろうか。