外国人に声をかけてみる

コロナ以後、自宅で自炊することがなくなった。

もちろんこの御時世なので、外食することもない。テイクアウトにも限りがあるので、基本的に昼夜は「会社で自炊」である。みんな近所なので、会社で飯を食って帰れば、感染の危険もない。

とは言え、さすがに休日はそういうわけにも行かないので、テイクアウトを使う。

当初、テイクアウトは「かつや」が主であった。

別に「かつや」が好きで好きでたまらないというわけでもないのだが、いつでもテイクアウト可能であるし、そんなに高くもない。割引券を使えばカツ丼が500円程度なので、大変リーズナブルである。割とおいしいしね。

日曜日は教会の後に会社に行って、自分の好きなことをしている。誰もいないところでやる開放感は良い。それは良いのだが、それゆえどうしても遅くなる。

いつの頃からか「かつや」は深夜営業をやめてしまった。何回目かの緊急事態宣言からだろうと思うがよく覚えていない。それに伴い、テイクアウトも早めに終わってしまうので、日曜日の夜の飯の時には閉まっている。多分22時くらいまでなのだろう。ギリギリアウトくらいのタイミングになってしまっているようだ。

その時間帯に空いていてテイクアウトとなると非常に限られる。ましてやそこで品質を求めると至難と言っても良い。都心繁華街近くでこれである。郊外とかどうなるんだろう。

幸い、「かつや」の近くに「すた丼」が遅くまでテイクアウトしているのを発見した。ここはもうちょっと遅くまでやっている。多分0時くらいだろうか。

「すた丼」は深夜に食うには量が多いし割高だなと思っていたのだが、そこは「ミニすた丼」があるのでこれを買うことで問題解決した。値段も「かつや」のカツ丼と大差ない(100円違わない)。それにしてもあの「ミニすた丼」、飯の量は「吉野家」の並よりも多い気がするんだが、どこが「ミニ」だよ。

深夜に行くと、主に中国人がバイトしている。いかにも中華っぽい若者(この辺にはいっぱいいる)が注文を受けてくれる。夜は店内に客がいないことをいいことに、中華な音楽かけていたりして、それも悪くない。個人的にそーゆーフリーダムさは好きだ。

ここでいつもチケットを受け取ってくれる女の子がいる。可愛い眼鏡っ娘なのであるが、あまり店員がどうこうってことに興味ないし、対応も塩っぽいので「ああ、いるな」くらいに思っていた。それでもほぼ毎週のように行くので、「いつもいるんだな」ということは把握していた。実のところ、こういった店に毎週ほぼ決まった時間に行く上に対応する店員も同じというのは、いろいろ微妙な気もするんだが。

そう言えば、今時日本でバイトしている中国人って何者なんだろう。昔なら「偽装留学の出稼ぎ」とか思っていたのだが、今の彼我の違いを思えば、何も出稼ぎに日本に来ることはあるまい。気がつけば「日本に出稼ぎ」が意味のあるアジアの国って、ベトナムとかあっちの方くらいになったような気がする。正しく勉強するにしても、別に日本である必要性はないし、英語圏の方がいろいろ楽で得だと思うんだが、彼等は何者なんだろう。

というのは良いとして、その娘がしばらくいなかった。

例によって店員にそれ程興味はないので、「ああ、どこかに行ったんだな」くらいに思っていた。毎週の楽しみは減ったのだが、それ以上でもない。「かつや」に至っては毎週違ったりしてたくらいだし。

とか思っていたら、1ヶ月くらいいなくなってた後に、また店にいるようになった。

そこでチケットを渡す時に、思わず

「ああ、元気だったのね」

と言ってしまったのである。

まぁそれは本当に正直な感想であるしそれ以上でもそれ以下でもないのが、彼女は一瞬びっくりした表情をした後に、やたらに愛想が良くなった。

以前の「塩っぽい対応」ではなくて、行くだけで気がついて愛想してくれる。以後毎週のようにニコニコしてくれるのである。

おそらく、自分のことを認識してちょっとでも気にかけてくれた人がいるという事実が、多分すごく嬉しかったんだろうと思う。

私も何度か引っ越しをして来たけれど、その土地の人と何となくコミュニケートした瞬間に、何やら嬉しくなった経験がある。おそらく彼女もそうだったんじゃないかと思う。「客」ではなく「人」と関わることは、幸せなことなのだ。

思い起こせば、「ハナマサ」の店員でもそうであった。これも中華眼鏡っ娘(背が高い)であるが、最初はレジ袋に入れる時に何でも「縦」に入れていたので「縦に入れる中国人」と認識していて陰でそう呼んでいた。肉とかそれやられると、いろいろ困るんだが。

そのうち、「レジ袋に入れる」ということをする店員はそれ程多くないことに気がついて、さらにどうやら気に入った客(基準は何だ?)にだけやってることを発見したので、受け取る時に

「ありがとう」

とか

「お疲れ様」

とか声かけることにした。

そうしたら大変である。なんだか知らないが妙にこちらを把握してくれていて、街で出会った時には手を振ってくれるようになった。「街で出会う」と言ってもすれ違うとかじゃなくて、

車道のあっちとこっち

でそれをやるのだ。お前はいつから俺の彼女になったんだよと言いたいくらい派手に手を振る。それこそ恋人の類にすらされたことがないので、ちょっと恥ずかしい。でも悪い気はしない。それ以上のことは何もないし立ち話すらしたことないんだけど。

他にも「セブンイレブン」でバイトしていた中華眼鏡っ娘(アス比に問題がある)が他の中華料理屋でバイトしてるのに出くわして「ここでもバイトしてるのねー」と言ったらいろいろ身の上話をしてくれたこともあった。

それにしても、彼女達はなんで「私」を個体認識しているんだ? 大勢いる客の1人、それも右から左に処理する類のお店ばかりだぞ。

日本人相手でこれをやると、しばしば「キモい」とか言われたりもするのだが、外国人の場合はほぼ無条件で喜んでくれる。おそらくは、「孤独感」みたいなものからちょっとだけでも解放されるからなのだろうと思う。

なので、街で働いている外国人で同じ人に何度か接客されたら、何か声をかけてみると良いんじゃないかと思う。別にそれで何かが起きるわけではないと思うが、お互いに悪い気はしないはずだ。別に元手がかかるわけでもなく、たったこれだけでお互いいい気持ちになれるのであれば良いことではないか。

まぁ、こういったことは人それぞれで、嫌がる人もいるだろうけど、それは反応を見て次回どうするか考えればよろしい。どっちにしたって、そんなに長い付き合いでもないし、そもそも付き合いですらない。