教会のイベントで「バケツプリン」を所望されたので作った。
型抜きに失敗して「バベルの塔」みたいな感じになってしまった。現物を見ると、本当にブリューゲルの絵みたいな感じである。
まぁ、失敗したとは言えレシピに間違いがあるわけではない。
型の決定
まず、このようなものを作る時に、最初に問題になるのは「型」である。
「バケツプリン」と言われるからには、それっぽいものが必要になる。本物のバケツを使うという手もあるのだが、衛生上の問題やら形やらサイズやらに難のあるものが多いので、それっぽい別のものが必要になる。
条件としては、
- 底が平面でなければならない
型抜きのプリンらしくあるためには、カラメルのある部分は平らである必要がある。それゆえ、型の底は平面である必要がある - 鍋に入らねばならない
カスタートプリンであるからには、鍋で加熱する必要がある。そのために、鍋に入る必要がある - 出来る限り大きくなければならない
言うまでもなく、「バケツプリン」に求められるものはサイズだ。雑貨屋で卓上インテリアとして売られているような「バケツ」では意味がない
というあたりだ。
おそらく合羽橋あたりに行けばそれっぽい容器もあると思うのだが、どうせ業務で作るものでもないので、何か適当なもので代用することを考える。
とりあえず「無印」に行くと、
このようなアルミのゴミ箱を売っていた。直径22cm、高さ25cmということで、なかなかにいい感じである。値段も990円とそう高くもない。
買って帰ると、思ったよりも高さがあることに気がついた。これでは鍋に入らないのであるが、アルミということなので、切ってしまうことにした。鍋に入るいい感じの高さ(約20cm)になるように切断する。当然切断面はバリを取り綺麗にしておく。アルミは薄い(1mmくらい)ので、切るのは容易だ。
切断後に容量を計測すると、ちょうど6Lになった。1人200ccづつとして、30人分。まぁそんなに食う人も少ないので、うちの教会なら問題なかろう。
型が出来てしまえば、半分くらいは出来たようなものである。
カラメル工程
さて、まずはカラメルを作る。
カラメルは要するに「砂糖を焦して水を加えたもの」である。と書いてしまえば簡単なのであるが、この「砂糖を焦がす」加減が難しい。結局、数値でどうこうすることは事実上不可能であるので、「見た目」で判断するしかない。
まずは、砂糖。今回はグラニュー糖を使ったが、それはそこにあったからだ。砂糖は腐るものではないが、湿気ると厄介なので、一度開封したものはとっとと使うべきである。うちではそもそも砂糖はほとんど使わないので、製菓とかで一度買うと100年でも持ちそうであるので、こーゆー時に積極的に使って行く。わざわざ買う人は、まぁ何だっていい。精白糖が安くて良い。黒糖だと風味が違って良いとも思うが、その辺は好みだ。
今回は大きさもあるので、砂糖は200g弱を使う。実際にはこれではちょっと少ない感じだったので、もうちょっとあった方が良いかも知れない。
砂糖を鍋に入れて熱すると、しばらくすると溶けて来る。そのうち泡を出して焦げ始める。もちろん焦げつかせてしまうと意味がないので、そこまでにはしない。この加減を「見た目」で判断するわけなのだが、まぁお好みの色になるまで加熱する。焦がし過ぎると苦かったり渋かったりする。ちょっとしか焦がしてなくても、結局苦かったり渋かったりして「茶色の飴」になったりはしないので、あまり難しく考えてもしょうがないかも知れない。売ってるプリンのカラメルくらいの色を目標にしても良いかも知れない。
ここに水をちょっと入れる。「ちょっと」ってどれくらいだよという話があるのだが、これもまた見当としか言いようがない。今回の量だと50gくらいで良い感じであった。この辺、焦がし加減とも密接な関係があると思う。50gの水は多そうに感じたのだが、入れると一気に沸騰するし、混ぜているうちにも蒸発して行くので、そんなにビビる程ではない。なお、水を入れてしまうと、水がなくなるまでは焦げが進まなくなる。
水を入れてさらに加熱していると、溶けて飴みたいになる。これで完成だ。
このカラメルを熱いうちに型に入れる(冷めると固まる)。型には当然ながら型抜きを容易にするための油脂(バター)を塗っておく。そこに熱いカラメルを入れて、平らな場所に置いておく。常識的な量のカラメルであれば、作ったプリンの上にカラメルの層が出来たりはしない。あくまでも、カラメルのある部分がカラメル色になるだけである。つまり、蒸したりしているうちに溶けてしまう。そして、余分なカラメルは苦味のあるシロップになる。
これでカラメルの工程は終わりである。
玉子
次は玉子の準備をする。
今回使った玉子は、ハナマサの「ジャンボ玉子」で、1つが70g弱の大玉である。別に大玉である必要性はそれ程ないが、大玉だと割る玉子が少なくて済む。
また、今回は全卵、つまり玉子を全部使う。
通常のレシピだと、4:1くらいの割合で、黄身:全卵という比率にするのであるが、白身の処理も面倒だしバケツプリンということで強度を確保したいということもあって、全卵を使った。もちろん黄身多めの方が美味しいとは思うが、全卵でダメということもない。むしろ、しつこくなくて良いと思った。教会は高齢者もそこそこいるので、全卵の方が食べやすかろう。
40個くらい使うと、3Lになる。これを10個くらいづつに分けて溶く。「10個づつ」とかに特に意味はないのだが、全部一度にするにはご家庭のボウルでは不可能だろうし、仮に出来たところでハンドリングが面倒なだけなのでお勧めしない。
文献によればここで「空気を含ませるな」ということなのであるが、あまり気にしてもしょうがないし、含んだ空気も他の工程をやっているうちに泡となって出て行く。なので、特に気にすることもない。
また、「溶いた玉子は漉せ」ということも書いてある。これは白身と黄身をいい感じに混ぜるためには必要なことなので、ぜひ実施して欲しい。文献には「漉し器」などという面倒臭いことが書いてあるのだが、「茶漉し」で十分である。この時に泡も除けるし、カラザとかも除けてなめらかな玉子液が出来る。
余計なことだが、茶漉しは便利な器具なので、百均あたりで安くいくつも調達しておくと便利だ。茶を漉すという本来の使い方の他に、ここで述べているような材料を濾過すること、また揚げものの時の油を濾過するとか、実に用途が広い。
これを次の工程までボウルに入れてよけておく。冷蔵する必要はない。
牛乳
牛乳は温めるだけである。ここに特に技術要素はない。3Lほどの牛乳を鍋に入れる。これでわかるように、玉子と牛乳の比率は1:1である。
玉子と牛乳の比率には、特に原則はない。玉子が多いと硬めのが出来るというだけである。少な目だと柔らかになるし、「鬆」が入りにくい。1:5くらいでも固まることは固まるらしい。やったことないけど。で、これが多分限界らしいので、それ以上玉子を減らしても意味がない。今回は強度が必要であるので、1:1にした。
この時、砂糖も一緒に入れて溶かしておく。砂糖の分量は、「全体量の1割」くらいである。この量にも特に原則はなく、多いと甘いだけである。失敗を恐れるむきには、
砂糖は少なめ
の方が間違いがない。なぜなら、甘さが不足したら、何かソースで補えばいいだけであるからだ。
ちなみに、試作の時は砂糖は使わずに、代わりに醤油や出汁を入れた。スイーツの試作で甘いものを食い続けるのは辛いからである。醤油とかなら、飯のおかずとして消費出来る。
鍋に分量の牛乳と砂糖を投じて、70度程度に温める。
プリンの作り方を見ていると、ここのところが「沸騰直前」だの「泡がふつふつ」だのとゆー、ふわっとした書き方がしてあるのだが、ここでは明確に「70度」として
「推測するな計測せよ」
を断行する。
そもそも、何のために温めるかと言えば、プリンの原液の温度を上げるためである。では何のために温度を上げるかと言えば、この後の工程の加熱を容易にするためである。だから、冷たい牛乳を使ってもダメということはない。作って作れないことはない。ただし、そうすると加熱時間が長くなったり加熱温度が上がることになって、「鬆」が入ってしまうリスクが上がる。プリンの加熱の原則は、
低温短時間
である。玉子が凝固する限界付近の低温で、なるべく短い時間加熱する。これが「鬆」が入らないための鉄則と言っても良い。
ここで何度も何度も「鬆」と言っているが、「鬆」はプリンの大敵である。
鬆を入れたら負け
と言ってもいい。とにかくいかにして鬆を入れないかが勝負なのだ。
ただ、「鬆」と言っても、「悪い鬆」と「悪くない鬆」がある。「悪い鬆」とは、加熱しすぎて玉子が凝固しすぎて牛乳と玉子が分離した結果で入る鬆である。これは食感を悪くするので、出さない努力をするべきである。「悪くない鬆」とは、単なる気泡である。これはプリン液が噛んでいた気泡(「空気を含ませるな」という奴だ)とか、プリン液の温度が上がった結果、溶けていた気体が気泡になったとか、そういったものだ。これはまぁ出来ても見てくれ以外に害はないので、そこまで神経質にならなくとも良い。とは言え、「悪くない鬆」でも入るとみっともないし、一見どっちかわからないので、作らないに越したことはない。「良い鬆」とは、出来なかった鬆のことである。
そんなわけで、牛乳は温めねばならない。
他方、牛乳を熱々にしてはならない。なぜなら、プリン液は牛乳と玉子液を混ぜることによって作られる。牛乳の温度が玉子の凝固温度を超えていた場合、完全に混ざる前に凝固したり、型に入れる前に凝固したりしてしまう。この凝固は悪い凝固で、プリンの食感を損ねる。そうならぬように、
玉子が凝固しない限界の温度
にする必要がある。牛乳の温度は高い程良いが、玉子が凝固してはいけないのである。そこで
70度
なのだ。
まぁ実際のところ玉子は70度だと凝固が始まってしまうのであるが、混ぜたらすぐに温度が下がるし、もたもたしてる間にも温度が下がるので、これくらいを目標にして温めれば良い。そうこうしているうちに、砂糖も溶けてしまう。
プリン液を作る
次に玉子液と牛乳を混ぜてプリン液を作る。
ここは特別難しくもなく、技術要素も特にない。玉子液に牛乳を入れながら混ぜるだけである。逆をやると玉子が固まり始めてしまうのでダメである。
玉子液を漉すのを手抜きしてなければ、割と簡単に混ざってしまう。これで、プリン液は完成である。あとはこれを加熱すればプリンだ。
投入
次にプリン液を型に入れる。
ここに1工程書いてあるのは、それなりに理由があるからである。
ここでやることは、単に型にプリン液を入れるということだけである。注意するべきは、
カラメル層を破壊しない
ことだ。
カラメルは水の量にもよるが、案外に溶けやすい。水飴状になってはいるが、元は砂糖である。水分があれば簡単に溶ける。なので、「ボウルからいきなりだーーっ」という感じでやると、カラメル層に穴があく。そうならないように、お玉でプリン液を
そっと置く
ように入れて行く。これは小さい型で作るプリンにはない留意点である。
加熱する
実のところ、これが一番厄介で時間がかかる工程である。技術要素も多い。
プリンの加熱の方法は、大雑把に
- 蒸す
- 茹でる
- 蒸し焼きにする
という3種類がある。いずれの方法でも出来るのであるが、今回は
茹でる
方法を使った。
「バケツ」はオーブンには入らないので蒸し焼きは不可能であるし、蒸すのは温度管理が難しく、大きなプリンを作る時にはやりにくい。100度程度の蒸気で加熱することになるので、加熱温度がちょっと高くて鬆が入りやすい(これは「悪い鬆」になりかねない)。茹でるのは、温度を監視することも容易だし、熱媒体が水という極めて効率の良いものが使えるので、加熱温度を低めにすることが可能だ。バケツプリンの場合は茹でる一択と言ってもいい。
プリンを凝固させるには、75度程度の温度が必要である。となると、茹でる時の湯の温度も、それ以上でなければならない。ところが、あまり高温になると、プリン液が泡立ってしまって「鬆」の原因になる(ただしこれは「悪くない鬆」だ)ので、75度ギリギリにしたい。ところが、75度ギリギリだと加熱に時間がかかり過ぎて、これもまた鬆の原因になる。というなかなかに悩ましい条件がある。
そこで今回は
湯温80度
で茹でることにした。湯の温度を監視して、80度程度になるように火加減を調整して、プラスマイナス2度くらいの範囲になるようにした。本来ならここを自動化したいところなのであるが、そのような機器が必要になることはあまりなくて邪魔にしかならないので、自動化欲は我慢しておく。
時間については見当がつかないので、時々プリンの芯温を計測したり、表面をつついたりして進捗を見た。芯温が75度になれば出来ているはずだ。
ということで、湯温を監視しーの、芯温を計測しーので茹でること8時間あまり。それでもしっかりとは固まってくれない。時間もないことなので、8時間ほどで中止した結果が、冒頭の写真のようなことである。
茹で上がったら水とかで粗熱を取り、冷蔵庫等で冷やす。今回はそんな時間がなかったので、氷水で冷やした。アルミの型なので、全体が水に漬かってなくても大丈夫だ。急がない人は、粗熱取りをしないでそのまましばらく放置しておくと、より凝固が進んでしっかりしたプリンになる。加熱をしなければ鬆の心配はなくなるので、冷め方の制御が出来るのであれば、冷えるまでの時間を加熱時間に含めて考えることも出来る。
考察
今回の失敗の原因は、加熱不足である。これを解決するには、
- 湯温を上げる
- 時間を延ばす
のいずれかである。
今回は写真で見るように、鬆はほとんど入っていない。もちろんゼロではないのだが、食感に悪影響を与えるような量でも質でもない(「悪くない鬆」だ)。そこで、もう少し温度を上げてやれば良いのではないかと思われる。
他方、時間を延ばすという手もあるのだが、監視する人力も8時間くらいで限界だと思った方が良いので、あまり良い手だとは思えない。まぁ、もっと時間に余裕を持ってやれば良かったのだろうが。
後、崩れてしまったのは、運ぶ時に型の中で崩れてしまったのではないかと思われる。なので、型の剛性を上げてやるか、運ぶ時に型が変形しないような工夫が必要だろうと思われる。具体的には、切り取った余分な部分で「タガ」を作ってはめてやるとか、木枠で囲むとかが必要だろう。
味については特に問題が感じられることもなく、教会でも好評であった。若干の鬆も単に気泡があるだけで「悪い鬆」ではなく、牛乳と玉子が分離した残念さはなかった。ただ、カラメルが不足気味だったとも言えるので、もうちょっと多めに入れても良かったかも知れない。