ビーフシチューであるが、結論から言えば失敗した。
味つけを間違えたわけはないし、肉もちゃんと食える。食えばそれなりに「俺って天才?」とか思うのだけど、これは失敗作である。なぜなら、焦げついてしまって、かなりスモーキーな風味になってしまったからである。
かき混ぜるのをサボったからだと言う言い方もあるのだが、もっと問題なのは鍋である。この鍋ではちょっと目を離すと焦げてしまう。
シチューというのは、かなり粘性が高いものである。だから、自然対流で混ざるのには、時間がかかる。自然対流に任せると、ゆっくりとしか混ざらない。そうなると、流体の温度差が拡散しにくくなり、局部的な熱の集中が起きる。これがある程度超えると、焦げる。シチューが焦げる原理はこれである。
もちろんこれを絶えずかき混ぜてやれば、局部的な熱の集中は避けられるから焦げつない。とは言え、こういった煮込みものの時にはそういった作業は難しい。また、強制攪拌はスープ類や煮込みものには、あまり好ましい結果をもたらさない。煮崩れの原因になったり、スープが荒れる元である。だから、できることなら強制攪拌はしたくない。
普通の寸胴の場合、材料がアルミでそこそこ熱伝導が良い上に肉が厚い。だから、そんなに酷い熱集中は起きない。底面全体に熱が拡がって行くのである。また、高級なシチュー鍋は、銅でできている。これも熱伝導がいいので、多少肉が薄くても問題ない。底面全体に熱が伝わってくれる。
ところがドンキで購入した寸胴は、ステンレスなのだ。また、肉がやたらに薄い。ステンレスにしては軽いというメリットがないわけではないが、元々ステンレスは熱伝導が良くない(一般論として、合金というのは熱も電気も伝導が良くない。同じような色の銅と真鍮では、桁が違うくらい伝導が違う)。こうなると、どうなるかと言えば、「ガスが当たったところだけ熱い」ということが起きる。鍋底全体に熱が伝わってくれないのだ。
対流は鍋全体のマクロ的な温度分布によって起きる。荒っぽいことを言えば、鍋の底面が受ける熱に比例する。だから、同じようなガスの強さであれば、銅だろうがステンレスだろうが、対流そのものはそんなに違うものではない。ところがステンレスの寸胴、それも肉が薄いとなると、この底面に激しい温度差が生じてしまうのだ。それが原因で焦げついてしまう。
また、一度焦げ始めると、それが元で焦げが拡がってしまう。実際、焦げたので一度鍋を洗おうと他の器に移したら、底全体が焦げていた。
そんなわけで、この寸胴はシチューに向いてないという結論に達した。もっと粘性の低い料理に使うべきである。スープ取りとかには使えるかも知れない。
# ステンレスってさびないから好きなんだけどなぁ。
考えられる対策としては、底面に何か熱伝導の良い金属を貼りつけて、ヒートスプレッドにすることか。しかし、その加工をどうやってやるかという問題があるのだ。ステンレスに半田は効きにくいし、鍋底にリベット打つわけにも行かず。それに直径22cmの銅板というのもなかなか…