中国民族楽器紹介 阮(ruan) 小阮・中阮・大阮・低音阮の4種類があるそうですが,よく使われるのは中阮と大阮です。 ●種類:弾撥楽器。ピックを使うか,または琵琶のようにつけ爪をつけて演奏します。 つけ爪を使わず,自分の爪を伸ばして弾いてもいいそうです(痛そう・・・) ふつう,合奏では音をしっかりだすためにピックを,独奏では表現力を高めるために 指をつかうことが多いようですが,教則本などではどちらでもいいとかかれています。 中国の楽器の検定試験でも,特に指定はせず,受験者が自由に選べるようです。 ●楽器構造
以下,同じように数本の弦をピックで弾くマンドリン族と比較ながら説明してみましょう。 ●大きさ:中阮・大阮の二つを比べてみてください。
●音域:中阮(G−d3)・大阮(C−a2) ●調弦 中阮 ・その1(G d g d1) ・その2(A d a d1) ・その3(G d a e1) 大阮 ・その1(DAda) ・その2(CGda) ※曲によって,また好みによって,それぞれ適当に変えるそうです。 大阮については,民楽ではその1が弾きやすいそうですが,マンドセロはその2と同じなので 経験者はこちらのほうがなじみやすいと思います。
●以上,取材協力:いちかは@エル○ノマン○リンオーケストラ →マンドリンど素人のしんちのしつこい質問に丁寧に答えてくれはりました。 ほんまにどーもありがとう! ●名前の由来 阮はもともと「阮咸」(げんかん)と言われてました。 これは人名で,紀元3世紀ころの中国に実在した人です。 当時の中国は三国志で有名な魏や晋という王朝があった時代です。 当意即妙・機知を重んじ,風流であることが貴族のたしなみだとされ, なかでも「竹林の七賢」と言われるグループが随一だと言われていました。 彼らは竹林に遊び,自由を楽しんだ隠者たちです。 阮咸のほか,阮籍・ケイ康・山濤・向秀・劉伶・王戎ら7人がメンバーでした。 彼らは「清談」という世俗を離れた議論を好んだほか,音楽に巧みなものもいました。 音楽も,この時代では教養として必須ものだったのです。 例えば阮咸は「琵琶」が,阮籍(210-263)やケイ康は「琴(キン)」が得意だったとされています。 「え?阮咸が琵琶?」と思われる人もいるかもしれません。 しかし昔は弾撥楽器の総称として「琵琶」という語が用いられていたのであって, 実際,阮咸が得意だったのは「阮」だと推測されてます。 このことから,楽器自体が「阮咸琵琶」と言われるようになり, のち,唐のころになると,ただ「阮咸」と称されるようになりました。 それがもっと省略されて,いまでは「阮」と言います。 後世では,「阮咸が作ったから阮咸と言うのだ」と誤解されていたようですが, 阮咸はこの楽器の演奏が得意だった・・・ということは,阮咸が生きていた時代は すでにこの楽器が存在したことになりますね。 竹林の七賢たちと音楽のエピソードは,そのうち「おまけのページ」の中国民楽故事などに 載せますね。 ●楽器の変遷 その後,元代になって,民間に流行しますが,その後はだんだん廃れてきました。それまで,いろいろ改良がなされていた阮も ほとんど進歩しなくなりました。しかし,1930年代になると,またその存在が見直されるようになりました。 当時,上海において初のアマチュア民族楽団とされている「大同楽会」では,いくつかの民族楽器を復元したのですが, 「阮」もこの時復元されました。 40年代になると,江蘇省のまち無錫の楽団において,民間で使われていた阮をもとに,大きいもの・小さいものも作りだしました。 このとき,大中小阮の原型ができたとされています。 また,この時期,それまで中国の音律に基づいて品を並べていたのを,十二平均律に基づいた排列に変更し,ほぼ現在の阮と 近くなりましたが,まだ表面に音孔はなかったそうです。 中華人民共和国が成立してからは,また改良が加えられます。まず中央音楽学院(このころは天津にあったそうです)の学生,張子鋭が低阮(大阮より大きい阮)を作り, その経験を生かしてさらに大阮が作られました。 このとき,昔の図を利用して阮に三日月のかたちの音孔をあけると,音量が飛躍的にでかくなったということです。 張さんは卒業後,北京中央人民広播楽団で作曲を担当しますが,このとき小・中・大・低阮の系列を作り上げ, 阮4種がそろい踏みしました。 彼はその後も楽器の改良・作曲・演奏・レコーディングなど八面六臂の活躍をしてこの楽器に情熱を傾けましたが, 残念なことに文革の波にのまれて,彼の事業は完遂することができなかったのです。 一方,50年代後期,中央広播楽団の王仲丙さんもいろいろ工夫をしましたが,音孔を三日月の形から丸く変更するなど, プチリニューアルにとどまりました。ただ彼の功績は縛弦を取り付けたことで,これはのちに職人さんによっていろいろ改良され, より弾きやすく,丈夫で,一定の音響がえられるものへと改良されていきました。 このように,さまざまな人の手を経て,いまや阮は中国民族楽器にかかせない存在となったのです。 ●参考文献 ・汪崇国編著『阮名師指点』(湖南出版社集団・湖南電子音像出版社,2001) ↑りんずさんの本です。貸してくれてありがとう! ・楽声著『中華楽器大典』(民族出版社 2002)160〜164頁 |