「里ネット」の小学生向けのペ−ジです。

 小学生の森林教室 

        「コナラの林と農業について」
 (0) アサザの花
    

 栃木市の「花の江の郷」で2004/07/29撮影:Nikon D70 使用

        「コナラの林と農業について」
 
  日本の国は、今のように工業の盛んな社会ではなく、長い間、農業をいとな 
 む社会でした。工業の盛んな国にかわったのは、40年ほど前からです。

      

        「コナラの林と農業について」
 
 (一)田畑と有機物(ゆうきぶつ:主に落葉)

  田畑に肥料(有機物)を入れずに作物をつくりつづけると、年々収穫が減り、
 しまいには田畑に作物が育たなくなり、収穫がなくなってしまいます。
  日本人は、農耕民族として、この国に二千年以上にわたり、稲をつくる農業
 をしてきました。しかも収穫を落とすことなく農業をつづけてきたのです。
  そのもとになったのは、「施肥」(せひ:有機物を補う)という知恵です。
 この知恵のおかげで農耕社会をつづける事ができたのです。 

      

        「コナラの林と農業について」
 
 (二)施肥には

  前後してしまいますが、「施肥」(せひ)とは田畑に「肥料を入れる」こと 
 です。気どって、むずかしくいっているだけです。肥料のことを昔から「こや
 し」(肥やし)といい、田畑に肥料すなわち「こやし」を入れることを、「こ
 やしをやる」といってきました。中国ではこの「こやし」を「糞」(ふん)と
 いいました。
  では、どのような「こやし」を使ってきたのでしょうか。元という国の王
 (おうてい)という人が十三世紀(今は二十一世紀)に書いた「農書」(のう
 しょ:お百姓の参考書)によると、古い時代から下のような肥料が使われてき
 たそうです。王驍フ本に書いてあることから考えると、やまたい国の「ひみこ」
 の時代にはすでに使われていたということになるようです。
   苗糞(びょうふん)・・・レンゲソウ
   草糞(そうふん)・・・刈り敷き
   火糞(かふん)・・・草木灰
   泥糞(でいふん)・・・河床(船泊などの)の泥土
   堆糞(たいふん)・・・堆肥
   石灰(いしばい)
   生糞(せいふん:大糞・小便)・・・人糞(じんぷん)
  これらの「こやし」は、昭和30年ごろの日本の農家でも、普通に使われて
 いました。

      

        「コナラの林と農業について」
 
 (三)最もたいせつとされた肥料

  長い年月農耕をつづけて来た先祖の間で、最もたいせつとされて来た肥料は 
 堆肥(たいひ)です。堆肥は落葉を厩舎(うまや)に入れて、ひと晩牛や馬に
 ふませて糞と尿のまじりあったものを、肥庭(こいにわ)に積み上げておき、
 醗酵(はっこう)させたものです。醗酵することにより分解(ぶんかい)され
 やすくなっています。
  堆肥と腐葉土の大きなちがいは、腐葉土はただ落ち葉がくさっただけのもの
 で、堆肥は醗酵して出来たものです。醗酵により、落ち葉の中にいたわるい生
 き物はみんな死んでしまいます。
  私たちの先祖は、山や野をあちらこちらへ移動しながら狩りをしたり、魚を
 とったり、草木の実をとって食べ物とする生活を長いあいだつづけてきました。
 そのあいだに、醗酵ということを知り、それを知恵として生活に生かしてきま
 した。その応用(おうよう)の一つが堆肥を作ることだったのです。
  しかも、良い堆肥を作るにはコナラ・クヌギ・ミズナラなどの葉がいちばん
 よいことも知っていたようです。これらの木は薪や炭としても火力がつよく、
 火の持ちもよいことも知っていたようです。
  先祖たちは、定住生活(ていじゅうせいかつ:家をつくってきまったところ
 に住むこと)をはじめるとこれらの木々を里のまわりに植えたのです。

      

        「コナラの林と農業について」
 
 (四)コナラ・クヌギ・ミズナラの歴史

  里ネットのメンバ−である植田江見子氏のまとめられた「蝶の食草」から、 
 コナラ・クヌギの林の蝶をひろい出してみました。ついでに常緑広葉樹の林の
 蝶も調べてみました。
 (注)常緑広葉樹(じょうりょくこうようじゅ)
    冬も葉のついている木のことです。カシのなかま、シイのなかま、ク
   スノキのなかま、などのことです。

  予想した通り、コナラ・クヌギの林にはたくさんの蝶がすんでいることがわ
 かりました。それにたいし、常緑樹を食べものとする蝶はわずかしかおりませ
 ん。これは昆虫についても同じことが言えるでしょう。
 (注)食草とする蝶の種数
   ★ コナラ・クヌギ人工林の例
   コナラ 14種、クヌギ 10種、ススキ 14種、チガヤ 10種、
   タチツボスミレ 9種、アズマネザサ 5種、
   ★ 常緑広葉樹林の例
   アカガシ 5種、アラカシ 4種、ウラジロガシ 4種、クスノキ 1種、
   タブノキ 1種 
  コナラ・クヌギ人工林では、わずか、6種類の草木に蝶が62種るいもすん
 でいるのです。これは人が長い期間にわたり、コナラ・クヌギの林をだいじに
 してきたことを示しています。その間にコナラ・クヌギの林には、そこだけの
 生き物の世界(生態系:せいたいけい、または、ビオト−プ)ができあがって
 しまったのです。
  これに対し、常緑広葉樹林(じょうりょくこうようじゅりん)は、草木の数
 も少なく、それを食べる蝶の種るいも少なく、コナラ・クヌギの林にくらべて、
 きわめて貧弱(ひんじゃく)な生きものの世界であると言うことができます。
 コナラ・クヌギの林のなかには、たくさんの草木がありますが、常緑広葉樹林
 のなかには、日のひかりがさしこまないので、ほとんど草木はありません。  
  コナラ・クヌギの林を手入れをしないで、荒れるままにしたり、一部の学者
 (宮脇昭氏や峠田宏氏など)のいうような、常緑樹を主とする森づくりを進め
 るならば、多くの生き物がほろびてしまうことは明らかです。

      

        「コナラの林と農業について」
 
 (五)コナラ・クヌギの森を守る

  皆さんのまわりにある雑木林(ぞうきばやし)は、人びとが農業をするため 
 と、煮炊き、風呂や暖をとるために必要なエネルギ−(薪や炭)を手に入れる
 ための必要から仕立てられたもので、長い間、コナラ・クヌギの林として使わ
 れてきたものです。その長い歴史の間に、今生き残っている生き物がその環境
 にあった豊かな生きののの世界をつくっててしまいました。
  ところが、今は、人々は農業をやめて、工業に力を入れ、収入を工業やサ−
 ビス業から得るようになってしまいました。肥料も工業生産にたより、堆肥な
 どは使わなくなってしまいました。また、トラクタ−などの農業機械をつかう
 ので、家畜を飼うこともなくなり、飼(えさ)の草を刈る必要もなくなってし
 まいました。エネルギ−も石油に代りました。コナラ・クヌギの林の使い道も
 なくなり、管理も行われることなく、放置されることになりました。
  そのようなわけで、コナラ・クヌギの林の環境はどんどん悪化し、草木もそ
 れを食べていた動物も生きていけなくなり、絶滅の心配される生き物の種が日
 を追って増加しています。 
  雑木林(コナラ・クヌギの林)の生きものの世界(生態系)をまもり、そこ
 にすんでいる生き物を滅ぼさないようにするには、先祖から伝えられた手入れ
 の仕方で、コナラ・クヌギの林を今まで通りの姿でのこしていくことが大切で
 す。
  日本の国土の66%は森林です。昔からの姿でこれを保っていくことは、容易
 なことではありません。でも、「生物の多様性を保全」していくためには、み
 んなで力を合わせて、そのために必要な手立てをしていくしか仕方がありませ
 ん。
 (注)「生物の多様性を保全」
   地球環境問題といわれている、大きな問題があります。そのなかでも特
  に大きな問題がこの「生物の多様性を保全」という問題です。色々な生き
  物がみな滅びることなく生きていけるようにする、というむずかしい問題
  です。
   森を壊すことが、いちばん困ったことなのです。

      

        「コナラの林と農業について」
 
 (六)森を手入れするために

  森を手入れしていくためには、森についての正しい知識をもつこと、森を手 
 入れする正しい方法が無くてはなりません。これを間違えると、多くの生き物
 を滅ぼすことになることは、(四)の説明から、お分かりいただけたことと思
 います。
  森はたくさんの自然のからくりや生き物の生きる仕組みからできています。
 その中のごく一部しか知らない者が勝手なことを始めれば、生き物の世界は壊
 れてしまい、多くの生き物が生きては行けなくなります。
  また、森の持ち主が欲張りで、お金もうけだけを考えて、森をつぶして、ほ
 かのことに使ってしてしまえば、森の生き物は死んでしまいます。人びとがむ
 やみに欲張ってはいけないし、できるだけ質素に生きていかなければいけない
 のではないでしょうか。
  森の持ち主には、森を森として正しく保って行く責任があります。国には、
 森を森として維持していくために、森の持ち主をしっかり監督していく責任が
 あります。こういうことが大切です。

      

        「コナラの林と農業について」
 
 (七)終わりに(森の働きを二つだけ)

  森には、私たち人間だけではなく、すべての生き物が、生きて行くために必 
 要な、水を
   ・貯(たくわ)え
   ・濾過(ろか)し
   ・浄化(じょうか)し
   ・消毒(しょうどく)し
   ・少しずつ流し出す
 という、大切な働きがあります。
  今、世界中の人々が心配している問題に「地球環境問題」があります。その
 中の「温暖化」を防ぐためには、もとになる物を大気中に出さないことが大事
 なのですが、出てしまった原因になる物の中でも最も温暖化に関係がある二酸
 化炭素を大気中から吸収する方法は、いきいきとした森をつくることのほかに
 良い方法はないのです。森の木々が生長すれば、それだけ大気中の二酸化炭素
 が減ることになるからです。これも森の大切な働きです。
  しかし、お金もうけに夢中になると、そういう大切なことを忘れがちになり
 ます。あるいは、自分が守られている筈の環境のありがたさを忘れて、どんど
 ん森を破壊してしまいます。気の付いたときには手のつけようがなくなってし
 まうのです。
  そう言うことにならぬためには、意識して、森を大切にたもって行かねばな
 りません。森の働きを知ることは森を大切にする第一歩です。

      

        「コナラの林と農業について」
 
 (八)森を保つための技術

  森を保っていくための技術は、先祖から伝えられた技術が大半です。経験の 
 多いことがものをいうレベルの技術が多いのです。
  ・木を植える
  ・木を育てる
  ・木を伐る
  ・材を運ぶ
  ・材を製材する
  ・材を加工する
 といったことにかかわるものです。
  森を保つために使う、直接の技術は、「木を植える」ことから、「木を伐る」
 「木を運び出す」までのものです。こういう技術は、本を見て理解できるもの
 ではなく、実際にその作業をしてみて得られるもので、経験がものをいうので
 す。
  技術は、木を植えることのような容易いものから、架線集材(かせんしゅう
 ざい)のような高度なものまであり、その習得は簡単ではありません。その上、
 近頃は高性能林業機械の利用も視野に入れなければならず、技術習得は一層簡
 単ではなくなってきました。
  森林作業では、その基本は「安全」にあるので、経験の積み重ねが益々重要
 さを増してくるのです。森林管理は、体験教室のような遊びとは異なり、生命
 をかけた厳しい作業の分野です。豊富な経験と優れた技術を持っていても、油
 断をし、ミスを犯せば、何十年も仕事としてきた職人の命さえ奪われるのです。
 (2005/06/25)

      

        「コナラの林と農業について」
 
  この文は2005年6月30日に、川越市立武蔵野小学校において、三年生にコナ 
 ラの林で、解説をしたときに、後で、読んでもらうようにと書いたものです。

      

        「コナラの林と農業について」
 (5) 萩(ハギ)の花
    
  2004/10/08 向島百花園で Nikon D70使用  

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