夜深沈(剣舞) yeshenchen(jianwu) 古典楽曲

もともと京劇の音楽で,“夜深沈,独自坐……”という歌詞より『夜深沈』と名付けられました。 これを京劇の女形で有名な梅蘭芳(1894-1961)が, 『覇王別姫』で項羽の愛人虞姫が剣舞を舞うシーンに取り入れ, 以後『剣舞』とも呼ばれるようになった・・・そうですが,この曲にはさらに前史があります。

京劇に取り入れられる前は,『思凡』という昆曲の中の一節,「風吹荷葉sha」 (sha=急の上と攵,その下にれっか)の一部をもとにしており, それを,歴代の京劇の京胡演奏家が長年のあいだに発展させて,現行曲になったと言われます。

昆曲は本来は蘇州・昆山の地方劇ですが,それがなぜ京劇の京胡演奏家が手がけるようになったか ということに及ぶと,そこに昆曲の歴史が絡んできます。

さかのぼること200年前,時代は清代のころですが,昆曲は南方にとどまったものと 北方で発展したものと2つに分かれました。後者を「北昆」といい,北京や河北省一帯に 伝えられて,京劇に大きな影響を与えたとされます。そのときに『思凡』も北京にうつされたのでしょう。

本曲は段階的にテンポが速まり,項羽と劉邦の激烈な戦いと, 項羽と虞姫の悲劇的な運命を表現しています。

で,二胡のテキストに「剣舞」として掲載されている楽譜(三級相当)は, もとの「夜深沈」より簡単になってます。 私は以前習っていたJ先生の指導で,曲の前後に京劇で使われる銅鑼の音を模倣した 数小節を付け加えて演奏していました。(04/03/15)

※出典データ:
・上海音楽出版社編『中国音楽欣賞手冊』(上海音楽出版社 1981)206頁
・村松一弥『中国の音楽』(勁草書房 1965)87〜88頁

※注)この文は2000年秋に,そのJ先生が来日したときのプログラムとして 私自身が書いた文をもとにしたのですが,上記出典に記された以外のことも書いてあるのです。 自分が何を見て書いたのか,その出典が分からない〜。

※追加:譜面・音源リスト(自分が把握してるものだけ。060806追記)

★譜面
●京胡譜
・宋国生・宋飛著『胡琴家族演奏入門』194頁

●二胡譜
・趙寒陽・湯宜退選編『二胡演奏京劇曲調100首』10頁
・王国潼・趙寒陽編『二胡風格練習曲158首』3頁
・趙寒陽編著『二胡中級教程』67頁

●合奏譜
・劉湘編『劉明源胡琴作品集・下冊』

★音源
●京胡
・CD『中国楽器大全(二)拉弦楽器』5曲目
 
呉華編曲 張素英演奏 上海民族楽団伴奏

・CD『劉明源記念専集 CDU』1曲目
 
劉明源編曲・演奏(1989年) 楽隊伴奏

・CD『黄安源十二種胡琴(胡琴大師黄安源専輯9)』12曲目
 
黄安源演奏 楽隊伴奏

・CD『弦韻(曹徳維胡琴独奏)』1曲目
 
呉華編配 曹徳維演奏(1993年) 中国音楽学院民族楽団伴奏

・DVD『朱昌耀二胡独奏会(下集)』1曲目
 
朱昌耀編曲・演奏(1995年) 中広国楽団伴奏

・CD『中国拉弦楽精選』4曲目
 
王志偉編曲・姜克美演奏 中国広播民族楽団伴奏

・DVD『新世紀中国交響音楽会』7曲目
 
呉華編曲・姜克美演奏(2001年) 中国広播民族楽団伴奏

・CD『夜深沈』1曲目
 
李民雄編曲・李民雄(打)・尤継舜演奏 上海音楽学院民族楽団伴奏

・CD『香楽飄飄』3曲目
 
上海音楽学院民族楽隊伴奏

・CD『第一鼓』5曲目
 
姚利(京劇)・エン(門構えの中にク+臼)学敏(打)演奏

・CD『神州鼓魂』9曲目
 
陳佐輝(打)演奏 広東歌舞劇院民族楽団伴奏

●二胡
・CD『山東の古楽〜山東地方の民俗音楽と伝統的器楽曲』10曲目
 
リュウ・チーシェン(月琴)・リュウ・フェンタイ(笙)・コウ・ミンチョウ(ナンフー)演奏
 注:ナンフーとは南胡のことでしょう。別に,この曲と山東は関係ないっす。

●弾撥
・CD『国楽精華』6曲目
 
中国弾撥楽団演奏

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