瑤族舞曲 yaozu wuqu 劉鉄山・茅yuan作曲 彭修文編曲

  ※yuan=さんずい+元

雲南省は雲貴高原にある省都昆明を中心とする省です。
昆明が「四季如春」といわれるように,穏やかな気候に恵まれ,また多くの少数民族が雲南省に生活しています(瑤族もその一つ)。 その民族的多様性を反映するかのように,多くの音楽が雲南省で好まれ,発展していきました。

雲南省の代表的な戯曲音楽である「花灯」も,もとはタイ(にんべん+泰)族から生まれた曲といわれます。
そしてこの「瑤族舞曲」も・・・。

●曲の由来●

 これは,1999年10月1日に,中華人民共和国成立50周年に発行された「民族大団結」シリーズ 全56種の一つ,瑤族のものですが,男性が持っている太鼓に着目。これが瑤族の代表的な打楽器である「長鼓」です。

 「長鼓」は,大きく分けると「小長鼓」「大長鼓」「(黄ni)母鼓」「銃鼓」の4種類あるそうですが, 主なものが「小長鼓」「大長鼓」だということです。       ※ni・・・土+尼

この太鼓がそのいずれかは不明ですが,瑤族はこれを叩きながら踊るんだそうです。

(この画像は,より入手しました。ありがとうございました。)


さて,太鼓を叩きながら踊る瑤族のメロディに最初に着目したのは劉鉄山です。 彼は瑶族の民謡を元に『瑶族長鼓舞歌』という曲を作りました。

それを茅yuanがオーケストラ曲に編曲,さらに彭修文が民族管弦楽曲に作り替えたというわけです。

ちなみに,とあるマンドリン楽団でこの曲をやったそうですが, その和音進行が天昇でやっているものと違うようなんですね。 最初は中国の楽譜によくある記譜の間違いかと思ったのですが, 音源を聞いてもミスはなかったようです。

おそらくうちらが使ってる彭修文編曲のバージョンは,オケの西洋風な和音進行を民楽風にした結果, 単純な和音進行になったのかもしれません。一方,マンドリン用はもとのオケのスコアから アレンジした可能性があります。

このような和音進行の違い(おもに民楽が単純)は,「吐魯番的葡萄熟了」に大阮で伴奏をつけて もらったときにも実感しました。そして,自分がかなり「中国民楽風」な頭になっているな, ということもしみじみと思ったりしました。

演奏会をすると,いつもアンケートに「日本の曲を中国風にアレンジしたものを聞きたい」と書かれているものが ちらほら見うけられますが,このへんのことをつきつめていけば,「中国風」なるものの実態が分かって アレンジも可能になるかもしれないと思いました。いや,「思っただけ」ですが・・・・。

●構成●
閑話休題。さて「瑤族舞曲」は,瑤族のおまつりで人々が集まって踊る様子を いきいきと描写している曲です。素朴でのびのびとしたメロディが印象的な曲ですが, とくに,第1段の高胡の美しいメロディは日本人にも好まれるようです。

前奏につづき,賛歌・夜曲・再現(総述)の3部構成になっています。

《第1段 賛歌》
夜になると,人々はせいいっぱいの盛装をして,長鼓を叩きながら月光の元に集まる。 高胡が嫋々と奏でる主題は,あたかも年頃の少女がかろやかにそしてしなやかに踊っているようである。 そのうち,女性たちがどんどん踊りの輪に加わっていき,次第に気分が高まってくる。 突然,三弦と大阮(天昇では中音笙)が主題を発展させた力強い旋律を奏で, 娘たちの踊りに触発された若者たちが耐えきれずに踊りの輪に飛び込んで, 自らも一緒に踊り出す様子をあらわし,あたりは興奮に包まれてくる。

《第2段 夜曲》
ここで転調。3/4のリズムにのって歌うような旋律が奏でられ,ときおりかるく跳ねるような軽快なリズムが挿入される。これは一組のカップルが歌ったり踊ったりしながら, お互いに気持ちを通わせながら,明るい未来を夢見るような感じ。

《第3段 再現(総述)》
主題の再現。いっそう多くの人が加わって舞い踊り, 回り,歌い,だんだんと感情が高まっていき強烈なクライマックスに突入する。

●「瑤族舞曲」の元ネタさがし●
さて,曲のもとになった瑤族(ようぞく・ヤオぞく)は,おもに広東省・広西省・雲南から 東南アジアにかけた地域にすんでいて,中国国内ではおもに広西省チワン自治区に多いとされています。
そして,瑤族とひとくちにいっても,そのなかにたくさんの種類があるそうです。
瑤族は大きく分けて「勉瑤」「布努瑤」「拉珈瑤」「宝慶瑤」の4つに分かれます。そして,さらに細かく以下のような 支族(ちいさい部族)にわかれるそうです。

 「勉瑤」・・・過山瑤土瑤・板瑤・藍dian瑤・排瑤     ※dian・・青+定

 「布努瑤」・・・略
 「拉珈瑤」・・・略
 「宝慶瑤」・・・略

うち,『中国音楽欣賞手冊・続集』には,上記の各族のうち,下線部分の支族の音楽が紹介されています。
まず,そちらのほうを眺めてみましょう。


●瑤族の音楽●


★過山瑤・・・拉発調
    以下の2つの種類があり,それぞれがさらに細かく分かれます。

     a1) 長調唱法 “跟声”二人の輪唱。一人が歌ったあと同じようにまねてうたう。
             独唱 一人でうたう。
     a2) 短調唱法

     b)“講歌”


★土瑤(本地瑤とも)・・・坐歌堂調
    以下のような次第で行われるそうです。

     1)“起歌頭” 老人が「歌堂」の始まりの合図に歌う。
     2)“天光調” 若い男女が夜半に歌い,気持ちを確かめ合ったり,離れがたい思いを歌う。
     ・・・1)と2)の間に,各自が自由にいろんなことを歌って良い時間がある。
     3)“lan路歌” 客の送り迎えの時に,迎える主人が客の前を阻んで「知恵比べ」的な感じで歌う。
        ※lan・・欄のきへんをてへんに


★排瑤・・・shua歌堂調        ※shua・・而の下に女
    「shua歌堂」は,3〜5年に1回開かれ,あちこちの支族がじゅんぐりに行ったりするそうです。
    代表的な形式では,これもやはり老人の歌から口火をきります。昼間のうちは男性がおもで,
    女性は見ているだけです。未婚の女の子は,その間にええ男がいないか物色しています。
    夜がくると盛大にかがり火が焚かれ,男女の「歌垣」へと進んでいくそうです。
    あちこちに居住する排瑤は,ところによってはさらにこまかい支族に分かれ,それぞれ 音調が異なることもあるそうです。


★布努瑤・・・青年調・老年調
    彼らは男性グループと女性グループが分かれて,いわゆる「混成2部合唱」の形で歌垣を行います。
    その形式は下の二種類に分かれます。多くは前者で,後者はまれだそうです。

    a)青年調:男性が主で,女性は男性のメロディを模倣するようにつける。

    b)老年調:青年調に比べ,男女グループのリズム・メロディが異なっていて独立性が高い。



さて,これらのうち,劉鉄山がもとにした瑶族の民謡とはどこのものなのか, という疑問が生じますが,以上の曲説明をざっとみるかぎり,“歌垣”の要素の濃い「排瑤」から 来たっぽいかんじがするのですが・・・。まあこれはあくまでも推測に過ぎませんけどね。

また詳しいことが分かれば更新したいと思います。


※演奏データ:
・これも短い曲ですが,強弱や主題ごとの曲調にメリハリを付け,
 一気にひききったらなかなか聴きごたえのある曲です。
 とにかく,明るくて軽快,しかもめでたい曲なので,楽しく弾きましょう!

※出典データ:
・上海音楽出版社編『中国音楽欣賞手冊』(上海音楽出版社 1981)235頁
・上海音楽出版社編『中国音楽欣賞手冊・続集』(上海音楽出版社 1989)141-145頁
・費師遜・陸炳蘭「瑤族伝統音楽」(田聯韜主編『中国少数民族伝統音楽・下』第49章(1621-1683頁)中央民族大学出版社,2001年)
・中国芸術研究院音楽研究所編『中国近現代音楽家伝 第2巻』(春風文芸出版社 1994),540頁

(05/02/01 up)


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