これはウイグル族の音楽を題材としている曲です。

若い娘がささやくようにうたうメロディが胸を打ち，多くの人に愛されたこの曲は， １９８０年に「優秀通俗歌謡」に選出されたそうです。

題の「吐魯番」はトルファンの漢字表記。トルファンは新疆ウイグル自治区の都市で， 私は1999年夏に留学生の卒業旅行の一環として行ったことがあります。 季節的には少し早かったのですが，町のあちこちに葡萄が売られていました。 黄緑色の，細長い粒の葡萄です。また非常に見応えのある遺跡も多く，強く印象に残っています。 もし機会があったら，このＨＰに旅行記でも載せたいですね。

●施光南そのひと●
さて，このように民族的特色あふれる曲を作ったのはウイグルの人ではないかと うっかり思うところですが，実は作曲者の施光南（1940〜）は四川重慶の人です。 中央音楽学院附属中学校・天津音楽学院で音楽を学びました。 若い頃から各地の民謡を模倣した曲を多く作っていたそうです。 なかでもこの「トルファン〜」は彼の代表作の一つに数えられているとか。

●歌詞とその訳●
歌詞は，表面上は「彼女」という三人称をつかいながらも， 実は遠くはなれた恋人を待つ自分自身の熱い想いを歌っています。
いわゆる短調の曲なので，歌詞を読むまで恋人が戦死したとかなんとかいう 悲しい歌だと思いこんでいたのですが，実際は全然違いました。

中国の音楽って，長調短調という概念ってあんまりないんですよね。
では，歌詞は以下に。訳のつたなさは気にしないで下さい。

※著作権を侵害するかもしれないので，中国語の歌詞は削除しました（05/01/10）

　愛するクリム（克里木）は兵士となって辺境の歩哨につくため従軍していった。
　彼が出発の間際に植えた一株の葡萄。
　果樹園の娘アナーハン（阿娜爾罕）は，この小さな苗をたんせいこめて育てた。

　雪解け水をひいて苗に播き，支柱をたてて日光にあてた。
　葡萄の苗は肥沃な土壌にしっかりと根を張り，
　長くながく蔓を伸ばして娘のこころにしっかりと巻き付いた。
　葡萄園に幾度も季節が通り過ぎていき，
　小さな苗はすでに大きくたくましく育った。

　枝という枝に葡萄がたわわにみのったころ，
　クリムが手柄を立てたという吉報がとどく。
　ああ，娘は彼の任地である雪山の歩哨所をはるかにのぞみながら，
　甘く実った葡萄を一房摘みとった。
　トルファンの葡萄が実った，アナーハンのこころも酔いしれた。

●構成●
２部形式。全曲に新疆民族の歌舞にみられる手鼓の典型的なリズム（たたーんた　たったっ）に のって，フレーズが上行，あるいは下降しながら発展していく形を取っています。
音域は１０度と狭いが，民族的風格が色濃く表れ，新味のある味わい深い作品です。

なお，この曲は張飛龍・張建国によって二胡二重奏に編曲されています （『二胡重奏練習曲楽曲２０首』56頁）。
０４年２月８日の八尾プリズムホールの公演では，この二胡二重奏を基本に，
りんずさんアレンジの大阮の伴奏をつけて，三人で演奏いたしました。

※出典データ：
・上海音楽出版社編『中国音楽欣賞手冊』（上海音楽出版社 1981）57・547頁